第40話 仲良し

「お~、海だぁ~~!」

「快晴だし程よく暑いから気持ち良さそうね」

「うんうん!玲夢姉!早く行こ!」

「あ、ちょっ、まずはテントとか建ててから……!あぁ!もう!行くから引っ張らないで!」


数時間車を走らせ、俺達は海にたどり着いた。

更衣室で各々着替えを済ませる中、家に居る頃から気合いの入っていた玲夢と李湖は、服の下にあらかじめ水着を着ており、ビーチに出るや否や、李湖は玲夢の手を引っ張って海へと走る。

あんな調子でいきなり泳ぐと足がつったりして危険な気もするが……まぁ玲夢は保護者みたいなもんだし任せるとしよう。


男の俺と文弥は他の皆達より早く着替えを済ませると、車からテントや荷物を運び出し、ビーチへ向かう。


「混んでるな~」

「絶好の海日和だしな。さて、テントはどこに建てるかね」

「なんだかんだで割と大所帯だからなぁ。シートも敷かなきゃいけねぇし、なんかビーチパラソルまであるし、広いとこじゃないとな」


元々は俺達高校生4人の予定だったが、愛依の提案により妹達二人も来ることになり、大所帯となってしまったのだ。

それに加え、妹二人は中学生ということもあって、一応保護者として母さんが。そしてその話を聞き付けた咲希のお母さんまでもが参加することになった。


人数は多くなったが、結果的に2台の車という移動手段も手に入ったので結果オーライだ。


「ちなみにそのビーチパラソルは気分の上がった李湖が調子に乗って買ったものだ。手間増やしてすまない」

「なぁに、可愛い妹ちゃんの為ならこのくらいなんでもないさ」

「ん?文弥。お前もしかしてどっちか狙ってないよな?」

「あー…初めてお前の妹ちゃん見たけどよ。結構可愛いのな。で……正直言うとな…。玲夢ちゃん、結構ドストライクなんすけど…」

「おい、マジじゃねぇかよ……」


頭をかきながら、恥ずかしそうに答える文弥はとても冗談を言ってるようには見えず……。


あれ?


「おい待て。お前愛依のこと諦めてないとか言ってなかったか?」

「お前な……。お前からは言われたくなかったんだが…?」

「え?」


あ、そうか。愛依はもう……。


「喧嘩売ってるのカナ…?」

「いや……すまん。その、俺達、あまりにも何もなくてあまり付き合ってる実感がなくてよ……」

「ったく、あんないい人と付き合ってんのに何してんだか。ま、それに比べて俺は、新しい恋を絶賛探索中なのだよ。で、早くも出会ってしまったんだなぁこれが」

「変わり身早いのな」


と、そんな話を聞きつけたのか否か、水着姿に着替えた女子二人が出てきた。

咲希は水色のワンピースタイプの水着。ワンピース越しからも、持ち前のスタイルの良さが際立っている。

愛依の方はフリルのついた白のビキニに、下はパレオを巻いている。こちらも負けず劣らずのスタイルの良さと、パレオの隙間から覗くスラッと伸びる綺麗な白い脚に艶かしい魅力を感じる。


と、頭の中で冷静に二人の水着を分析することで、あくまでも水着を見てますよという視線で見る。

決して二人の、特に愛依の歩く度に揺れ動く溢れんばかりの2つの丘に釘付けになっている訳ではない。


と、そんな視線に気づいたのか、愛依が恥ずかしそうに胸を両手で隠した。


「おい。胸見てるのバレてんぞ彼氏さん」

「お前だって見てたろが…!」


コソコソと小声で話す俺達に、近付いて来た咲希が一言。


「エッチ…」


(………女子からこんな風に蔑まれるとちょっと嬉しいよな)

(分からんじゃないが、ふざけるのはこの辺にしとこうぜ)


