第13話 神外夕side 競技決め
時は5月。
文弥の言う通り、とうとう体育祭に向けた話し合いが始まった。
入学して少し過ぎた頃に決まった学級委員長が仕切り、まずは競技から決めることになった。
選択競技はごくありきたりなものばかり。
100m走、200m、400m、800m、リレー、二人三脚に借り物競争。1年生は、全員参加の競技として綱引きは確定だ。あと、団対抗リレーもあるが、これは俺には無縁だろう。
普段、運動もろくにしない俺には100m走か二人三脚、借り物競争くらいがお似合いだろう。
「それでは、参加したい競技のところに名前を書いて下さい」
委員長の競技決めの方式は、とりあえず希望を募り、規定人数を越していない競技は決定、越した競技は希望者同士で話し合い、じゃんけんで決めるというもの。
穏便かつシンプルな方式だ。
しかし、この場合俺にとって不都合な可能性が見えてくる。400mや800m、リレーならまだしも、100mや二人三脚なんて、俺のような運動を苦手とする者、はたまた楽な競技を選びたい者が大勢いることだろう。
そうなれば話し合い、またはじゃんけんは必至。つまり運ゲーだ。
ならば確実を取って200mくらいの少し高いステージを取るか………いや、だるいな。やはり借り物競争くらいが丸いか……。
そんなことを考えているとクラスの皆が席を立ち黒板に名前を書き始める。
いや、決めた。流石に100mは多いこと必至。ならば借り物競争だ。そして、こういうときは先手を取ることが重要。投票なんてのは先に名前を書いておくだけでその後に書く者への圧力になりうる。
「よし、1番目…」
借り物競争の欄の一番上に名前を書くことに成功。規定人数は4人だ。
一人、二人、借り物競争の欄に名前が追加されていく。許容はあと一人。
「それでは、400m、800m、リレー、団対抗リレー、二人三脚は決定。借り物競争は、この3人は決定しました」
なんとか俺は決定。100mなんて選んでいたら、危うく200mの危険性があった。危ない危ない。
自分の競技が決まり、脱力しながら黒板の100mの欄を眺める。
「櫻庭…」
櫻庭さんは……100mを選んでしまったようだ。櫻庭さんの体力の無さは俺もよく知っている。200mなんて地獄だろうな。
だが、今なら借り物競争が一人空いている。100mを潔く諦め、話し合いの段階で借り物競争へと移ることは可能。
とはいえ、こういう場合、運動したくない者、運動が苦手な者が必ず声を挙げ、いま空いている楽な競技へと移ろうとする。
櫻庭さんの性格上、一番目に声を挙げるとは考えにくい。そうなると他の者達が先に声を挙げその圧に負け、言い出せないなんてことも十分に考えられる。
そして、
「南無」
案の定、俺の考えていた事がそのまま現実となり櫻庭さんは200mに決定……。皆、競技が決まり席に戻る。櫻庭さんは憂鬱な顔を浮かべていた。
……昼休みにでも何か奢ってあげようか…。
「櫻庭さん。何か売店で欲しいものある?奢るよ」
「………慰めてる…?」
「まぁ……気持ちは分かるよ。中学までに何度か俺もそういうことあったし」
「うぅ……私の運動音痴さ知ってるよね…。本来100mさえキツいのに…」
「それは頑張りましょう」
「神外君は借り物競争だっけ」
「ああ。100mか二人三脚を選ぶと規準を越えるだろうからな。ならばまだ安全そうな借り物競争を選んだんだ。それも一番目に名前を書いておき、後に書く者への圧力にするようにな」
「そんな頭脳プレイがあの一瞬で繰り広げられてたの…?」
「でも、借り物競争は当日のお題によっては最悪なことになることもあるから、運次第だからな。そこが今のところ心配だ」
「借り物競争とかのルールは聞いたの?」
「いや、詳細は後だろうな。授業で競技の練習をするときにでも教えてくれるだろ」
借り物競争。安全かつあまり体力を必要としない競技を選んだものの、やっぱり少し不安が残る。お題が物ならばまだ良いが、人なんてこともあるだろうし。
ふと思えば、あのお題は誰が作っているんだ?体育委員会か?
まぁ、なるようにしかならんか。
その翌日から本格的に体育祭の予行練習、競技の練習が始まった。
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