「もうひとつの真実」
本日は本部のオフィスのほうに久しぶりに来ている。
制服ではなくスーツに袖を通すのは、……えーと、今月は2月だから、5ヶ月ぶり?
この1ヶ月で、組織の再編が行われたワケだけど、わたしは相変わらず神佑大学附属高校に通っていていいらしい。
クリスさんをトップとして、中央集権的な感じに変わったっぽい。
ヒーロー研究課がなくならなかったコトだけは解せない。
いちばんなくすべきでしょ。
なぁんか甘いんだよなぁ。
「とっても悪いニュースとめちゃくちゃ悪いニュースのどっちから聞く?」
「どちらからでもいいが」
ノリが悪いなぁ。
なら“とっても悪いニュース”のほうからいってみよ。
「張り込み失敗しました」
ニコちゃんは校門の外に出られなかったワケだし。
他の人もそうなのカモと思って調べようとした。
校門のそばに突っ立って目の前を通っていく生徒に挨拶するなんて、なんもおかしくないハズ。
と、呑気に考えていたわたしの前に立ち塞がる1人の男子生徒がいた。
「宗治くんがさー、『勉強教えてくれ! 頼む! このままだと3年生になれない!』って言ってきて、放課後ずっと教えることになって」
成績崖っぷち。
“アホの子”風車宗治である。
「断れないのか」
「今日はおばあちゃんが亡くなったコトにして忌引」
隣の席で見ていて、ネタでもなんでもなく本当に先生の言うことを理解できていない。
赤点は取りまくるし。
宿題は忘れるし。
今日はちゃんと授業を受けられているのだか心配になっている。
「一緒に帰るとか、見張りに巻き込むとか」
「噂されると恥ずかしいし……」
というか、このまま同じ世界がループして続いていくんだとしたら、勉強しても勉強しても高校二年生のままなんじゃない?
ループっていうか、なんだっけ、サザエさん時空だっけ?
いやまあ、宗治くんはそんなコト知らないから焦ってるんだけど。
「いや、待てよ……宗治くんがこのまま順調に成長していったら存在を隠しきれなくなるんじゃない?」
現状の学力では高校卒業すら危ぶまれるレベルだし。
このままアホのままでいたほうがいいんじゃない?
うまいこと見つかってなくて隠し通せているワケだし。
高校に閉じ込めていたほうが都合がいいってコトない?
「神佑大附の怪奇現象が解決すれば“風車宗治”も在るべきところに還るはずだ」
「それって死ぬってコト? それはひどくない?」
せっかく復活したのに?
それはそれでちょっと……想像してた“風車宗治”像とはだいぶ違ったケド、今いる宗治くんと仲良くなってるのは嬉しいコトだし。
やっぱりこのままでいいんじゃない?
「……めちゃくちゃ悪いニュースを聞かせてもらおうか」
話変えてきたなぁ。
クリスさん的には全てを解決して、わたしたちがちゃんと歳をとってくれる世界にしたいんでしょ?
「さっき時間を操作するっぽい能力者に会ったの」
クリスさんはこの世界全体で起こっている“世界は停滞したまま、実際の時間は経過している”(カレンダーは2021年だからわたしは本来35歳らしい。ほんとかよぉ)状況を、『時間を操作する能力者の仕業っぽい』みたいなコト言ってなかったっけ。
会っちゃったんだよ。
学校内どれだけ捜しても見つからなかったのは、学校内にいないからじゃない?
「誰だ?」
「元オーサカ支部の。篠原さん」
オーサカ支部は今回の再編でなくなった。
だから、オーサカ支部に所属していた人たちはみんな本部に戻ってきてる。
篠原さんはわたしの1個上の先輩で、わたしが入ったばかりの頃に『なんかすごいカッコイイ人いる!』ってテンション上がった思い出。
知らんうちにオーサカ支部に飛ばされてた。
「そういえば篠原さんのオーサカ支部への異動って、誰が決めたの?」
「作倉だが」
ふーん?