再びコソコソと話す俺達に、今度は愛依が声をあげた。


「き、気にしてるんだから、あまり見ないでよ……」


もじもじとしながら大きな胸を両手で隠そうとする愛依。まぁ、胸が大きくてあまり隠せてはいないのだが。


(………やっべ。やっぱめちゃくちゃ可愛い)

(彼氏を前にして正直なことで)


THE・男友達との会話的なことを話していると、目の前の二人の後ろから、また二人組の女性が現れた。


まぁこちらは……うん。少なくとも自分の母親に向ける感想はない。

おばさんの方は、ワンピースタイプの水着だろうか。その上からパーカーを着ているのであまり水着は目立たず、落ち着いた雰囲気を纏っている。


「あら、まだ場所決まってないの?」

「結構混んでるわねぇ。海から少し離れた所ならまだ空いてるかも」

「そうね。夕、小鳥遊くん。あっちの方に建てましょうか」

「ああ」

「はい」


海からは離れてしまうが、少し歩いた所に空いている場所があったのでそこにテントを建てることになった。

俺と文弥で協力してテントを建て、その横で咲希と愛依はレジャーシートを敷いてその上にとりあえず荷物を置いていく。

李湖が買ったビーチパラソルも設置して、浮き輪などの道具も準備していると、俺達の方もテントを建て終えた。


「よし、完成」

「こんなもんだな。それにしても、大きいな」

「これ、新しく買ったんだっけ?」

「そうなの。一応持ってはいるけど、こんなに大所帯だと小さい気がしてね。それに、持ってたやつはもう古いし丁度よかったわ」

「それじゃあ、保護者はテントでゆっくりしてるから、若い子達は遊んでらっしゃい」

「え、お母さん達は泳がないの?」

「こらこら咲希。気遣いはありがたく受けとるものだよ。それじゃあ、お言葉に甘えて泳ぎに行ってきます!」

「うん。行ってらっしゃい。あと、夕ちゃんと愛依ちゃんは、くれぐれも間違いのないようにね」

「いや、何も無いですから……」


微苦笑を浮かべてそう返し、ふと愛依を見ると「……何かは……あっても…いいじゃん…」と、チラチラとこちらを見て唇を尖らせて言ってくる。


いや可愛いかよ……。


そんな彼女の姿に思わずニヤけてしまうが、皆のいる手前、どうにか抑える。

もしここでニヤけて二人ともそわそわしていると、周りから「このバカップルが」という視線で見られること間違いない。


そんなことを考えつつも、4人で海へと向かっていると、海ではしゃいでいる二人の女の子を見つける。


「玲夢ちゃん達だ」

「二人って仲良いよね。思春期の姉妹って喧嘩とかしそうだけど」

「まぁ、玲夢の反抗期は全て俺に向いてるからな。今朝もヒップドロップ喰らって起こされたんだぞ?」

「いいじゃねぇか。ご褒美みたいなもんだろ。妹からあらゆる方法で起こされるなんて」

「それ二次元の話だろ。そして大体その妹は血の繋がってない義妹だ」

「それな」


くだらないことを話しながら、海へと向かいつつ、二人で楽しんでいる妹達を見守る。


ふと、玲夢がこちらに気付いたのか、視線をこちらへ向けた。が、その一瞬の隙を狙って李湖が悪戯な笑みを浮かべて海水を玲夢の顔へとかけた。

口に海水が入ったのか、玲夢は渋い顔でペッペッと口の中に入った海水を出すと、キッと李湖を睨み付けてお返しと言わんばかりに大量の海水をすくい上げて顔へとかける。


李湖も先程の玲夢と同じような反応をした後、サッと素早く屈んだかと思うと、玲夢の両足を掴み、ぐいっと手前に引っ張った。地面が砂で踏ん張りが利かない玲夢は、そのまま後ろへひっくり返ると、すぐに水面から顔を出した。渋い顔を作るや否や、お返しと言わんばかりに李湖の両足を引っ張り李湖もひっくり返る。


そんな様子を遠目に見ながら。


「仲良しだなぁ……」


と、しみじみと兄としての暖かい視線を送るのだった。

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