第12話 イベント
とある日の教室。
4時間目の授業が始まっていた。科目は数学。
中学の頃から苦手としている科目だった。
社会に出てから何に使うのかも分からないものばかりと思い、俺自身、あまり積極的に勉強する気にもなれなかったのだ。
だが、今は少し変わった。いまだに社会に出て役に立つとは思ってないが、少なくとも数学の知識はついてきた気がする。
これも、櫻庭さんと一緒に勉強をするようになったおかげだろう。
ここ数日、櫻庭さんと一緒にいることも多くなり、そんな俺達の姿を見た文弥から教えてもらったことだが、櫻庭さんは俺達の学年でトップクラスの成績とのことだ。
具体的には学年で2位とのこと。1位が誰かなんて言わなくてもいいだろう。
だが、テストなんてまだ入学してすぐの1回しか行われていない。どちらが上かなんてまだ分からない為、
勿論、本人達は知る
時が進み、昼休み。
「神外。久しぶりに一瞬に飯食わね?」
「文弥?別にいいけど、珍しいな」
「珍しいな~、じゃねぇよ。お前、最近女の子とばっか飯食ってねぇか?目撃情報多発してんだよ。隣のクラスの八重野さんとか、最近だとウチのクラスの櫻庭さんとかな」
「どこからそんな情報を得てんだよ……」
「フッフッフ。ウチの学校のネットワークをなめるなよ?」
「この学校というか、その情報網ほぼ男子で構成されてんじゃねぇのか…」
「そのネットワーク間での最近の急上昇ワードはお前なんだよ。最近入学したばかりだってのに一人だけ青春ライフ送りやがって〜。そりゃ男子共からヘイト買うわ」
「そんなつもりは毛頭無いが?」
「おいおい、その台詞俺以外の前で言うなよ?火に油を注ぐようなもんだぜ」
つくづく男子というのはバカなものだ。俺が青春なんてしてる訳が無いし、自分で言うのもなんだが青春してるような顔でも性格でもイメージも何もかも無いだろうに。
「それと、噂じゃあの外神咲希さんとも仲良しだとかなんとか」
「無い。第一、関わることも無いだろ。クラスも違う」
「現に、隣のクラスの八重野さんとも仲良くしてんだろ?」
「………」
「ま、いいや!俺はその辺のこと咎める気はねぇから安心しな!でも、周りの男子共の目には注意することだな」
文弥は、警告ともとれる言葉を言い残すとまたどこかへ行ってしまった。昼休みは長い、きっと外にでも行ったのだろう。
しかし、どうしたものか。いつもならこれからは……。
「神外君」
「………あー…」
いつも昼休みの空いた時間は櫻庭さんと復習や、次の授業の予習をしているのだ。きっとこういう時間があるから目を付けられるのだろう。
さて、どうしたものか。少しの間距離を取って目立たないようにすべきか?
否。何で俺が周りの視線なんて気にしなくちゃならない。そもそも櫻庭さんと勉強しなきゃ授業に追い付けないんだよ。
「どうかしました?」
「いや、何でもない。それじゃあ、今日もよろしくお願い致します」
「な、何で急に敬語…?」
「いえ、勉学を教えて頂いておりますので敬うべきかと」
「いつも通りでいいです!」
「なら櫻庭さんも敬語使わなくていいから。同級生なんだし変だろ?」
「そう……ですね。分かりました。あ…」
「癖になってるな。まぁ強要はしないけど」
その後、普段通りに二人で勉強をした。
特に何かあることも無く時間だけが進んでいき昼休みが終わる。
これが最近の日常になりつつある。こんな平穏な日々が続けばいいと思いたいが、こういう日々はすぐ壊れると相場が決まっているものだ。
いつだってそうだった…。
「神外君?神外君!」
「ん?」
「ボーッとしてどうしたの?」
「あー、ううん。何でもない。授業始まるぞ」
「うん……」
この前、アイツの家に行ってからというもの、昔のことが頭にちらつく。
これじゃ、予習したところで授業に集中出来ない。ただでさえ追い付けないというのに。
余計な雑念は振り払い、改めて授業に集中することにした。
放課後。
「俺は忠告したぞ?」
「何の話だ」
「昼休み。ま~た女の子と過ごしてたらしいじゃねぇか」
これまた久しぶりに文弥と帰宅していた。
「周りの目なんか気にするような性格じゃないんだ。お前もそんな情報よく仕入れてくるもんだな。ご苦労さん」
「図太い奴だこと。その調子じゃ、お前男子からハブられるぞ~」
「元々輪を作るような人間じゃないからな。支障ない」
「その発言。絶対近い内に後悔するぞ」
「何で?」
「今日は5月1日。5月と言えば?」
「ゴールデンウィーク」
「それもあるが、俺が言ってんのは一大イベント!体育祭のことだ。そろそろ体育祭での役割やら競技やら決めるんじゃねぇの?仲の良い奴でも居ないといろいろ困りそうな気がしてな」
「修学旅行の班決めじゃあるまいし、どうとでもなるさ」
「ブレないねぇ~」
体育祭……あまり良い思い出も無い。俺自身、運動神経の良い方でも無いし、動くのが好きと言うわけでも無い。
「んで?お前、櫻庭さんと付き合ってんの?」
「またそんな話に戻るのか。んで、またここで得た情報を学校のネットワークに流すんだろ」
「失礼な。友人として気になるだけさ」
「はぁ……。何も無いよ。本当に」
「な~んだ。つまんねぇの」
「お前こそ失礼だわ…」
「なぁ、櫻庭さんとのことで楽しい話とかねぇのか?ちょっと浮いた話とか、櫻庭さんの秘密とかよ」
「いつも勉強ばかりしてて話とかしないからなぁ。まぁ、秘密と言うほどでも無いが…」
「お?」
「櫻庭さんは極度の運動音痴で体力が無い」
「…………それだけ?」
「いや、それくらいしか無い。イメージ通り、その他に関しては完璧超人だよあの人」
そう。櫻庭さんは勉強は出来るが体を動かす事に関しては不得意だったのだ。
いつ知ったのかと言うと、ひょんな日常の一瞬のことだった。
ただ二人で並んで歩き、階段を上っていた時の事だ。
俺達1年生は教室のある西棟の3階。なかなかに階段を上らないといけない為、確かに疲れるが、言うても高校生なら普段運動しない人だろうとそこまでのものでもない。俺がそうであるようにだ。
だが、櫻庭さんは違った。2階まで上った時点で肩で呼吸をしているような状態。それから上は俺が支えとなり、なんとか上ったのだ。
普段、どのようにして上ってるのか知らないが、きっとなかなか苦戦しているのだろう。
「でも、お前らのネットワークならこんな情報知ってんじゃねぇの」
「う~ん……聞いたこと無かったな~」
「まぁ…俺はどうでもいいけど、あんま人の情報流すなよ。本人は知られたくない事かも知れないからな」
「ほいほい。ボディーガードからの忠告承りました」
それにしても、もう5月……。
体育祭が始まる……か…。
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