第11話 もう一人の優等生
「さてさてさーて!それじゃ、楽しい楽しいお昼といきましょー!」
「……は……?」
「……どういう……こと……?」
時は12時過ぎ。
愛依からの誘い(強制)があり、俺は隣のクラスへと突然押し込まれた。
見れば分かる通り、昼食に誘われたのだ。
仲の良い友人と一緒に飯を食べることは確かに普通だ。そこに男子と女子という性別の垣根は別として、これらは学生間では当然のこと。
が、しかし。だ。
なぜ、アイツも一緒にいる……。
「愛依…?」
「質問は受け付けません!双方ともこの状況に対しての疑問はあるでしょうが、その気持ちは胸にしまい、今は単純に同級生の付き合いということで楽しみましょう!」
3人中、全く楽しめない者が二人居るということをこの人は分かっていらっしゃらない?
「ごめん。私今日は食堂に行くから二人で食べてどうぞ」
「えぇっ?咲希が居ないと意味が…」
「はいはい。邪魔者は消えるのでどうぞお二人で楽しく過ごして下さい」
とまぁ、こうなるのは目に見えている。
昨日、アイツの見舞いに行ってから愛依とアイツは一層仲良くなったようで結構だが。
俺を巻き込むんじゃない。
「ちょっと咲希…」
「お二人で食事とは……ラブラブでいいことですね~……」
「は?」
「咲希っ!?」
イタズラな笑みを浮かべながらアイツはそう言い残し去っていった。
「おい……。昨日アイツに何を言ったんだよ…?」
「いやいや!特に何も言ってないよ!?あ…私と夕くんが付き合ってるという体で家に上がったことは言ったかも……」
「言う必要あったか?」
「それが……いろいろバレバレだったよ?この事だって私から言ったんじゃなくて咲希がなんとなく気付いてたし…」
「………アイツ……いつの間にか超能力者にでもなってんの……?」
「咲希……ハイスペックだからねぇ…。昨日私が咲希のこといじってたから仕返しされたのかも……」
「仕返しに俺を巻き込まないでくれ……」
ま、俺にとっては好都合。アイツと食事なんて出来たものではない。
が、しかし。
「もう用は無いよな?俺は自分のクラスに帰らせてもらうよ」
「えぇっ!せっかく来たのに!」
愛依と二人で食事?それこそ変な誤解を招きかねない。特にこんな状況、文弥にだけは見られたくない。見られたらすぐにこの情報が学校中に広まるだろう。
「じゃ、場所は変えてあげるから!ほら、どこか空いてる教室行こ」
「何故そうなる。アイツと一緒に食えよ」
「夕くんには聞きたいことが山程あるんだからね!」
「だから、学校でその呼び方辞めろ」
「辞めないーだ!」
「ガキか……」
駄々をこねた子供のようにしつこく俺についてくるので、仕方なく空き教室に向かいその場を治めることにした。
「まず、夕くんはなんなの?」
「藪から棒に何だ」
「咲希のお母さんから聞いた話だと、夕くんが咲希を嫌う理由が全く無い。というか、なんなら親友。もはや彼氏」
「飛躍し過ぎだ」
「どちらにせよ、二人があんな仲が悪い理由が全く見つからない!理由を述べよ!」
「何でだろうなー」
「まだしらを切るか……!そんなに言いたくない事なの?」
「別に。俺はただ今この現状に何の変化ももたらしたくないだけだ」
「また…この……黙秘男は………!」
「じゃ、飯も食ったし俺は自分のクラスに戻るよ」
「あ…逃げた!」
愛依が何をしたいのかはよく分からんが、俺を巻き込むことだけはやめてほしいものだ。
空き教室から自分のクラスに戻ると、午後の授業の予習を始める。
正直なとこ、この学校は俺にはレベルが高い。こうして予習でもしないと授業に追い付いていけないのだ。
アイツと離れるために、わざわざこの難関校を選んで必死こいて合格したってのに、また被るとは……つくづく運が無い。
ったく、そう思うとなぜ俺はこんなにまで必死に授業に追い付こうとしているのか馬鹿らしく思えてくるもんだ。
元々勉強なんて全くしない側の人間だったんだが。
「神外君って、見た目によらず、結構努力家ですね」
「はい?」
突然、話しかけられた声にペンを止め、声の主を見る。
「………えーと、さく……」
「
「あー……そうだ…すまん。まだクラスの皆の名前覚えられてなくて」
「いえいえ。私の名前、結構覚えにくいですし、覚えてたとしても読みにくいですからね。よく間違われるので慣れてます」
このザ・優等生的な女子は櫻庭呼世さん。
俺自身、あまり話したことも無いが、イメージとしては優等生というイメージしかない女子だ。
「よく、昼休みとか予習されてますよね?」
「そうだな…。そうでもしないと、正直、授業に追い付けないんだ。ちょっと背伸びしてこの高校受けちまったのが運の尽きだったよ」
「いえ、それでも自分なりに努力しているのは素晴らしい事だと思いますよ?」
俺が努力ねぇ…。中学までの俺を見せてやりたいよ……。
「やっぱ、櫻庭さんは、予習とかしなくても授業についていける感じなのか?」
「あはは……私がどう見えてるか分かりませんが、これでも家で予習とかしてるんですよ?」
「そうなのか…?」
大抵クラスに一人は居る頭脳明晰な人かと思ってたけど、割と努力しているタイプの人だったか。
「ちなみに、入学してすぐにやったテストってどんな感じだった?」
「9割方は分かりましたけど…満点とまでは…」
前言撤回。頭脳明晰で更に努力家な人だったか…。完璧超人……ザ・優等生じゃないか。
「……まぁ、別に努力してるとかじゃないよ。授業についていけないと、俺が困るから嫌だってだけ。あまり過大評価されても困る」
「あ、すいません。勉強の邪魔になってしまいましたね」
「いや、気にしないでくれ。予習なんて言ってるが、半分は暇潰しも兼ねてる事なんだ」
「お暇なんですか?」
「そりゃあ……昼休みは暇だろ。周りは知らんけど」
「友達と遊ぶ、とか無いんですか?」
「そういうアンタは?」
「それは………勉強が友達です!」
これまた可哀想な人だこと……。
「あの……私で良ければ勉強手伝いましょうか?」
「勉強を?勉強って……手伝うものか?」
「手伝う……と言いいますか、参考にはなるかもしれませんよ?例えば……ノートのまとめ方とかって、人それぞれ違うじゃないですか。その人のノートのまとめ方とかを参考にして、自分に合ったやり方を見つけたりとか」
「なるほどね。一理あるかも」
「ですです!」
「でも、それってアンタには何のメリットも無くないか?」
「メリット……ですか…?」
…………いや、何故俺は人を疑うような事を言っているんだ。ただの親切心だろうに。いつから俺はこんなに疑り深い人間になったのか。
「そうですね………。暇潰し………です!」
「…………そうか…」
この日を境に、櫻庭さんと勉強をするのが日常になった。ノートのまとめ方もきっちりしていて、教え方も上手いし、将来有望な教師にでもなれそうな人だ。
まぁ………この数日間の間にまれに見る彼女のある欠点が無ければ……だが。
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