第2話 サポート

とある教室の片隅。

俺達は、運命めいた何かを感じざるを得ない再会を果たした。


「外神……」

「神外……」

「咲希?どうかした?」

「………戻ろ」

「えっ?戻るって…咲希!?」


外神咲希は俺の顔を見た途端、その場から離れていった。

当然ながらそうするだろう。俺が逆の立場だったとしても同じ行動をとるはずだ。


また、この三年間もあの生活が始まるのか。

廊下ですれ違うたびにお互いに顔を背け、同じクラスになった場合はお互いに意地でもコミュニケーションを拒む。


ああ……思い出したくもない記憶がまた1つ。


中学二年の頃、あいつと同じクラスになり、しまいには席替えによって隣の席になってしまった事がある。


まさに地獄。

特に、授業でよくある隣の人と話し合いをして答えを出すという時間があったが、その時間は本当に地獄だったさ。

互いに何も話さず、ただ教科書やノートを見続ける。先生が席の近くに歩いてきたらほんの少しだけ体の向きだけを奴の方に向ける。


んで、結局一言も話し合いをせず、答えも何も出ないまま先生から当てられ、何も答えれず少し恥ずかしい思いをする。

これが起こるたび、更に奴に対する嫌気が増加していくのだ。ま、あちらさんも同じだろうが。


「神外くん」

「はい?」

「…………やっぱ何でもない。じゃ、また」


愛依は何かを言いかけたが、何も言わず行ってしまった。


「はぁ~……」


こんな重みのあるため息を吐いたのは中学を卒業して以来だろう。

またあの生活が始まると思うと気が滅入る。


「……気分でも変えようか…」


この憂鬱な気持ちを変えるために、軽く外に出ることにした。


教室を出て階段を降り、昇降口に向かい靴を履き、外に出た。


「ふぅ…」


外に出て、新鮮な空気を吸うだけでも気分というのは変わる。教室の中じゃ、人が何人もいてあまり良い空気とは言えないからな。


「「……にしても、」」

「何であの女とこうまで一緒に…」

「何であの男とこうまで一緒に…」


誰かと声が、セリフが重なった。

奇遇だな。俺と似たような状況の人でもいるのだろうか。そりゃ災難だ。


反射的に声のする方を向いてみる。そこには、


「あ……」


……こりゃ災難だ。

なぜここに外神咲希が…。


あちらさんも俺の声に気付くとこちらを振り返った。


「あ……」


外に出ているということは……考えることは同じだったか。


目が合うと、すぐさま外神咲希は校舎の中へと入っていった。


「……邪魔したようだ」


こんな生活が、これから……いや、これからも続く。


しばらく時が経ち放課後。


俺同様、あちらさんも意識して教室から出るのを避けていたのだろう。その為、あれから一度も出会うこと無く一日を終えた。


結局は会いさえしなければ普通の学校生活なのだ。何も気にすることはない。


「神外。お前ずっと教室居るよな?そんなにグラウンドに出るの嫌か?」

「あー……そうだな。教室とグラウンドが直通なら出るんだがな」

「何だそりゃ…」

「こっちの話だ。無視してくれていい。んじゃ、俺は帰るわ。文弥は?」

「俺はちょっと野暮用があるんで」

「そっか。じゃあまた明日」

「おう」


妙に長く感じた1日がやっと終わった。

これから先は、鬱になることも何もないストレスフリーな時間だ。


「あれ?神外くん?」

「八重野…さん?」

「愛・依!そう呼んでって言ったよね?」

「はいはい。愛依さんね。で、その愛依さんも帰り道こっちなの?」

「奇遇だね~。こっちの方角の人結構少ない気がしてたけど」

「そうなのか?あまり気にしたことないな」

「だろうね。神外くんって他人に興味なさそうだもん」

「まぁ否定はしない」


その後も世間話をしながら歩いていると、本題に入るかのように真面目な顔であの事を聞いてきた。


「神外くん。咲希と何かあるの?」

「それはどう答えればいいのか」

「否定しないんだ」

「事実だからな」


教室で会った時も何か聞きたそうな顔をしていたし、いつかは聞かれるだろうとは思っていた。


「まぁ、ざっくり言うと喧嘩した。それだけ」

「知り合いだったの?」

「まぁ、そんなとこ…」

「ふ~ん……」


しばらく沈黙が続くと、愛依は空気を変えるかのように明るい声色で話を続けた。


「ま、私には関係ないことだし?別にいいけどさ。でも、咲希は私の友達だから、泣かせたりしたら承知しないよ?」

「大丈夫だ。まず関わることがない」

「はっきり言うね」

「互いに徹底してるからな。すれ違った時はまず目を合わせない。話し声が聞こえたらその周辺には近寄らない。クラスが同じになったら何が何でも会話0。こうして俺らは距離をおいてる」

「もはやそれ、阿吽の呼吸ってやつじゃないかな……」


その後、分かれ道で俺達は別れた。

結局、愛依には軽くだが俺達二人の話を話した。愛依に話したところで特別面倒なことになることは無いと判断したからだ。


まぁ、これは愛依に限ったことではなく、別に誰に知られようが俺達は変わらない。


「ん?誰から……愛依?」


先程、二人で話している内にさらっと連絡先を交換されたのだ。そして、さっき別れたばかりなのにもう連絡が来たのだった。


その内容は……


『二人の事情は理解しました!と、言うことで!そろそろ仲直りも良いでしょ?私が二人の間に立ってサポートしてあげる!明日から楽しみにしててね!』


「………」


結果、面倒なことになってしまった。話さなきゃ良かったと、心からそう思った。俺であった。

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