……うーん?
「あの時、確かにオレは時間を操作する能力者がどうのと言ったかもしれないが、篠原がこの高校に何かしらの働きかけをしたからといってどんなメリットがあるんだ?」
「それはぁ……これから調べるしか」
復活している中に篠原さんの関係者がいるとか。
いやでも規模が高校丸ごとって考えると謎が深まる。
ようやく出会えた大ヒントなんだから無理矢理にでも結びつけたかったケド。
「でも、高校内に“能力者”いないし……最初の最初はミクちゃんも怪しいカナーって思ってたけど違いそうだし」
風車さんが言っていた“アカシックレコード”という単語。
ミクちゃんの“39番目の白菊美華”っていう返事。
当時はその後宗治くんが割り込んできて、突っ込むコトができなかった。
「クリスさんはアカシックレコードってわかる?」
「それだ」
まるで目からウロコがぽろりと落ちたかのような、わたしの想定と違う反応をされた。
どういうコトなんだぜ?
「篠原がアカシックレコードを持っている可能性を考えていなかったが、持っているとしたらあり得る話だ」
「何それこわい」
「森羅万象・全宇宙の“正しい歴史が刻まれた歴史書”がこの世界に於いての“アカシックレコード”の正体だ」
スケール感がえぐいの出てきた。
聞いたのわたしだけど。
「本来は白菊美華が所持しているものだが、篠原に奪われたか」
それでミクちゃんを見て風車さんが聞いてたってコト?
あれ?
もしかしてアカシックレコード初耳なのってわたしだけ?
勉強不足?
「すんごい本なのかもしれないケド、本だけ持ってても仕方なくない?」
「あれは自分の手で書き加えたり不要な部分を消したりして歴史を修正できる、自分の意のままにだ」
ヤバヤバのヤバ。
それ何、『ネバーエンディングストーリー』みたいな?
観たのだいぶ昔だからちょっと違うカモ。
「でも、そんなすんごい本でもクリスさんの能力で作れちゃったりしちゃうんじゃない?」
「それが出来たらすでに作っているが?」
ズッコケそうになった。
え、“無から有を生み出す”最強の能力じゃないの?
本ぐらい余裕のよの字で作っちゃえないの?
「秋月の神佑大附の制服は、既存のものとはボタンの模様が違う。【創造】は既にこの世に存在するモノと全く同じモノは作れないんだ」
「まじ? 登校したら見比べてみる」
特に縛りも制限もないのかと思ってた。
新しいものを創り出すから【創造】ってワケ?
クリスさんの不老不死パワーも“人間の姿でいて不変”ってコトかぁ。
ひとつ賢くなったぞ。
「秋月の【相殺】なら【疾走】にも対抗できるか」
わたしがこれからどうすればいいかが見えてきた。
篠原さんが何らかの形で“アカシックレコード”を白菊美華って人から奪い取って、その力で世界を停滞させている。
というコトなら、篠原さんから“アカシックレコード”を返してもらってなんかうまいこといい感じに書き換えればオッケー!
「わたしがアカシックレコードを手に入れたら作倉さんと霜降パイセンを復活させ、宗治くんやニコちゃんが生きていてもおかしくない世界を創る……っていうのは?」
提案してみる。
わたしが頑張るんだからわたしにも使う権利あるんじゃない?
そうであってほしいけど?
「それは篠原が持っていたらの話だ」
そんなぁ。
いやまあ確かに持ってること前提で話しちゃったケド。
ここまで期待させておいてないってコトはなくない?
【A lie can be halfway around the world before the truth gets its boots on】
ほんとうにあのさっちゃんが? ってみんな思ってくれたよね?
さっちゃんに関してはみんな『パフェワン』を読んでね。
これでいいのか8話「断頭台への行進」妄執の先!
幻想交響曲! 第4楽章! 三人称視点でどうぞ!
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