【Roster No.8@ウランバナ島南西部】
「あれはある夏の日のことじゃった。近所の山で火事があっての。儂は、当時消防士をしておって、無論、出動そして鎮火したわけだよ。――その
ふむ。
わたしは柱の影で呼吸を整えて、ドラグノフの照準をヒトメサマの頭に合わせました。手前にいる男は、四角いサブマシンガンをいつでも撃てるような体勢のまま、ヒトメサマの話に耳を傾けているようですね。ヒトメサマのほうも、話に夢中で、こちらには気付いていません。
「あの女はオオモリと名乗って、居間に正座するなり儂を神だのなんだのと崇め始めた。儂には他人を救う力がある。このままではもったいない。もっと、ヒトメサマを世間に知らしめなくては。ヒトメサマばんざーい。……と、まあ、流れとしてはこう。オオモリの独断専行で、始まったわけだよ。儂は半ば強制的に仕事を辞めさせられ、全国行脚の旅に連れ出された。オオモリは、手品師のように、さまざまなマジックショーを企画するんじゃが、舞台に立つのは儂だった。オオモリが表立つことはなく、いつも裏方で、まるで儂が摩訶不思議のパワーを操っているかのように演出する。配信業を始めたのも、オオモリが言い出したからだよ。儂も年老いて、腰が痛いんでな。これなら布教の旅に出ずとも、家に居ながらにして世界にアピールできるのだとね」
ふむふむ。
わたしの友だちは、ヒトメサマの奇跡をアテにしていらっしゃったのだけど、やはりヒトメサマにそんな素晴らしい力はないのですね。命を助けた女が、超能力者だったと。友だちは、この事実を聞いていらっしゃるでしょうか。
「おタヌキ様も、オオモリって人が?」
「そうだとも。……何者かにやられてしまったようだが。あのバケモノを人間が」
「それね、健全なデスゲーム運営に支障が出るんで、俺っちが倒しといた」
「ほーお。よくぞ止めてくれた。敵ながらあっぱれじゃな」
「ママンから必勝法を聞いてたからな」
ふむふむふむ。
「ところで息子よ。儂とこの島を脱出しないか?」
息子?
脱出?
「ああ、ここにあるっていう? 船で?」
なになに?
見えない。
「なぜ知っている?」
「さっき、たぶん、そのオオモリって人、が、俺っちに教えてくれました。なんでも、彼女曰く、親子が似ているらしいんよ」
「そうか?」
「やっぱそう思うよな。本人たちは似てるったってわかんねえ。俺っちはプラスアルファで、認めたくないってとこもありよりのあり」
わたしもその船に乗り込ませていただけないでしょうかね。
その場合、なんと言ってここから出ていけばいいんでしょう?
「悪い話じゃあないだろう」
「俺っちのメリットについて考えているところ……絶賛シンキングタイム……」
「親子としてやり直そうじゃあないか。母親は元気かね」
「複雑な気持ち、プライスレス……」
「オオモリがいなくなった今、儂は自由じゃよ」
む。
ヒトメサマには責任を取っていただかなければならない。ヒトメサマがいなければ、わたしが『ウランバナ島のデスゲーム』に参加することもなかったし、憎き友だちを失うこともなかった。ヒトメサマが『ウランバナ島のデスゲーム』に参加すると言わなければ、わたしとその友だちは今も変わらない、他愛もないやりとりをしていたに違いない。わたしが、合法的にやり返すようなこともなかった。
「死ぬがいい」
わたしは呪いの言葉を口ずさんで、ドラグノフのトリガーを引いた。パァン、と飛び出した銃弾が、ヒトメサマの、眼帯をしていないほうの眼球に飛び込んだ。
「仲間か……!」
目玉を押さえてうろたえるヒトメサマ。男はヒトメサマに背を向けて、わたしのほうに向かってくる。一発で撃ってきた場所がわかるもんなのですか?
「じゃ、ないんだよなこれが」
ヒトメサマ側からしてみれば、男が引き付けている間に撃たれたとでも思ったでしょうね。違いますよ。
「親子の語らいに割り込んでくるやつー! 出てこいー!」
出てこいと言われて、わたしが出て行ったら撃たれそうなので、こっそりお暇させていただきたいです。さらばさらば。それともあれか、男も撃っておきますか。しかし、撃ったら撃ったで脱出用の船の場所がわからなくなってしまう。
「……んまあ、俺っちもヒトメサマを殺そうとしてたから、結果オーライってことで」
「待つんじゃ。落ち着いて考えてはもらえんか」
「もう遅いよ」
男はヒトメサマに向き直って、P90をぶっ放した。
【生存 17(+1)】【チーム 10】
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