第5話 曲がり形にも
月曜日。
俺はいつものように登校し、いつものように教室の自分の席へ座る。こんな普通な生活。
普通過ぎて退屈なような気もするがそれは贅沢というもの。こんな日常こそ至高なのだ。
そんなことを考えながら机に突っ伏す。
すると、カサッと、紙のような物が机の上に置かれる音がした。突っ伏した顔を上げ、周辺を見渡すが、周辺には誰も居ない。
しかし、机の上には確かに紙が置いてある。見たところメモ帳を1ページ切り取ったものだ。
差出人の名前は書いていない。匿名だ。だが、メモ帳のデザインや、丸みのある筆跡からして女子っぽい。
「……今日の昼休み、1時に屋上に来て……」
ボソボソと、その手紙に書いてある文章を読み上げる。
こんなもの、怪しすぎる。
スマホに非通知で電話がかかってくるようなものだ。そんなの、誰もが警戒する。
こんな非日常的なもの、俺は必要とはしていないのだが。
昼休み。午後1時。
俺は、教室の自分の席でスマホ画面を眺めていた。あの手紙は完全にスルー。この選択は間違っていない。絶対に。
第一、手紙に自分の名前さえも書いてないんだ。話したいことがもっと重要ならば名前を書き忘れることなど無いだろう。
つまりこれは遊び。何でもないただのおふざけで誰かからか仕向けられた物だろう。
俺はそんな手に引っ掛からない。というか引っ掛かりたくない。俺は人の掌の上で踊らされるということが一番嫌いな人間なのである。
こうして教室で昼休みを過ごし、もう数十分経つ。そろそろ昼休みが終わる頃だ。
手紙の件を完全にスルーしたが、何事もなく昼休みは過ぎていった。これが何よりの証拠。
あれは誰かのおふざけだったのだ。
それからも、俺はいつも通りの生活を送った。
もう一度言おう。
普通過ぎて退屈なような気もするがそれは贅沢というもの。こんな日常こそ至高なのだ。
月曜日。
私はいつものように登校し、いつものように教室の自分の席へ座る。こんな普通な生活。
普通過ぎて退屈なような気もするけれど、それは贅沢というもの。こんな日常こそ至高なのである。
そんなことを考えながら窓から見える景色に目を向ける。
「咲希~おっはよ~」
「………出た……裏切り者…」
「またそうやって~人聞きの悪い。私は、二人の間に入って、二人の仲を引き戻す。つまり恋のキュー……仲直りのキューピット?」
「はぁ。いい加減やめなって。そんなことしても無駄だから。変わらないから」
「そこでだよ!咲希くん!」
もはや私の話なんて聞いていない。
「まずは、コミュニケーション!ちょっと挨拶するだけでもオーケーとしよう!」
「無…」
「無理じゃない。やってみないと分からない!」
「で…」
「でもじゃない!最初は間接的にでもいいから!例えばLINEとか?メールとか?」
的確に私の言い返しに被せてくる……。
少し先の未来でも見えているのか。
「はぁ………で?何?どうするの~?」
「適当に済ませようとしてない?」
「だってこっちはやる気ないし」
「二人のためを思って行動してるのに~」
「私のために動くなら何もしないで」
「二人のためね?」
「………はぁ…」
もう反抗するのは諦めた。何言っても聞かなそうだし。
「じゃあまずは、軽く
「牽制?」
「例えば、手紙を書いて、それを本人に渡す。匿名で、気づかれずに」
「匿名で気づかれずに?それ意味ある?」
「まずは神外くんの反応を見てみるの。手紙なら、筆跡とかでなんとなく男子か女子か分かるでしょ?あと、その手紙のデザインとか?」
「だから、反応見てどうするの。意味ある?」
「例えば、まるで告白するかのようなシチュエーションを作るとか?昼休みや放課後に屋上で待ってます、みたいな。その手紙を読んで神外くんがどんな反応を、どう行動をとるか。それを観察して神外くんの生態を観察。それを元に、これから活動していくわけですよ~」
生態を観察とか言ってよく分からないけど。
まぁ、ざっくり言うと敵の動きを見るってやつね。
でも、この作戦。もう結果は見えている。
「じゃ、咲希!手紙書いて書いて!」
「メモ帳でいい?」
「ちょい待ち!私のを使って。咲希のはシンプル過ぎて女子っ気が無いから」
「ディスってない?」
「気のせい気のせい。それじゃ、今からいうことを書いてね」
「文章まで考えてたんだ……」
私は愛依ちゃんの言う文章をそのままメモ帳に書いた。
『今日の昼休み、1時に屋上に来て』
「これだけ?これだと怪しすぎない?」
「いいの。こんな怪しさ満点の手紙で素直に屋上に行ったら面白いじゃない?」
「遊んでない?」
「遊んでるつもりはないけど楽しいじゃん?」
「それを遊んでるって言うの。でも、この手紙どうするの?気付かれずにって言ってたけど」
「神外くんのことよ?どうせまた自分の席で寝てるわ」
「そんなことまで分かるの…?」
……思ってたよりも、愛依ちゃんとアイツの仲ってかなり良さげ?
「寝てる間に机に手紙を置いとけばいいのよ」
「寝てなかったら?」
「寝てなくても机に突っ伏してるわよ」
「寝たふりってこと?」
「暇なんでしょ。何もやることないからなんとなく突っ伏す。神外くんらしい行動よ」
「そう…なの?」
分からない……。私にとってのアイツの情報は幼稚園の時から変わってないから全く分からない……。
「ほい、それじゃ行ってみよー!」
「今から?」
「そ」
「そ。って……はぁ」
愛依ちゃんの言う通り、渋々手紙を書き、差出人は匿名。その手紙を持ち、私は隣のクラスへ行った。
えーと、アイツは……。
教室の外からキョロキョロとアイツの席を探した。中から見ると不審者に見えるかも。
そして、今更気づいたけど、これ私じゃなくて愛依ちゃんが手紙を置きに行けばよかったんじゃ……。
「………まぁいいや」
私はアイツを視界に捉えながら呟いた。
案の定、アイツは席で寝ている。腕の中に顔を埋めて。あれなら寝ていなくてもバレないわね。
私は教室へ入り、一直線にアイツの席へ。
パサッと、手紙を置くときに音を鳴らしてしまったけど、そんな事どうでもいい。
このクラスに用が無くなると、すぐさま自分のクラスへと帰った。
「お、おかえり。ね?寝てたでしょ」
「愛依ちゃんってアイツの事よく分かるのね」
「人を見る目はある方よ?」
「そう」
「さて、昼休みが楽しみ!」
でも、結果は分かってる。
愛依ちゃんもアイツの事分かってるけど、私だってなんとなく分かる。
アイツは絶対来ない。
そして昼休み。
「ねー、今何時?」
「1時10分」
「ふぅん」
………。
「ねー、今何時?」
「1時20分」
「ふぅん」
………………。
「ねー。今何時?」
「1時30分」
「ふぅん」
「まだ待つの?来ないってば」
「やっぱり?」
「Yes」
「はぁ。残念だなぁ。よし、撤収!」
「ほーい」
やっぱり結果は分かりきっていた。
アイツが来ると期待するなんて。愛依ちゃんもまだまだね。
「って……何で私の方が分かるみたいになってるのよ……」
「ん?何か言った?」
「ううん。何でも」
まぁ、曲がり
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