第10話 味方

咲希のお母さんの話によると、咲希にとって夕くんは兄のような存在だったらしい。

学校での二人の態度からして、そんな話信じられなかったけど……。


今の聞いたら……。


「ふぅん……結構可愛いとこあるじゃん……こいつめ」


今なお、寝ている咲希の頬をつついた。

起きる気配は無い。


予想通り。

でも、流石にそろそろ起きて貰おうか。お母さんから頼まれてるし、それにいろいろ聞きたいことあるし。


遠慮は無用。

ここまで頑なに起きないのなら本当の最終手段を使わざるを得ない。


「ふっふっふっ。ぐっすり寝ていられるのも、これまでだ!」


こちょこちょである。一周回ってこれが一番効果的と相場が決まっている。


まずは体。脇、脇腹、首もと、手のひら、足の裏。反応はしてる。が、まだ寝続ける咲希にとうとうしびれを切らし、


「はい。そろそろ起きなさい!」


咲希のおでこに本気の愛依チョップを食らわせた。


「痛っ!」


やっと起床。咲希という生き物は起きるという行為にこれほど時間がかかるのか。


「あれ、愛依ちゃん?」

「おはよ」

「おはよ………え?私の部屋だよね?何で?」

「お見舞いに来たの。学校欠席してたでしょ」

「え…?それで?」

「来ちゃ駄目だった?」

「いや!そんなことないよ!ただ…ううん、何でもない。ありがと」


もしかして、咲希にとってお見舞いに来てくれた友達って私が初めてなのかも……。

まぁ、夕くんは別として。



「お母さん。起こしてきました」

「ありがとね愛依ちゃん。なかなか起きなくて大変だったでしょ?」

「それはもう……骨がおれました」

「………何で二人ともそんな仲良く…?」

「ふふっ。あなたのお友達なら誰でも大歓迎よ」

「…………」

「そうだ!もしよかったら、このまま夕食もここで食べていかない?」

「えっ、良いんですか?では、お言葉に甘えさせて貰おうかな~」

「え……愛依ちゃんもここで?」

「うん。駄目?」

「ううん!むしろありがと……って変だよね……あはは…」


家の中の咲希はいろいろガードが甘いなぁ。

どんどんボロが出てくる。


まるで、私に対しても着けている仮面が、段々と崩れ落ちるように。


「さ、それじゃ支度しないと!」

「あ、私も手伝います」

「いいのいいの。お客様はごゆっくりとおくつろぎ下さい」

「…だってさ」

「じゃあそうさせて貰います……。あ、じゃあ今のうちにいろいろ話したいことあるんだけど、いい?」

「何?」


早速だが、咲希には聞きたいことが山ほどある。夕くんとの関係、夕くんとの今の咲希の本当の気持ち、そして咲希の身体の話。


でも、身体の話は……まだ当分先の方がいいだろうか。咲希自身は隠しておきたい事だし。


でも、夕くんの話もなぁ……。何でそんな話になるの?とか聞かれたら結局お母さんに聞いたという事と身体の話に繋がりかねない。


あ、単純に気になることあった。


「ねぇ、咲希の部屋って、他に誰か使ってたりする?」

「え………何なに!?もしかして部屋に泥棒でも入った形跡とかあった!?何か失くしてないかな!」

「いやいや落ち着いてって、そういう話じゃないから。部屋の掛札にさ、SAKI's ROOMって書いてあるでしょ?sって何の事?」

「あ……ただの書き間違い?あれ書いたの小さい頃だったし、まだ英語よく分かってなかったんだよ!」

「……そう…?」


咲希は、少し動揺した口ぶりで誤魔化した。そしてまるで落ち着きを取り戻すようにテーブルに置いてあるお茶を飲む咲希。

この反応……やっぱり、夕くん?

ブラフをかけてみるか。


「そういえば今日、神外くんと話したよ」

「んっ!ケホッ!ゴホッゴホ!」


ん~、まるで絵に描いたかのような反応。お茶が気管に入ったな?分かりやすいにも程があるよ咲希。


「な、何?突然」

「ううん。別に」

「…………お母さんと仲良さげだったけど、何か話した…?」


咲希の声のトーンが一段と下がった。これは咲希にとって大事なことなのだろう。咲希にとって、お母さんから身体のことを聞いたということは、秘密を知られてしまったということだから。


「………咲希。私は味方だから。誰が何と言おうとも、咲希がどんな人でも」

「え…?」

「まぁ……いろいろ話は聞いたよ?神外くん…いや、夕くんとの関係とか、咲希の昔の事とか。それに…」

「…………」


咲希はうつむいていた。

身体の話を聞かれたと悟ったのだろう。


「……ぅくん?」

「え?」

「夕くん…って……?」


あ、そっちか。


「あー………いろいろややこしいんだけどさ、咲希のお母さんには私と夕くんは付き合ってるということで通してるんだよね……」

「……それは…」

「ううん。本当に夕くんと付き合ってる訳じゃないよ?第一、まだ知り合ったばかりだよ?」

「……そう…」


さっきから、まるで私を浮気相手みたいな目で見てくるのは……これは……二人の仲を恋仲にするという私の計画、まさかの元から脈ありだった……?


「……意外と冷静ね」

「……だって、その話聞いたってことは全部知ってるんでしょ。それに、私の家が分かったのもアイツから聞いてて、愛依ちゃんのことだしアイツもここまで連れてきたんだ。で、素性を知ってるお母さんを前にして恋人なんて肩書きを作った。合ってる?」

「あー……」


名探偵ですか?と聞きたいくらいの名推理。

持ち前の頭脳を使ってきた……。


「じゃあ聞くけどさ。話を聞いた限りじゃ、夕くんとあんなに仲悪くなった理由が見えてこないんだけど?」

「…………」


お得意のだんまり。

お母さんも話しづらそうだったし、この辺は更に上のタブーゾーン?


「ま、そこは聞かないでおいてあげる。とりあえず、あの部屋の掛札のsは昔、仲良しだったとよく一緒にいたから、でOK?」

「う………」

「ふっふっふ。咲希の弱み手に入れちゃった」

「それを脅しに使って何かしたら許さないからね!」

「はいはい。分かってる分かってる」

「不安……」


その後、咲希のお母さんが作ってくれた料理をいただき、咲希の家を離れた。


それにしても、咲希にこんな事情があるなんて全く知らなかった。学校じゃ普通の女子高生にしか見えないし。

それに、夕くんは何でそれを知ってるのに咲希を嫌っているんだろう。昔は事情を知った上で仲良かったのに今では嫌いだなんて…。


もっと謎が深まった気がする……。

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