秋月千夏ミーツチビモア(ものすごく遠い星生まれの侵略者の幼体)
ある日
街の中
変ないきものを拾ったの!
「もちょ!」
鳴き声は「もちょ」で、頭が丸っこくて足が八本だからタコみたいだケド、ネコミミのようなものが生えている。水の外でも動けて、薄いピンク色。触るとちょっとぬめっとしていて、弾力がある。大きさは、わたしのひざの高さぐらい。そんなに重たくはなかった。給料日後にピンク色の酒屋さんでウッキウキでお酒を買い込んだときよりは軽い。
「こういうのって警察? 生き物だから、保健所に連絡?」
たーちゃん(家の向かいの交番に勤めている警察官で、仕事でもよく協力してもらう頼れる相棒)に連絡しようとして、やめた。たーちゃんだってこんな生き物見たことないと思うし。頼まれても困るだろうし。
「もちょっ!」
「あっ!」
保健所の連絡先を調べようとしたらスマホをたたき落とされる。腕が某ゴムゴムの海賊並に伸びていた。
「こわ……やっぱりたーちゃん呼ぼう……」
たたき落とされたスマホを拾い上げて、たーちゃんに『ヘルプ!』とだけ送る。わたしがたーちゃんに助けを求めるシチュエーションは珍しいから、見たらすぐすっ飛んでくるの!
「もちょ♪」
もちょもちょ言いながらテーブルの上から降りて、昨日の夜飲んで台所に持って行く前に力尽きたチューハイの缶を持ち上げた。確か飲みきったはずだけど、飲み口のところに八本足のうちの一本を器用にねじ込んでいる。
「もっ!」
飲み残しがあったのか、からだをびくっとさせてその一本をしゅるしゅると元に戻した。おなかが空いているのカモ!
「このもちょちゃんは何を食べるの……?」
チューハイの缶を台所に置いてから、冷蔵庫を開ける。家の冷蔵庫でもちょちゃんが食べられそうなモノって何なの。タコっぽいから、タコが好きなモノをあげればいいの?
「エビちゃんのからあげちゃん、食べるちゃん?」
めぼしいものが見当たらないから、もちょちゃんを見つける前に寄ったスーパーで買った半額のエビのからあげのパックを見せてみるの。たしか、タコの好物ってエビとかカニとかの甲殻類だった気がするの。
「もちょ!」
「わあっ!」
足が二本飛んできて、パックごと口に吸い込んでいった。わたしのおつまみがっ!
「ひどいの! 半分こしたかったの!」
もちょちゃんはぷぷっとプラスチックのパックと輪ゴムを吐き出す。エビちゃん……。
「もちょ♪ もちょ♪」
小躍りしてる。美味しかったの?
美味しかったなら……まあ……。
「よくないの!」
「もちょっ!?」
わたしはもちょちゃんの頭を掴む。食べ物の恨みは恐ろしいの!
「もちょちゃんはタコみたいだから、きっとこの腕も美味しいの! タコのからあげにするの!」
「もちょ! もちょ!」
「こらっ! タコ! 人間の恐ろしさを思い知らせてやるの!」
「もちょおおおお!」
つるっとわたしの手から滑り出して、すごい速さで換気扇のすき間から出て行っちゃった。しまった! わたしの夕飯!
「こらー! 逃げるなあっ!」
急いで追いかけようとしてドアを開け放って外に出ても時既に遅し。あんな目立つピンク色の生き物なのに、見失っちゃった。
「……どうしたんですか?」
向かいの交番のたーちゃんが心配そうな顔をしてこちらを見ている。どうしたんですかじゃないの! 晩ご飯泥棒を捕まえてほしいの!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます