第44話 二人の未来

キスをせがまれ、それに従いキスを交わした俺達。正直、周囲の視線が気になる。

唇を話しつつチラチラと周りを窺うと、3人の女子がこちらを見ていることに気付いた。


「あ……」

「どしたの?」


その3人の女子は、俺から見て愛依越しに見える為、愛依は全く気づいていない。

すると、突然3人の内の1人が海中へ潜った。と思っていると、影が段々とこちらへ近づいて来て……。


「あ~い~ちゃ~ん?」

「ひっ!?」


影が愛依のすぐ後ろまで近づくと、その人物は静かに海中から顔を出し、それと同時に背後から2つの手を伸ばし、愛依を捕らえた。


「こんな人前でイチャイチャベタベタと何しているのかな?」

「さ、咲希!?驚かせないでよ!急に後ろから抱き締められたらびっくりするでしょ!?」

「それは私の台詞よ!こんな海のど真ん中で急にキスするとか見ててこっちが恥ずかしい!」

「見なきゃいいじゃん!」

「気になるじゃん!」

「もう~、いい雰囲気になろうとしてたのにな~」

「え?そうなの?ゆーくん!」

「急に俺に振らないでくれ…」


背後から抱き締めるように愛依を捕まえたまま咲希はさぞご立腹だ。人前でこんなことをすることには俺も多少抵抗はあったけど、咲希がなぜこんなに怒っているのかは分からない。

そんな咲希を眺めていると、自然とその背後にいる二人の人影を視界に捉えた。


「まぁ……兄貴としてはあっちの方に見られたのが一番きついような……」

「え?あ…、玲夢ちゃんと李湖ちゃんにまで見られてた?」

「う~……お兄ちゃんが大人に……。なんか存在が遠くなったような気がしてくるよ…」

「………」


目を丸くしながらこちらを見る李湖と、ぼーっとこちらを見る玲夢が立っていた。


「ほら、二人も見てたんだよ。兄妹のキスシーンを目撃してしまう身にもなってみなよ。せめて人目のつかないとこでしてよね」

「あ、ああ。悪かったな。いや、悪かったなっていうか求めてきたの愛依だけど」

「うわ!この男、彼女売った!」

「言い方やめろ」

「はぁ……。あれ?玲夢ちゃん?大丈夫?」


そこには、ただ立ち尽くす玲夢が無言でこちらをぼーっと眺めていた。


「玲夢?どうした?」

「……ゃん…が…」

「玲夢姉?」

「お、お兄ちゃん……が……はぅう……」


ボソボソと小さな声で言った後、気を失うように倒れる玲夢。倒れ込む玲夢を慌てて支える李湖。俺と愛依、咲希も慌てて玲夢の元へ駆けつけた。


「玲夢!?」

「だ、大丈夫!?」

「急に倒れて、どうしたの?」

「多分、気絶……みたいな?失神?」

「何で急にそんな…。愛依ちゃんがあんなことするから……?」

「私のせいなの!?ごめんなさい!?」

「大丈夫だ愛依。遠回しには愛依のせいかもしれんけど大丈夫だ」

「やっぱり私のせい!?ごめんなさい!?」


愛依が本気で申し訳なさそうにしているので冗談も程々にして、とりあえずこのまま海に居る訳にもいかないので倒れた玲夢を抱え上げ、母さん達のいるテントへ向かう。


テントに着くと、楽しそうに談笑している母さん達が居た。そんな二人の元へ、気を失っている玲夢を抱えて向かうと、すぐにこちらに気付いた。抱えていた玲夢を見て、まず母さんが反応した。


