「偽アカシックレコード」
始業式から1ヶ月。
ゴールデンウィークを間近に控えた5月。
2年A組はざっくりと2分割されているの。
「歴史を書き換えればみんなが学校から解放される!」
まずはわたしと宗治くんを中心にした『この支配からの卒業』派。
最初の最初は宗治くんがなかなかわたしのコトを信用してくれなかかったけど。
ひとつひとつ説明していったらなんとなくわかってくれたっぽい。
編入初日から下手な嘘つくよりも全部喋っちゃったほうがよかったのでは説まである。
「みんなで神佑大学附属高校を卒業しよう!」
まだ見たこともないケドすんごい強い“アカシックレコード”で歴史を修正し、いらない人間を排除して、みんなが当然のように生きている世界を構築する。
宗治くんは政治家を目指さないし。
ニコちゃんは狼男に殺されないし。
帰るべき家もあって、みんながハッピー!
『うるさい』
もうひとつは『意味わからんので目先の中間テストに向けて勉強する』派。
誰だって「お前はすでに死んでいる」って言われたら「何それ」ってなるし。
実際そうだからそうとしか言えなくても「何言ってんの?」ってなるし。
「で! そのアカシックなんとかはどこにあるんだ!」
クリスさんの話を思い出して「白菊美華って人が持っているんじゃないの?」説を提案しておく。
とは言ってもですよ。
この白菊美華さんがどこにいるかもわからない現状が厳しい。
そもそも人なの?
というか、クリスさんもなんでわざわざ“篠原に奪われた”だなんて言ったの。
めちゃくちゃゴリ押しの冤罪だったの。
刀振り回しちゃったし。
怖くてたーちゃんとも顔合わせづらくなっちゃった。
「噂してたら来てくれないかな! こっくりさん方式とか! やってみるか!」
ノートをビリビリと破いて、鉛筆で書き込み始めた。
そんなので来てくれたら苦労しないなぁ。
おんなじ名字の白菊のミクちゃんとはどのような関係なんだろう。
また親子とか?
親戚とか?
「りょー」
ふらふら近付いてきたミクちゃんが、左手をスッと挙げる。
みんな勉強してるのにうるさかったかなぁ。
いいんちょごめんごめん。
わたしがいいんちょに謝ろうと立ち上がった瞬間、ジャリッと石を踏むような音がした。
「あれっ?」
足元を見てみる。
上履きで砂利を踏みしめていた。
周りを見渡すと同じように驚いてキョロキョロしている宗治くんと仁王立ちしているミクちゃんがいる。
見慣れぬ風景が広がっていて、思わず頬をつねった。
痛い。
というか、さっきまで神佑大学附属高校2年A組の教室内だったハズなの。
「ここどこ! どこ!?」
宗治くんが叫ぶと、背後の切り立った崖がドォーンという爆発音と共に破裂した。
慌てて耳を塞ぐ。
なんだなんだ?
なんかの撮影に巻き込まれてるの?
「ここは某県の採石場。教室では話せませんので【移動】させていただきました」
ミクちゃんの雰囲気が怖い。
そんなに激おこだったの?
これはマジで謝らないといけない?
「いや、あのね、ミクちゃん。悪気があったワケじゃないの。今度からクラスのみんなの邪魔にならないようにトーンダウンして喋るし」
「?」
首を傾げるミクちゃん。
いつもと髪型が違っておさげにしてるし。
ちゃんとボタン閉めてるし。
それで雰囲気がちょっと違うのカモ。
「ミクちゃん……。ああ、39番ですか。り」
なるほど、と手を打つミクちゃん。
もしかしてミクちゃんじゃないの?
ひょっとして?
「ウワサの白菊美華さんでいらっしゃる?」
わたしが確認すると「そうです」とこくりと頷くミクちゃん改め美華さん。
顔はそっくりなのに、髪型が違って敬語で喋るだけでこうも変わるかぁ。
わたしまで敬語になっちゃう。
「おおー! 向こうから来てくれた! すごい!」
呑気に喜ぶ宗治くん。
クリスさんの話が間違っていなければこの人が“アカシックレコード”を持っているの。
ここからの説得次第でなんとかなりそうじゃない?
