繋がりと温もりを希った少女『君は雪間に希う』

 この作品は、乙女ゲームファンを公言しているお笑い芸人ハライチの岩井勇気さんが、オトメイトとコラボする形でプロデュースした乙女ゲームです。

 芸人の方がプロデュースされるから、明るくて面白いコメディチックな作品になるのかなと思っていたら、予想に反して切なげな雰囲気の溢れる作品が発表されて、当時とても驚きました。岩井さんの乙女ゲーム好きが相当なものだと感じましたね。乙女ゲームが本気で好きでなければ、このような切ないシナリオは展開できません。

 因みに、岩井さんはオトメイトの名作『CLOCK ZERO ~終焉の一秒~』の大ファンだそうで。


 その影響もあってか、この作品のイラストは『CLOCK ZERO ~終焉の一秒~』でお馴染みのTeam.ナガオカさんが担当されています。



『君は雪間に希う』



 今年7月に発売されたばかりの新作であるため、上記本編のみの展開となっています。今後の展開が期待される新星ですね。



 主人公は「紗乃」。人里離れた山奥で、ずっと独りで暮らしてきた少女です。

 少しおっちょこちょいなところはありますが、素直で優しい女の子。

 そんな紗乃には特別な能力がありました。それは、人の感情が糸となって見える力。感情によって糸の色は変化します。

 しかし、そのせいで紗乃は不吉な娘と蔑まれ、子供の頃に暮らしていた村から追い出されて、人の寄り付かない山奥に追いやられてしまっていました。母親は早くに他界し、唯一の肉親であった父も他界してしまったため、天涯孤独の身でした。

 紗乃は山奥で慎ましく暮らしながらも、心のどこかで他人の温もりを求めていました。



 享保11年。江戸では異形が跋扈し、人々が慄いていました。

 ある日、紗乃の前に見知らぬ青年が現れます。紗乃は遭難者かと思いますが、予想に反して青年は紗乃を探しに来たと告げます。

 青年の名は篁智成。江戸幕府の「裏の御庭番」に所属する侍だと名乗ります。そして、時の将軍である徳川吉宗が紗乃を呼んでいると言うのです。

 紗乃は困惑しながらも、篁の手を取り、江戸に赴くことを決意します。

 そして、紗乃は自身の能力や出自に関する真実を知らされることとなるのでした。



 それでは攻略対象の紹介をしましょう。

 この作品における特徴として、攻略対象が全員人間ではない点があります。

 攻略対象は「奇虚きこ」という特殊な生命体です。神懸かりによって与えられる人間の肉体に、道具の魂(付喪神のようなもの)を憑依させています。奇虚は陰陽師が生み出したものであり、江戸に跋扈している異形「宵禍よいか」の殲滅に特化した戦闘要員として造られました。

 人間の肉体ですので、見た目は人間と何ら変わりありません。しかし、決定的な違いがあります。

 彼らには心がないのです。



 篁智成たかむらともなり(CV小林裕介さん)


 武家町を担当する青年。裏の御庭番の中では、奇虚として目覚めて最も日が浅い新人です。

 穏やかな雰囲気ですが、どこか素っ気ない態度が目立ちます。ぼんやりとしていることも多め。しかし、紗乃には特別なものを感じるらしく、他者には見せない優しさを向けます。



 東条國孝とうじょうくにたか(CV前野智昭さん)


 武家町担当。篁と一緒に、田舎に住んでいた紗乃を迎えに行きました。

 温厚な兄貴肌で、後輩である篁や紗乃を可愛がります。しかし、構い過ぎるせいで、篁からは鬱陶しがられている様子。紗乃からは信頼を得ています。

 また、飼っている雀の「こまめ」からも何故か嫌われてしまっていて、不憫枠です。



 与市よいち(CV山下誠一郎さん)


 城下町担当。表向きは酒屋の番頭として働いて、情報収集に当たっています。

 面倒臭がりな性格で、いつも気怠げにしています。思ったことをそのまま口にするため、容赦なく辛辣な言葉を向けることも。

 表裏のない性格からか、動物に好かれやすく、こまめにも懐かれています。食いしん坊で、尋常ではない量の食事を摂ります。



 久賀源十郎くがげんじゅうろう(CV佐藤拓也さん)


