「神のみぞ知る」


 体操着に着替えて校庭に移動しようとしたタイミングで職員室から呼び出しがかかった。

 職員室に着いたら着いたで「応接室に行ってください」って言われちゃうし。

 なんだよぉ。

 球技大会も近いところでサッカーの授業なのに。

 ツイてないなぁ。


(担任は珍しくお休みしちゃうし。そういうイレギュラーな日なのかもしれないの)


 今朝、風車さんは学校に来なかった。

 ホームルームは影の薄い副担任が手早く終わらせていた。

 腹立たしいコトに風車さんはみんなから好かれるタイプっぽくて、わたし以外のほとんどみんなが何かと風車先生風車先生と慕っている。

 あんな冴えないおっさんのどこがいいんだか。

 最初はバチバチだったミクちゃんですら今や風車派だし。

 ミクちゃんはいいんちょだから周りに合わせているダケ説はあるけどね。


「失礼しまーす」


 職員室の並びで校長室のお隣の応接室の扉を開ける。

 初めて入るな、この部屋。

 あんまり使われていないのか、空気がホコリっぽい。


「話の前に窓開けてイイ?」

「……お前が寒くないのなら開けたらどうだ」

「じゃ、開けるわ」


 ソファーに腰掛けていたクリスさんに一声かけてから窓を開ける。

 1月のひんやりとした風が吹き込んできた。

 体育の先生が校庭に白線を引いていく姿が見える。


「今日のお弁当を届けに来たんじゃないの?」


 マジ焦ったんだから。

 ギリギリまで待ってたんだから。

 たーちゃんに“白いタクシー”で送ってもらおうかまで考えたケド、今日はたーちゃんいなかったし。


「今日で弁当も最後だ」

「完食しましたケド!?」


 突然の終了に一同驚愕。

 そんな殺生な。

 これからどうすればいいの。


「俺が忙しくなるからだ」

「部屋の掃除もしてくれなくなっちゃうの?」

「そうだ」

「そんなぁ! どうして!」


 忙しくなるから?

 めんどくさい仕事を押し付けられたとか?

 まさか異動とか?


「作倉が殺された」

「ころ……?」

「霜降は自殺して、対応にてんてこまいだ」


 トップが殺されて、実務のエース格が自殺?

 そりゃあ上も下もしっちゃかめっちゃかで大騒ぎじゃない?

 というか、そんな中を抜け出してわたしに弁当を持ってきているクリスさん、あとでめっちゃ文句言われそう。


「都合よく生き返ってくれているわけでもないようだ」


 そっか。

 別にわたしに伝えに来たワケじゃないか。

 それもそうか。

 作倉さんと霜降パイセンが死んだ話なんて直接お話しにこなくてもいいか。

 ラインとか電話とかでいいし。


「……わざわざ学校まで来たのって、2人がここに来てるかもって思ったの?」


 たーちゃんが以前ニコちゃんについて調べてくれたように、わたしはこの学校の全生徒の素性を調べた。

 勉強以外ですごい頭使って、マジで一生懸命に調べたのに何の成果も得られなかった。

 いや、何の成果も得られなかったってワケでもないか。

“わからない”というコトがわかった。

 この“わからない”は、組織が本当の本当に、“能力者”に関する情報を何もかも潰していっている証拠だし。


「そうだ。残念ながら無駄足だったが」


 風呂場で転けた風車宗治や研究室の事故に巻き込まれた氷見野雅人、この2人以外の全ての生徒の情報が出てこなかった。

 SNSアカウントもなければわたしがちょろっと調べられる範囲だと写真の1枚も残っていない。

 ニコちゃんに関しては自宅の住所まで行ってみたけど、そこには野口家ではない別の人が住んでいた。

 まるで、そんな人なんて古今東西存在していなかったみたい。

 他の生徒に関してはもう一度たーちゃんに警察側で残してある“能力者”が起こした事件の資料を漁ってもらえればいいのカモだけど、あんまり無理はさせられない。

 たーちゃんにはたーちゃんの本来の仕事があるし。

 そういえば、ニコちゃんと一緒に帰ろうとしたら校門から一歩踏み出した瞬間にニコちゃんは消滅したの。

 学校の敷地内でしか存在できない幽霊みたいな何かなのかも。


「会ってどうするつもりだったの?」


 とにかく、情報が一切出てこないイコール能力者の手で殺害された善良な一般市民。

 つまり、この神佑大学附属高校に通っているほぼ全ての生徒マイナス3人(わたし含む)は能力者に殺された人たちってコト。

 そんな人たちの魂がこの神佑大学附属高校に集められている。

 この推理は限りなく正解には近いと思う。

 何の為かはわからないし、まだ犯人の目星はついてないケド。


「……案外ドライだな、もっと驚くかと思っていたが」


 驚いているように見えないダケで、ぶっちゃけ焦ってる。

 わたしはこれまで通り高校生活でいいの?