「あら?玲夢、眠っちゃったの?」

「いや……その…。倒れた」

「えっ!?」

「倒れたって…!大丈夫なの?」

「ああ、はい。ちょっと気を失っただけで」

「気を失った……。何があったの?」

「あー……」

「すいません。私のせいです…。よく分からないですけど、多分私の…」

「あー、いやいや!愛依は気にしなくていいから。さっきのは半分冗談だから」

「半分本当なんだ……」

「あー!違う違う!だから気にするなって!その……ちょっと俺達がその……二人で遊んでたら、急に、な…」

「人前でキスしてたのを目撃したら卒倒しちゃったの」

「「ああ!!」」


母さん達の前で彼女とイチャイチャしてたなんて報告されるとは。どんな罰ゲームだ。


「あらあら」

「………」


蕾美おばさんは温かい目で、母さんは無言でこちらを見つめていた。その視線は何を思っているんだ。怒っているのか。人前で彼女とキスをするなんて周りに迷惑だ、とかなんとかで怒っているのか?


「………」

「か、母さん?」

「………愛依ちゃん」

「は、はひっ!」

「キスするとき、歯がぶつかったりしなかった?」

「………はい?」

「いや、最初はそういうこともあるでしょ?とうだった?愛依ちゃん」

「えっ?あ、いえ……普通に…」

「ふぅん。なら、二人はキスが上手いか、それとも二人はもう何度もキスをしまくっているのか、ということね」

「母さん……何を冷静に分析してるんだ?」

「うふふ。柚子ちゃんらしいわ」


全く怒っていなかった。むしろ興味津々だった。


「それはそれとして、玲夢ちゃんはしばらく寝かせとかないと。倒れた時に李湖ちゃんが支えてくれたから怪我は無いから良かったけど」

「それじゃ、私はここで診てるよ。玲夢姉、心配だし」

「私も残ります。ちょっと責任感じるし…」

「ううん。愛依姉は気にしなくていいよ」

「いや…でも。…………愛依姉?」

「え?だってお兄ちゃんの彼女でしょ?だったらお姉ちゃんだよね?」

「ちょっ!李湖ちゃん!まだそうと決まった訳じゃないのよ!?」

「そ、そうだぞ李湖!愛依も何か言ってやれ」

「妹公認!?」

「そこ!嬉しがるな!……いや、お前……そんなに嬉しい……のか…?」


妹から認めて貰えて嬉しいって……それってつまり、そこまで愛依は見据えてるのか…?愛依って、どこまで考えているんだろう…。


やっぱ、恋人の先まで?け、結婚とか…?愛依が俺のお嫁さん?奥さん?妻?まじか。愛依と同棲して家庭を持つのか。家庭……子供も出来るのか。子供…。

う………待て待て。落ち着け。変な想像をするな。海でよこしまなことを考えるな。水着なんだから我慢だ我慢。

………いやいや無理!どうしても邪な妄想が浮かんでしまう。結婚だぞ?ひとつ屋根の下だぞ?子供を作るんだぞ?愛依の身体を、この魅惑的な身体を俺の思い通りにできるんだぞ?つまりこの、愛依の豊満なおっ……。


「夕くん?」

「ぱいっ!?」

「人の身体をジロジロとなめるように見た後に焦った返事で『ぱいっ!?』とか……。あからさまに変な妄想してたよね。ゆーくん」

「ふふっ。夕ちゃんも男の子なんだから、仕方ないでしょ」

「い、いや…別にやましいことは」

「夕」

「は、はい?」


母さんは妙に真剣な表情をしていた。そんな母さんに呼ばれ、つい生唾を飲む。


「お互い、初めてなら優しくしてあげなさい」

「…………」

「………あの…お義母さん?」

「最初は怖いと思うの。誰でもそうよ。でも、まずは夕を信じてあげて。夕に身を任せるの。きっとリードしてくれるわ」

「母さん……?」

「は……え…?」

「愛依ちゃん。痛い時は痛いとちゃんと言うのよ。気持ちいい時はちゃんと気持ちいいと伝えるの」

「な、何…を…。ふしゅぅう~……」


愛依の顔は次第に紅潮していき、顔が真っ赤に染まったところで、頭から煙を出すようにして気を失った。母さんの過激発言によりノックアウト。失神者は2名となった。

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