【Roster No.16@ウランバナ島南西部】


 おれの(ではないらしい)ミオは喋ってくれなくて、ユーコちゃんもおれたちにどう接していいかわからなくなっていて、気まずい雰囲気の三人。ミオは携帯情報端末の画面と正面とを交互に見ながら進んでいて、南西部の教会に入っていった。まさか教会に行けばユウくんを復活させてもらえるなんてことはないよな? どっかのRPGじゃあるまいし。


「ついて行くんですか?」


 久しぶり――というほど久しぶりではないけど、なんだか久しぶりに人の声を聞いたと錯覚してしまう――にユーコちゃんが口を開いた。


「なんで?」


 ミオはあんなことを言っていたけども、あれはミオの本心から出た言葉ではないようにも思える。黙ってミオの後ろをついてきて、おれなりに考えた結果、ミオはおれのことが好きだけどもおれに直接そう伝えるのはまだ気恥ずかしさがあって、すなわち、男として、ミオが本当の気持ちを打ち明けてくれるまで耐え忍ぶべき、そう思った。恥ずかしいんなら仕方ない。


「怪しい気がします」

「どの辺が……?」

「わたし、霊感あるんです」


 えっへん、と胸を張られても、出会って数分も経っていない女の子の霊感という非科学的なものを信じるか、おれの愛するミオを信じるか、どちらを信じればいいかは考えるまでもない。ミオについていく。それが、おれにとっての正解。


「じゃあ、ここでお別れか」

「うぇ。行くんですか?」

「おれがミオを守らなきゃいけないから。怪しい気がするっていうんなら、ついていかなきゃ」


 おれには猟銃がある。ミオは丸腰だし、耳にケガもしている。一人で行かせたくない。


「行くんなら、ついていきます……一人でここに残されたんじゃ怖いんで……」


 ユーコちゃんもついてくることになった。引き続き三人パーティーで行く。女の子は一人で残されると心細く感じる、っていうんなら、なおさら、ミオに追いつかねばなるまい。自然と早足になるおれと、引き離されないように小走りになるユーコちゃん。


「うわ」

「あちゃぁ」


 教会内部はだった。あちこちに、撃たれて死んだ人が転がっている。あの可愛らしいミオが臆することなく、ここを通り抜けていったらしいことが、足跡でわかった。おれはお化け屋敷みたいなものだと思い込むことにした。転がっているのはさっきまで命だったものではない。


「行こう」


 お化け屋敷だとすれば遊園地デートの基本の基みたいなところある。ミオと一緒に歩き回りたかった。贅沢は言っていられない。ミオに追いついて、ミオの手を握ろう。そうすれば、デートっぽくなる。今は置いていかれたくないユーコちゃんに話しかけた。


「いやあ、とんでもないっすね……」

「あんまり見ないほうがいいかも」

「そうっすね。そうします」


 おれのアドバイスを受けて、ユーコちゃんは目をつぶった。それはそれでよくないだろ。と思っていたら案の定、無造作に投げ出されている腕に躓いて「ひゃっ」と短い悲鳴をあげてから、おれの背中に引っ付いた。


「す、すいませんすいません」


 すぐに離れて、自分の手のひらをぱんぱんと払う。何もついてないと思うけど。霊感があると何かついているみたいに見えるんだろう。たぶん。そういうことにしておこう。


「こっちか」


 ミオの足跡は、階段を上がっている。おれたちも上の階に行こうとして、突き当たりの部屋の扉が開いた。


「隠れてたのが出てきちゃったか」


 なんとなく雰囲気イケメンの男がP90をこちらに向けた。目が悪いおれでも、一般人とイケメンとの顔面偏差値の差はわかる。わかりたくない。そしてむかつく。ミオと合流する前にやられるわけにはいかないので、おれもレミントンM870を男に向ける。


「船」


 男の脇の下をかいくぐって、色白の美人さんがドラグノフ片手に前へ出てきた。長い髪を一つに束ねている。なんだよ彼女もいるのかよ。おれもミオっていう最高にかわいい彼女がいるけども。


「操縦できますか?」


 おれたちに聞いているのか。ユーコちゃんが「車の免許は持っていますが、船は、運転したことないですねー……」と答えると、美人さんはユーコちゃんを撃った。


 <<サユキ は ドラグノフ で ユーコ を キルしました>>


 ちっこいユーコちゃんの身体がくるくる回転して、そのままパタリと倒れる。次はお前だと、ドラグノフの銃口がおれに向けられた。


「船、船があるんだな!?」


 おれはM870を二人組に向けたまま、階段を、慎重に一歩ずつ、後ろ向きに上がっていく。返事をミスったらユーコちゃんの二の舞だ。会話に集中させておいて、駆け上がる。


「この島を、脱出したくてさぁ」


 優勝する以外の、生存方法。おれは男の言葉に、動きを止めてしまった。――いやいやいや。何のためにこの島まで来たんだよ。


「脱出したら、賞金は受け取れないだろ」

「そうね。でも、現状、勝てる見込みがないから、せめて助かろうと思うんよ」


 勝てる見込みがない?

 最後の1チームまで残れば勝ちなのに?


「あんちゃん、地図は読めたほうがいいよ。上に何の用事があるんか知らんけども、ここにいたら遅かれ早かれ死ぬ」


 地図、と言われて携帯情報端末を取り出す。……次にプレイゾーンから外れるのが、ここ南西部。地図は読めたほうがいい。男の言葉が理解できた。

 最後のプレイゾーンとなった北東部への移動は、すでにプレイゾーンではなくなってしまっている他のエリアを跨がないといけない。


「ミオ!」


 この事実を、ミオは知っているのだろうか。あれだけ地図を見て移動していたミオのことだから、知っていて、わざわざここまで来たのか。ここに来なければならなかった理由が、この上にある。


 おれはM870を抱えたまま、階段を駆け上がった。



【生存 16(+1)】【チーム 9】

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