第3話 壊れた優等生
人生において一度しか無い青春の日々、高校生活。友達を作り、友達と遊び、時には友達ではなく異性との……つまり恋人を作り、一緒に時間を過ごす。
これこそ、俗に言う青春だろう。
私も、こんな青春を待ち望んでこの高校にやって来た。だがしかし、その思い描いていた青春は、ある一人の男の手によって砕かれた。
人生において最大であり、ただ1つの汚点。
神外夕の存在である。
新天地だったはずのこの高校に何故?
何故こうもいつもアイツと同じ場所に……。
「…………」
「咲希?顔怖いぞ~?」
「あ、ごめん。考え事してた」
「今の表情だけだと、誰かを…いや、神外くんを殺すようなこと考えてそうだったけど?」
「殺し、か…。候補としてはアリね」
「神外くん殺さないであげてね!?」
時刻は1時。
学校は、昼休みだ。
ちなみに、もう入学してから一週間経つ。
この一週間。本当に疲れた……。
やっとあの日々から解放されたと思ったのに、またアイツと同じとこなんて……。
「はぁ……」
「ホント、そんなに仲悪いって過去に何があったの?」
「…………」
「だんまり、か。二人とも肝心なとこ口割らないからなぁ~」
「二人とも……?愛依ちゃん……アイツと何か話したの…?」
「ん?まぁ、普通に話すし、仲良くしてますけども?」
「裏切られた…!」
「別に咲希と敵対する気無いから!……ちなみにだけどさ。神外くんと仲直りする……なんて…」
「考えただけで死ねる」
「そこまで!?ますます気になるよ。二人の喧嘩の原因。元々は仲良かったんでしょ?」
「知らなーい」
「もう…」
アイツと決別してもう何年だろう。小学の頃から疎遠になってそこからだから………。
9年……か。もうそんなに経ったんだ……。
「じゃあさ。神外くんがその昔のことを謝ってきたら許す?」
「無い無い。アイツに自分が悪いなんて意識無いから。謝るなんてあり得ない。それに、そんな天変地異が起こっても私は許すつもりは無い」
「徹底的に嫌われてるなぁ……こりゃ仲直りは厳しいねぇ……」
「何か言った?」
「ううん、何も」
時が経ち、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。新入生と言えど、一週間も経てば友達もでき、クラスの中には仲の良いグループというものが出来上がる。
そのため、昼休みギリギリまで休み、次の授業の準備をしない人もちらほら見かけるようになるのだ。
不覚にも、私と愛依ちゃんもその一員となり、時間ぴったりに入ってきた次の授業の先生から「早く準備しなさい」と軽く叱られてしまった。
と、まぁそんな話はどうでもいい。
さっき愛依ちゃんと話してて、気になることが1つあった。
その気になる事とは、最近、アイツと愛依ちゃんの仲が良いという大事件が発生しているということだ。
それに、どうやらアイツ……私との関係の事までペラペラと……。
まさか、余計な事まで話してないわよね…?
「はぁ」
最近、ふと気付いたらため息をしてしまっている気がする。アイツと同じ空間に居るというだけで精神ダメージ受けるってのに、私の友人にまで手を出すなんて、ホント最悪……。
というか、いま思い返してみれば……この学校で初めてアイツと会ったのって愛依ちゃんから呼び出されたのが原因だった…。
「……がみ…と……み…」
つまり……その前からあの二人には関わりがあった?
いや、考え過ぎか。
「…とが……み…!」
愛依ちゃんは見た目通りのTHE・女子高生。
そんな愛依ちゃんがあんなのと関わりなんてあるわけない。
て!あーもう!何で私がアイツのことでこんなに悩まなきゃならないのよ!!
「外神!聞いてるのか?」
「あーもう!何!?」
耳障りな声をかき消すかのように大声を出し、机を力一杯叩いた。
刹那、教室は私の言動により静まり返った。
「…………」
教室が静まり返った事に気付き、我に返った。
そして、今更ながら、先程の声の主は先生ということに気付き、私は恐る恐る教室の前方を見た。
頭に血が上っていた私だが、この状況を目の当たりにし、サーっと血の気が引いていく。
私は察した。
終わったということを……。
「外神……」
「は、はい……?」
「授業中は集中して授業を聞け、そして先生には敬語、分かるな?」
「はい………」
私の今まで作り築いてきた『真面目で成績の良い優等生』というイメージがあってか、先生の怒りはここだけで済んだ。
はぁ~……怖かった~……。肝を冷やすとはこのことね。
ったく、元はと言えば誰のせいで……!
ますますアイツへの怒りが……!
結局、その後もアイツへの怒りや文句で授業に集中なんて出来なかった。
授業が終わり、休み時間。
私の周りの空気は少し、いや、大分変わっていた。原因は分かっている。
「咲希…さん?あの~……お声をかけてもよろしいでしょうか……?」
愛依ちゃんまで私のことを怖がっている……ふりをしているようだ。少し口元がにやついている。
「………怒るよ」
「怒るって言いながら目は泣きそうだぞ~」
「うぅ~………」
「あちゃ~……心中お察しします」
そう答えると、愛依ちゃんは教室から姿を消し……。
「放置!?まさかの!」
「慰めてほしい?」
「出来れば」
「正直でよろしい」
教室中の皆が私と距離を置く中、愛依ちゃんだけは寄り添ってくれた。持つべきものは友達とはよく言ったものである。
「咲希はいろいろ考えすぎなんだよ。もっと気楽に行こうよ。ね?」
「別に考えすぎとかじゃなくて、全部アイツが……アイツのせいで……」
「またそれか……。ホントに神外くん、嫌われに嫌われまくってるなぁ~……。ま、お互いか」
「………愛依ちゃんはアイツとどんな関係なの……。最近妙に親しげじゃない?」
いま一番気になることを直球に聞いてみることにした。
「ん~、まぁ親しくないって言ったら嘘になるかなぁ~」
「………あんまり関わらない方がいいよ」
「どうして?」
「…………どうしても」
「また肝心なとこ隠す~。絶対言えないの?二人の喧嘩の理由」
「…………」
「やれやれ。ホント、仲直りまで時間かかるな~これは…」
「仲直り?何の事?」
「もうこの際、本人にも言ってみようか。私ね。いま神外くんと咲希を仲直りさせようと動いてるの」
「……え、何?突然の裏切り発言?」
「違う違う!私はどっちの味方もしてるだけだよ~。このままギクシャクしたままで良いと思ってるの?」
「良…」
「駄目ね」
良い。と答える前に答えられてしまった。
「何で」
「なんとなく?」
「何それ」
「二人は仲良くないと何か駄目なの。分かる?」
「ミジンコほども分からない」
「微生物の中だと大きい方でよかったよ。まぁ、そういうこと。私は二人の間に立つから、仲良くね」
すると、タイミングよくチャイムが鳴り響くと、愛依ちゃんは自分の席に戻っていった。
まさか、愛依ちゃんがそんなことを企んでいたとは夢にも思わなかった。
最近アイツと仲が良いのも私と仲直りさせようとしているからだろう。
愛依ちゃんって、何と言うか……。
行動力すごいなぁ……。
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