 戻ってクリスさんの手伝いしたほうがいいんじゃないの?


「んまあ、今このタイミングで復活していないだけでそのうち復活するかもしれないし」

「そうか?」


ほら、復活するのにも何か条件があるのかもしれないし。

ゲームでもよくあるし。

リスポーンまでにクールタイムがあるんじゃない?


「復活すれば、作倉さんは宗治くんとも再会できてたのになぁ、とも」


 クリスさんから『風車宗治と氷見野雅人がいることを作倉には報告するな』と釘を刺されていたので、わたしからは何も言ってない。

 というか、学生生活が始まってからは作倉さんと全く連絡を取り合ってなかったし。

 宗治くんが作倉さんのことを何も覚えてないから余計に言いにくかったし。

 ためらっているうちに死んじゃったなぁ。

 死ぬ前に会わせてあげるべきだったかも。


「呼んだー?」


 ガチャリと扉が開く。

 入ってきたのは体操着姿の宗治くんだ。

 お前体育の授業はどうしたよ。


「男子は体育館でバレーボールじゃないの?」

「ちなっちゃんこそ、校庭行ってないのはなんで?」


 というか、ここで話してる内容外にも聞こえるの?

 さっき宗治くんの名前は出したけど。

 地獄耳?


「わたしは先生に呼び出されて」

「オレもオレも! 体育の前にやめてほしい! 次の授業の時でいいよなー」


 宗治くんは片手にさっきの授業で提出したハズの英語の小テストを持っていた。

 下手くそな落書きが描かれていて、その落書きの左上に“Not to LIE”と書いてある。

 おそらく、その英単語しか思い出せなかったんだろう。

 にしても落書きはないわ。

 そりゃ怒るわ。


「その子は?」


 クリスさんに気付いた宗治くん。

 なんて言おう。

 困ったなぁ。

 風車さんの時も困ったケド、こういうの口裏を合わせておくべきだったんじゃない?


「宮城賢です。おねえちゃんがお世話になっています」


 ソファーから立ち上がり、ペコリと頭を下げるクリスさん。

 おねえちゃん!?

 今おねえちゃんって言いました!?


「ちなっちゃんの弟さん!? 似てなくない……?」


 この前兄弟トークしてた時に“一人っ子”って話しちゃったから急に姉弟設定作らないでほしいの。

 クリスさんが本当に弟だったらそれはそれで嬉しいケドそういう話じゃない。

 似てないってトコロから軌道修正しようそうしよう。


「え、えっと、賢くん? お弁当届けてくれてありがとうね!」

「どこ小? 今日は学校休み?」

「賢くんは昨日ウチの隣に引っ越してきて! 引越し後の片付けがあるから今日はお休み、週明けから学校! だよね?」


 強引だけどこれでいこう。

 アホの宗治くんは「そっかそっか。手伝いに行こうか?」なんて言ってくる。

 手伝わんでいいわ。


「手伝いに来てくれるんですか?」


 敬語を使っているクリスさんが新鮮すぎる。

 じゃ、なくて。

 なんで手伝いに来させようとするの。

 嘘ついてるのがバレるでしょ!


「宗治くんは人助けの前に勉強しなさい!」

「え、ええ? なんで?」


 なんで? じゃないわ。

 さっき英語の先生に怒られたんじゃなかったの。


「すごく助かります。両親にも伝えておきます」

「ちょっと賢くん! わたしは許可してないから!」

「……おねえちゃんは不許可だそうです」


 クリスさんが何か言いたげだ。

 そう、おねえちゃんは許しませんから。

 隣で住んでいるだけのお前に何の権限があるんだって聞かれたらまあそれは確かにそうだけど。

 いや。

 考えろ秋月千夏。

 このんじゃなかったの?


「なんだよー。んまあ、勉強したほうがいいのは間違いないか!」


 本人たちの自覚がないだけ?

 ミクちゃんはテレビの話をしてくるし。





【An empty bag will not stand upright】









学校に関する衝撃の事実? っぽいものに辿り着いた一行。

その推理は正しいのかね?

ラッキーセブンの7話「もうひとつの真実」

組織、再編!

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