第43話 欲求不満

昼食を終えると、玲夢と李湖、咲希の3姉妹は再び海へ向かい、文弥は一人でどこかへ。俺と愛依の会話が聞こえて、気を使ったのかもしれない。


「エッチな彼氏くん。行こ?」

「やめろ。余計意識するだろ…」

「いひひ、ビキニにした甲斐があったなぁ~」

「いや、何着てもお前は刺激的だわ」

「更衣室でいろんな水着を試着してる時も目が泳いでしね」

「あの布面積の極端に少ない水着は誰もが目をそらすだろ。背中とかほぼ裸だったろうが。お前も見られて焦ってたくせによ」

「ふぅ~ん。そんなこと言っちゃうんだ~。毎晩お世話になってるくせに?」

「急にどぎつい下ネタ出してくるな」


愛依によるからかいをいつものようにいなしつつ、海へ向かう。ちなみに今は海に入るということで、腰に巻いていたパレオは外し、愛依の白くて艶やかな足が堂々とあらわになっている。

ただの足なのに、なんかエロい。


「そんなに足が気になる?足フェチ?」

「いや、そんなことはないけど…」

「まぁ、パレオ巻いてたときはこれ見よがしにチラチラ覗かせてたんだけどね~」

「わざとかよ!お前はただでさえ目立つんだからあまりそういうことするなよ」

「大丈夫大丈夫。私には頼れる彼氏くんがいるんだから~」

「調子のいい彼女さんだこと」


いつものような会話をしながら海へと歩くと、

すぐ横に3姉妹がわちゃわちゃと遊んでいるのが見える。

が、今回は愛依からの誘いなのでここはスルーしておこう。俺にだってそれくらいのことは分かっている。


「冷たっ!」

「慣れるまではな」

「その慣れるまでがね~。プールもそうだけど」

「ん?早く慣れる方法知らないのか?」

「え?そんなのあるの?」

「ああ。せっかくだし教えてやるよ。もう少し深いとこ行こうか」


冷たい海に耐えながらも、海水が腰の辺りまでくるところまで進む。

「この辺かな」と言うと、俺は海中へ潜り、愛依の背後から足を掴んで、グイッと手前へ引っ張った。


「キャッ!」


ザブンッ!と大きい音を立てて顔から海へ沈む愛依。すぐに顔を出すと、水を飲んだのか水を吐き出すように軽く咳き込んでいた。


「どうだ?慣れただろ?」

「………」

「愛依…?大丈夫か?」

「隙あり!」


刹那、愛依が海中へ潜ったかと思うと、俺の足を掴み、引っ張られ、愛依と同じように顔から海へと沈んだ。


「へっへーん!やり返さないほど私は淑女じゃないんだよーだ!」


などと何か自慢気に言っていることだろう。

だが、俺だってやり返されたらやり返す。


「甘い」


海中へ沈んだまま、愛依の後ろ側に回り込むと、愛依の体を抱き上げ、上へと投げ飛ばす。


「ちょっ!アブッ!」


見事に宙を舞い、さっきよりも激しい音と共に海中へ沈む。


「プハッ!ペッペッ。しょっぱっ!」

「ふぅ、スッキリした」

「それは何?海に沈められたのをやり返せたから?それとも日々の私のイタズラによる鬱憤から?」

「両方。俺だってたまには反撃くらいするさ」

「ふぅん。なら私の方ももっと過激なイタズラしちゃおーっと。覚悟しておくことね」

「今以上のイタズラはごめんだぞ。でも、どうだ。冷たさなんて感じないだろ」

「そりゃこんだけはしゃげばね」


海水の冷たさに体も慣れ、ついでに日々の鬱憤も晴らせて一石二鳥となったところで、持ってきていた浮き輪を浮かべ、プカプカと水面に浮かぶ。


「はぁ~、気持ちぃいい……」

「そうだな。確かに気持ちいい、けど……」


プカプカと浮かぶのはいいが……浮き輪の上へと置かれた2つの山が身体と浮き輪に挟まれて凄く……。


「まーた見てる」

「ハッ!い、いやいや。気持ち良さそうだな~と思って」

「触り心地が?」

「ああ、そうそう。揉んだらどんなに柔らかいんだろう……って違う違う!!」

「初めてが野外はちょっとね。今度、家でしてくれる?」

「あ、ああ。分かってるよ……。え?なんか今、凄いこと言ったよねお前」

「そりゃ、遅かれ早かれするでしょ。恋人なんだし。まぁヘタレ君がどうしても無理ってなら考え直すけど」


………なんか、凄い余裕を感じる…。大人の余裕ってやつか。いや同い年だけど。


と、それはそれとして、ひとつ、どうしても気になっていることを愛依に問い掛けることにした。


「なぁ、愛依。ひとつ聞きたいんだが」

「何?3サイズ?」

「興味しかないけど違う。いい加減そっち系の話から離れてくれ。それで、今更聞くのも何だけど、なぜ俺と?」

「ん?」

「いや……だから何で俺と付き合おうと思ったんだ…?」

「好きだからでしょ?」


真っ直ぐに俺の目を見てそう言ってきた。


「う……そんな当たり前みたいに答えてくれるなよ……。で、その……何で俺を」

「ん~。まぁ変な話だよねー。元々は咲希とくっつかせてニタニタするのが目的だったのに。今じゃ私が夕くんとくっついてニタニタしちゃってるなんて」

「やめろ。聞いててこっちが恥ずいわ」

「でもほら、夕くんも分かるんじゃない?主人公とヒロインの恋をサポートしようとしてたらいつの間にか自分も好きになってしまう、みたいなやつ。つまり、私はそれに当てはまっちゃった訳ね」

「んー、なるほど。……なるほどなのか?」


でも、それなら一体いつから?告白されたのは水着を買いに行った時で……いや、それ以前から咲希が言ってたな。愛依が俺を狙ってるだとか何とか。

なら、割と前から俺を?いやいや、確かに入学してすぐに知り合って、それからほぼ毎日顔を合わせて話したりしてたけども。


「………そんなに気になる?」

「えっ?あ……まぁ、そりゃあね…。自分で言いたくないけど、こんな凡人にお前みたいな美少女な彼女が出来るってのは現実味がないというか」

「私も分かんない」

「え?」

「いつ好きになったのか、いつ意識するようになったのか。夕くんをいつもからかってたのも、実はただ夕くんの気を引きたかっただけなのかもしれない。私にも分からないの。でも、恋ってそんなもんじゃない?」

「………」


恋ってそんなもん。

確かに、そういうものなのかもしれない。恋はするものじゃなくて落ちるものって言うし、気付いたときには好きだった、てのもよく聞く。


理由なんて、野暮だったかな。


「ま、大丈夫大丈夫!心配しなさんなって。ドッキリとかじゃないからさ」

「お前からそう言われるとそんな気がしてならないわ。怖いわ」

「じゃあドッキリじゃない証明として今度ヤったげる」

「待て待て!なぜそうなる!?証明てすることじゃないだろ!」

「じゃあ普通にヤったげる」

「この彼女さんはどうしたんだ。急に下ネタばかり吐くようになったぞおい。欲求不満なのか?」

「そりゃ告白した日からキスさえしてないし。海に来たって全くそんな雰囲気無いし」

「……それは誠に申し訳ございません」

「だから。ん」

「え?」


愛依は急に目を閉じて軽く唇を尖らせてきた。

ここまでされれば俺だって分かる。求めているのだ。彼女は。

こんな海水浴場の真ん中でするようなことでもない気がするが、それはそれだ。

彼女が求めているというのなら答えてやるのが彼氏だろう。


愛依の頬にそっと触れ、彼女の方へと近づく。

すると、近くまで来て気付いた。ほんのりと頬が赤らんでいる。照れているのだろうか。

そんな彼女に愛らしさを感じながら、俺は彼女とキスを交わした。

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