 城下町担当で、与市の先輩に当たります。冷静で、真面目な性格。

 戦闘力が高く、宵禍戦において実力を発揮します。

 普段は番方として城下町を巡回し、宵禍出現の徴候がないか確認しています。癖のある性格をしている与市の面倒を、しっかりと見ている良い先輩です。

 宵禍討伐に役立つとされる紗乃の能力について興味がある様子。



 錦次きんじ(CV浪川大輔さん)


 娯楽街担当。比較的初期段階に造られたため、奇虚の中では年長者に入ります。普段は女役の歌舞伎役者として働き、情報収集をしています。歌舞伎役者として、大衆に人気があり、江戸では有名人。

 人を揶揄うことが趣味で、紗乃をよく玩具にしています。

 見た目に似合わず馬鹿力であるため、加減を誤って物を壊すこともしばしば。



 桜太郎おうたろう(CV斉藤壮馬さん)


 娯楽街担当で、錦次の後輩。呼び込みの仕事をしながら、情報収集に当たっています。

 社交的で明るい性格であるため、誰とでも仲良くなれます。紗乃とも、すぐに打ち解けることが出来ました。

 身体能力が高く、身のこなしも軽いため、宵禍戦においては素早い動きで相手を翻弄します。錦次との連携も見事。

 少しお調子者なところがあり、失言をして錦次に叱られることも多々。しかし、持ち前の人懐っこさから、要領よく世渡りをしています。



 それでは感想を。


 独特な世界観でしたが、とても慣れやすかったと思います。取っ付きにくそうに見えて、初心者向けの作品と言えるでしょう。

 王道な展開が多く、初めて乙女ゲームに触れる方でも比較的プレイしやすいと思います。と言っても、ある程度残酷な展開も見られるため、乙女ゲームに慣れている方でも楽しめるのではないかと。


 個人的にはBGMが気に入っていて、切なげな雰囲気の曲が多く、世界観にマッチしていると思います。

 また、この作品は攻略対象達の仲が良く、わちゃわちゃと楽しそうにしているシーンがよく見られます。攻略対象同士の掛け合いが好きなので、こういう作品は好いですね。また、サブキャラにも魅力的なキャラクターが揃っていて、攻略対象以外のキャラにもハマることが出来るでしょう。


 何より、この作品におけるマスコット枠「こまめ」がとても可愛い。初対面の紗乃にすぐ懐き、彼女が飼うことになるのですが、何気ない瞬間に可愛さが炸裂してくれます。紗乃とこまめはセットですよ。

 こまめの手乗りサイズぬいぐるみが出てくれたら、きっと即買うと思います。オトメイトさん、商品化いかがでしょうか。


 個人的には、どのルートもエンディング後、つまりは後日談が気になっていまして、願わくばFDやドラマCDといった形で続編を展開して頂きたいところ。これが叶うように、今後も応援していきたいと思う新作です。



 それでは、攻略順と推しについて。

 この作品は攻略対象の一部に攻略制限が掛かっています。そして、特殊なことに開放前の攻略制限ルートに入ってしまうと、強制的に中途BADに向かってしまうという仕様になっていますので、注意が必要です。

 攻略制限キャラをここで述べてしまうのは、ネタバレと感じる方もいると思いますので、敢えてキャラ名は明記しません。しかし、少し留意すべき仕様があるということだけは、伝えておこうと思いました。


 それでは、攻略順について。私は

 東条→久賀→錦次→与市→篁→桜太郎

 の順で攻略しました。個人的には、この順がベストなのではと思っています。少しずつ、真相が明らかになっていったように感じました。


 また、最推しは東条です。与市と錦次も推しています。

 発売前、正直なところ東条はノーマークだったのですが、実際にプレイしてみたら沼でした。このルートの紗乃が好きなんですよね。こまめも沢山活躍していて、とても好みなシナリオでした。

 与市にはひたすら萌えましたし、錦次はシナリオの展開に心を持っていかれました。



 恐らく、この作品はシナリオ重視な方よりも、キャラ重視な方の好みに刺さりやすいと思います。私はシナリオ重視なので、正直もう少し設定やシナリオを掘り下げても良かったなと感じましたが、それでも十分に楽しかったですし、これからも応援したい作品だと思っています。

 また、ルートによっては紗乃のキャラに引っかかる方がいるかもしれません。私はこの点について、惚れた相手に合わせて性格が変わっていく女の子なんだなと思って受け止めました。ただ、主人公が苦手といった旨の感想も散見されますので、少し好みが分かれやすいと思います。


 独りぼっちだった少女が、人ならざる青年達と紡ぐ物語。

 真相が明らかになる時、きっと胸が締め付けられることでしょう。

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