なんか話せばわかってくれそうだし。
「39番には風車宗治の監視を命じていました。風車宗治は昔から面倒なことばかりしてくるので」
「お? おお?」
美華さんが左手の人差し指で宗治くんを指差して、そのまま上にすーっと移動させていく。
その指先の動きに合わせて宗治くんの身体がふわりと浮かんだ。
「希望は聞いておきましょう。マリアナ海溝に沈むのと、エベレストの山頂に登るのとどちらがいいですか?」
「え? その2択何?」
「アマゾンの奥地でもいいですよ」
地面から1メートルほど浮ばされた状態で、謎の3択を迫られる宗治くん。
これはもしかしてアレ?
宗治くんの命がピンチ?
「待って! 監視って! 宗治くんは能力者でもなんでもないじゃない?」
美華さんと宗治くんの間に割り込むわたし。
たぶんだけどわたしの【相殺】なら美華さんの能力っぽいものを防げるような気がしてる。
……あ、いや、防げるんだったら教室からここまで飛ばされてないなぁ?
「風車宗治は【威光】の能力者で、市井の人を操っていました。今、あなたもゆるやかに操られています」
「嘘だ! オレは能力者じゃない!」
「そうだそうだ! 能力者だったら装置が反応してるし!」
宗治くんとわたしが口々に反論するのを見て、美華さんは「うーん」と左手はそのままに右手をあごに添える。
とりあえず宗治くんを下ろしてあげてほしい。
手と足をバタバタさせて地上に戻ろうとしてるケド。
「バカは死んでも治りませんね」
「あー! バカって言った! バカって言う奴がバカなんだ!」
「永久凍土に埋めましょうか」
「なんで!?」
冗談じゃなさそうなの。
わたしはカバンの中に入っている(机と椅子ごと移動してきたのでカバンも横に下げてある)クソ重い“能力者発見”用の装置を取り出す。
はっきりと能力が発動しているのに何も反応していない。
電源を入れて落としてを繰り返してみる。
動く気配がまったくない。
「壊れてる!」
おいおいおいおいおいおいおい。
毎日こんなクソ重いガラクタを持ち歩かされていたってコト?
はーつら。
これ渡してきたのクリスさんじゃん。
なんで壊れたやつ渡したの。
ちゃんと動くかどうかを確認してから渡すべきじゃないの?
「39番から、あなたたちが“アカシックレコード”を探していると聞きました」
「そうだよ! “アカシックレコード”を手に入れて自由を掴む!」
「宙に浮かんでいる状態でそのセリフが言えるの、ウケますね。まずはご自分の自由を手に入れてからでは?」
そうだそうだ。
ちょっと脱線してたケド。
この白菊美華さんから“アカシックレコード”をもらわないといけないんだった。
ミクちゃんの方からお話ししてくれてたの助かる。
「わたしの持っている“アカシックレコード”を手に入れても、あなたたちの望みは叶いません」
「マジ?」
「ただの本ですよ。本当に。“正しい歴史”が載っている本ですから」
前提条件変えてくるのやめない?
わたしはここんとこずっと「“アカシックレコード”さえあればなんとかなるなるー」って頑張ってきたのに。
持っている人がそんなこと言っちゃうの?
「だから、あなたの欲しがっている偽の“アカシックレコード”のある場所へ送ってあげます」
「2冊あんの!?」
「オレは!?」
「風車宗治はここでわたしと話をしましょう」
偽の?
どういうコト?
クリスさんは2冊あるなんてコト言ってなかったし。
「座標軸は(0,0,0)」
「原点……?」
美華さんがわたしを四角で囲むようになぞる。
あー、なるほど。
わたしを対象にするんじゃなくてわたしの周りの空間ごと【移動】させれば【相殺】しなくて済むのかぁ。
頭いいなぁー。
【A little learning is a dangerous thing】
待ってました! 真打登場!
言いたいことがありすぎるね!
11話「第4の壁の上」
未来で待ってるね!
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