第42話 母と母の昔話
「おー!お弁当豪華~!」
「ね?保護者同伴ってのもたまにはいいでしょ?」
「確かに、私達だけだとその辺の屋台で済ませそうだもんね。まぁそれはそれでアリだけど」
保護者、改め俺の母親、神外
特に頼んだ訳でもないのだが、弁当を作ってきていたらしい。
母さんは二つの大きな弁当箱を持ってきていた。ひとつ目の箱には、いろんな具のおにぎりが並んでいた。鮭、明太子、梅、おかか、焼きおにぎり。
……焼きおにぎり?
このラインナップの中に焼きおにぎりを入れてくる辺り母さんだなぁ、なんて感じてしまう。
時たま、どこかズレてるというか、変わってるんだよなこの人。
そしてもうひとつの箱には、唐揚げ、玉子焼き、海老フライにパスタやポテトサラダと、定番のおかずが並んでいる。
が、良く見ると、パスタといってもミートスパゲティやら明太子やらではなく、弁当としては珍しいものだった。
「これは……冷やし中華?これまた凄い…」
弁当に冷やし中華が入っている光景は初めて見た。季節感もあるし、嫌いということはないから別にいいのだが。
「冷やし中華は良いけど、こんな暑いんじゃ大丈夫なのか?」
「その辺はご心配なく。この冷やし中華は事前にタッパーに入れて、クーラーボックスに入れてたの。今取り出して弁当箱に入れたばかりだからちゃーんと冷え冷えなのです」
「柚子さんの発想には毎度驚かされるわー」
とのことで、その辺の問題はないらしい。蕾美おばさんも好評だ。というかこの二人の付き合いもそこそこ長いので、母さんの奇行……もとい、変わった言動などにも耐性があった。
一方、蕾美おばさんの持ってきた弁当箱は1つで、中には沢山のサンドイッチが入っていた。ハムときゅうりとチーズ、ハムとたまご、ツナサンドにハムカツサンドまで種類豊富だ。
母さんがおにぎりとおかず、蕾美おばさんがサンドイッチと分けられているのは、二人が事前に打ち合わせしていたのだろう。
「わぁ、お母さんのサンドイッチだ!」
「家だとあまり作らないから咲希も久しぶりなんじゃない?」
「ありがとね。つぼみん」
「ううん。私こそおかずのほとんどは任せてしまってごめんね。柚子ちゃん」
互いに親しげに話す母親二人。
それもそのはず。何せ、実はこの二人は小学校時代からの親友。幼馴染みだ。
俺と咲希が昔から仲が良かったのはこれによるものもある。が、実は俺達がこのことを知ったのは割と後からなのだ。それも幼稚園を卒園した後。つまり、俺達が仲違いしてから聞いたのだ。
幼稚園の頃から二人が仲良さそうにしていたのはママ友的なことではなく、それ以前に関係性があったからなのだと理解したのは最近である。
「いただきまーす!おばさんのサンドイッチ貰いまーす」
「もう。李湖ったらそんなにがっつかないの」
「お腹すいたんだもーん!」
「ふふっ。沢山あるからゆっくり食べてね。ほんと可愛いわ~レムリコ姉妹」
「当たり前じゃない。私の娘よ?」
「そうね。元ミスコン女王様ですものねー。まぁ、私が髪型やら仕草やら矯正させて取った栄誉だけどもね?」
「素材が良かったのねー」
料理を楽しんでいる妹達を横目に、母親二人は昔話に花を咲かせていた。
「ミスコン?母さん、そんなことしてたの?」
「あー……まぁね。成り行きで…」
「やっぱり話してないのね。この子、元々は根暗な陰キャ女子だったのよ?」
「「え…?」」
俺と咲希が同時に首をかしげた。
無理もない。俺達から見た母さんは、いつも元気で明るく、そして緩い。そしてどこか変。そんなイメージだったのだ。
学生時代は陰キャ女子だったなんて信じられなかった。
「そうよー。高校生の頃なんか、休み時間は本を読み、放課後になるとすぐ1人で帰る。クラスの皆はたまに存在そのものさえ忘れられていることもあったわね~」
「え、柚子おばさんいじめられてたんですか!?」
「あはは、やだなー。いじめられてなんかないわよ?存在感なさすぎていじめられもしなかったくらい?」
「ふふふ」
淡々と明るい口調で結構凄いことを言ってきた。存在感無さすぎていじめられることさえなかったって……可哀想な母さん……。
「でもつぼみんだけは味方だったの」
「まぁ、小学校から高校までの腐れ縁だしね。そんな柚子ちゃんを見かねて、文化祭のミスコンに出すことにしたの。これをきっかけに少しでも変わってくれればと思って。ま、自分で言うだけあって、素材は良かったから髪型や姿勢、服装やらをちょっと変えただけで仕上がったんだけど」
「そうそう。昔から強引なのつぼみん」
「何を言う。おかげでミスコン女王に選ばれたし、それからというもの男子から何度告白やらラブレターやら貰うようになったことか」
「それはそれで大変だったけどね?」
母さん達の過去にそんなことがあったなんて、初耳だった。
そう言えば、前に母さんの卒アルを押し入れから発掘した時に、母さんが見たらダメと異様に注意されたことがあったが、あれも陰キャ時代の自分を隠すためか。
「はい。昔話は終わり。人の過去をベラベラ話さないの。あなた達も早く食べなさい。玲夢と李湖が全部食べちゃうわよ」
「ふふっ。二人ともゆっくり食べてね」
母さんの昔話なんて興味がないと言わんばかりに弁当を
「ねぇねぇ、お昼食べたら二人で海行かない?」
「ん、ああ……。そうだな」
愛依から誘われ、昼からは二人で過ごすことに。そりゃ、一応は付き合ってる訳だし、デートとも捉えられないこともない訳で。
「せっかく海に来たのにヘタレ彼氏さんは距離とってばっかだもんね~」
「うぐ」
本人に言われるととても申し訳なくなるな。
というか、そもそもだ。
女性経験0の俺が、そもそも水着姿の彼女を、しかもこんな愛依みたいな美人で可愛いくてしかもスタイルも良いという完璧な彼女を直視出来る訳がないのだ。
漫画やラノベなんかのラブコメ主人公が女子の水着姿を直視出来ない、なんてくだりがあるが、それに対して『言うても水着だろ』的な考えを持っていた俺を殴り飛ばしてやりたい。
リアルで見る美少女の水着姿は何て生々しいのだろうか。豊満な双丘から成る谷間が
それに加え、水着から伸びる白くて艶やかなモデル顔負けの長い足。パレオからチラチラと見えるのがチラリズムを刺激してくる。
あれ?俺の彼女ってめちゃくちゃ凄い?
この人が俺の彼女になるなんて人生の運全てを使い果たしたのではないだろうか。
今となっては文弥が狙ってたのも頷ける。
などと気持ちの悪い視線を彼女へチラチラと送っていると、流石にその視線に気付いたのか、小悪魔的な笑みを浮かべた愛依が耳元まで近づいてきて。
「エッチ…」
「グハッ……」
ため息混じりの色気のある声で言われ、とうとう俺の心は崩壊を迎えた。
家族の前で何をしてるんだ俺達は。
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