【Roster No.8@ウランバナ島南西部】

「あれはある夏の日のことじゃった。近所の山で火事があっての。儂は、当時消防士をしておって、無論、出動そして鎮火したわけだよ。――そのあくる日に、あの女が儂の家の玄関先に立っていた。そんで『ワタシ、昨日、助けていただいたです』と言ってきたんだ。人間は救出しておらんから、はて、おかしいなと思った。よくよく顔を見たら、その半分が焼けただれている。痛そうなそぶりは見せなんだが、儂も、専門ではないが心得はあるから、話は聞こうと家に上がらせた。


 ふむ。

 わたしは柱の影で呼吸を整えて、ドラグノフの照準をヒトメサマの頭に合わせました。手前にいる男は、四角いサブマシンガンをいつでも撃てるような体勢のまま、ヒトメサマの話に耳を傾けているようですね。ヒトメサマのほうも、話に夢中で、こちらには気付いていません。


「あの女はオオモリと名乗って、居間に正座するなり儂を神だのなんだのと崇め始めた。儂には他人を救う力がある。このままではもったいない。もっと、ヒトメサマを世間に知らしめなくては。ヒトメサマばんざーい。……と、まあ、流れとしてはこう。オオモリの独断専行で、始まったわけだよ。儂は半ば強制的に仕事を辞めさせられ、全国行脚の旅に連れ出された。オオモリは、手品師のように、さまざまなマジックショーを企画するんじゃが、舞台に立つのは儂だった。オオモリが表立つことはなく、いつも裏方で、まるで儂が摩訶不思議のパワーを操っているかのように演出する。配信業を始めたのも、オオモリが言い出したからだよ。儂も年老いて、腰が痛いんでな。これなら布教の旅に出ずとも、家に居ながらにして世界にアピールできるのだとね」


 ふむふむ。

 わたしのは、ヒトメサマのをアテにしていらっしゃったのだけど、やはりヒトメサマにそんな素晴らしい力はないのですね。命を助けた女が、超能力者だったと。は、この事実を聞いていらっしゃるでしょうか。


「おタヌキ様も、オオモリって人が?」

「そうだとも。……何者かにやられてしまったようだが。あのバケモノを人間が」

「それね、健全なデスゲーム運営に支障が出るんで、俺っちが倒しといた」

「ほーお。よくぞ止めてくれた。敵ながらあっぱれじゃな」

「ママンから必勝法を聞いてたからな」


 ふむふむふむ。


「ところで息子よ。儂とこの島を脱出しないか?」


 息子?

 脱出?


「ああ、ここにあるっていう? 船で?」


 なになに?

 見えない。


「なぜ知っている?」

「さっき、たぶん、そのオオモリって人、が、俺っちに教えてくれました。なんでも、彼女曰く、親子が似ているらしいんよ」

「そうか?」

「やっぱそう思うよな。本人たちは似てるったってわかんねえ。俺っちはプラスアルファで、認めたくないってとこもありよりのあり」


 わたしもその船に乗り込ませていただけないでしょうかね。

 その場合、なんと言ってここから出ていけばいいんでしょう?


「悪い話じゃあないだろう」

「俺っちのメリットについて考えているところ……絶賛シンキングタイム……」

「親子としてやり直そうじゃあないか。母親は元気かね」

「複雑な気持ち、プライスレス……」

「オオモリがいなくなった今、儂は自由じゃよ」


 む。

 ヒトメサマには責任を取っていただかなければならない。ヒトメサマがいなければ、わたしが『ウランバナ島のデスゲーム』に参加することもなかったし、憎きを失うこともなかった。ヒトメサマが『ウランバナ島のデスゲーム』に参加すると言わなければ、わたしとその友だちは今も変わらない、他愛もないやりとりをしていたに違いない。わたしが、合法的にやり返すようなこともなかった。


「死ぬがいい」


 わたしは呪いの言葉を口ずさんで、ドラグノフのトリガーを引いた。パァン、と飛び出した銃弾が、ヒトメサマの、眼帯をしていないほうの眼球に飛び込んだ。


「仲間か……!」


 目玉を押さえてうろたえるヒトメサマ。男はヒトメサマに背を向けて、わたしのほうに向かってくる。一発で撃ってきた場所がわかるもんなのですか?


「じゃ、ないんだよなこれが」


 ヒトメサマ側からしてみれば、男が引き付けている間に撃たれたとでも思ったでしょうね。違いますよ。


「親子の語らいに割り込んでくるやつー! 出てこいー!」


 出てこいと言われて、わたしが出て行ったら撃たれそうなので、こっそりお暇させていただきたいです。さらばさらば。それともあれか、男も撃っておきますか。しかし、撃ったら撃ったで脱出用の船の場所がわからなくなってしまう。


「……んまあ、俺っちもヒトメサマを殺そうとしてたから、結果オーライってことで」

「待つんじゃ。落ち着いて考えてはもらえんか」

「もう遅いよ」


 男はヒトメサマに向き直って、P90をぶっ放した。



【生存 17(+1)】【チーム 10】

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