「死人がしゃしゃるな」
期末テスト終わり!
あとは冬休みを待つのみ。
学生生活、超楽しい。
「余裕の学年1位だわ」
テスト期間は下校時間も早い。
今日はわたしのおうちで、クリスさんお手製の野菜弁当を食べる会。
たーちゃんがことあるごとに「食べてみたいです!」と言っていたからちょうどいい機会なの。
交番でわたしがいっしょに食べていたらおかしいし。
クリスさんが暇な時にお部屋を掃除してくれているみたいで、人が座れるスペースができたし。
「意外と解けるもんですか?」
部屋の中のゴミが減ったのは本当の本当に助かるけど、置いてあったものがどこに行ったかわからなくて困ってる。
喜びと悲しみが半々ぐらい。
さっきたーちゃんにお茶を出そうとしたらコップが見当たらなくてペットボトルを渡しちゃった。
「試験範囲が大学受験で血反吐吐きそうなほど勉強した辺りだったの」
「そういうのって大学生活してる間に抜け落ちません?」
「わたしは超真面目に勉学に勤しむ優秀な学生だったんでー」
見る?
自己採点結果見る?
そんなに見たいなら見せてあげようじゃないの。
昨日受けた数学はだいぶ自信あるの。
確かこの辺に積んであるプリントのどれかがそれだったハズ。
「見せなくていいですよ」
「なんだつまらん」
「それよりもっと面白い……かどうかは人によりますが、俺の方で調べたことがありまして」
カバンから資料の束をどっさりと取り出すたーちゃん。
たーちゃんがカバンを持って部屋に上がってきた時、交番にある荷物を置き引きするような奴はいないんじゃない? なんて思っていたケド。
えーっと、なになに?
「……もしかしてたーちゃん、わたしのコト馬鹿にしてる?」
「え?」
9月1日から高校生になって、もう12月。
仲良しさんもできていい感じに毎日エンジョイしているし。
一見、順調なように思えるじゃない?
「まーったく調査が進んでなーい!」
「調査って、なんでしたっけ、死んだはずの人が生きている的なホラーなアレですよね」
「それ。ノーヒントにもホドがあるの」
当初はなんか『時空に干渉できるあるいは時間を操作する能力者』を見つけておしまい!
簡単でとってもイージーなお仕事の予定だったの。
もちろん2年生だけじゃなくて他の学年に能力者がいるカモ? って調べたけど。
影も形もありゃしない。
「……このまんまじゃただただ女子高生のコスプレして女子高生に溶け込んでいる23歳独身女性じゃないの?」
クリスさんからは何も言われてないし。
進捗の報告は求められていないし。
気にするコトはないのかもしれないケド。
「俺は馬鹿にしているのではなく、秋月さんの手助けになればと思って」
「うんうん。わかってるわかってる。わたしは仕事のできないクズ」
ふらふらと冷蔵庫を開けにいく。
よく冷えた缶チューハイゲット!
ヨシ!
「あのー、昼休憩終わる前に全部説明しておきたいんですが」
「否定して! クズの部分!」
「制服のまま飲酒されるのはちょっと」
「何? 今すぐ着替える? いいよ?」
テーブルの上に缶チューハイを一旦置いて、ブレザーを脱ぐ。
たーちゃんは見向きもせずに「話は秋月さんが組織に入る前の3月のことですが」と話し始めた。
興味も関心もないと。
へいへい、そうですかそうですか。
「能力者が起こした殺人事件を組織の協力のもとで解決していまして。被害者のうちの1人に野口ニコさんの名前があるんです」
部屋着を掴んだままぴたりと静止してしまう。
今、なんて言った?
野口ニコさんって、わたしの同級生の?
「類似する手口による犯行が1ヶ月に1度か2度。犯行の場所は異なるものの、すべて満月の夜であった。警察としては複数犯の線も睨んでいましたが、犯人の逮捕後に犯行がパッタリとなくなったことから単独犯と断定」
たーちゃんの手から資料を奪い取る。
中学校の卒業アルバムらしき写真は、間違いなくニコちゃんだ。
さっき殺人事件って言ったじゃん?
それなら、ニコちゃんももう死んでるの?
「ところで秋月さんは“狼男”ってわかります?」
「本で読んだり映画で観たりしたぐらい」
ページをめくってもめくっても被害者が出てくる。
ニコちゃんは当時高校2年生。
10代から30代までの女性ばかり。
「犯人は“満月の日限定で狼男に変身してしまう能力”の能力者だったんです」
たーちゃんが別の資料を渡してくる。
犯人についてまとめたものらしい。
名前は香春隆文。
年齢はわたしの1個上。
「あらイケメン」
「こういう感じがタイプなんですか? 猟奇殺人犯ですけど」
「この人がその……狼男への【変身】の能力? で暴れてたってワケ?」
「そうです。逮捕されてからも暴れに暴れて捜査員に大けがを負わせています」
“能力”にも色々あって、クリスさんみたいに任意で発動できるものもあればわたしみたいに条件付きでないと発動しないものもある。
他人に危害を加えるような“能力”はよくないと思う。
どんどん捕まえて更生させていくべき。
「組織側から協力してくださったのは霜降伊代さんです」
「あー、霜降パイセンかー」
「両腕両足の、いや、前足と後ろ足の関節部分を撃ち抜いて逃げられないようにしたところを機動隊が取り押さえて確保したと」
「さすが【必中】。カッコイイー」
わたしは入ったばかりの時に挨拶したぐらいの付き合いな【必中】の能力者。
高めのポニーテールがチャームポイントな180cm超えの長身の美人さんが霜降伊代パイセン。
お近づきになりたいとは常々思っている。
でも今組織にわたしの席ないじゃん?
同僚から「何しに来たの?」って言われておしまいなの。
あーあ。
「ここからが大問題でして」
「捕まえたのに?」
「ここまでも大事件を起こしていましたけど……取り調べで『知らない』だの『やってない』だの喚き散らかして、しまいには泣き出してしまったそうで。これが実際に担当した方が残した供述調書……のようなものです」
いくつか残されている。
どれも似たり寄ったり。
現場の写真を見せたら吐いたとか、頭部に装置をつけて「本当のことを言っているのか」を調べたとか。
たぶんだけど【変身】している間の記憶がどっかに消えちゃっているタイプじゃないの?
そうだとしたら本人に反省をうながしても混乱させるダケか。
「そして、本件に関しては一切報道されていません」
「どうして?」
「あー、……やっぱり知らなかったか。能力者関連の情報統制って、秋月さんの所属する組織の仕事ですよ?」
「え? そうなの?」
初耳かもしれん。
わたしは就職活動中に作倉さんから連絡が来て内定もらったなぁ。
仕事探すの大変だし。
給料も条件もイイし。
「あの絶大な支持を得ていた風車宗治首相が生き返っているのに、誰1人としてネットやテレビで話題にしていないことを不思議には思わなかったんですか?」
たしかに。
もっと騒ぎになっていないとおかしい。
高校にマスコミが殺到してしまう。
ひょっとしてたーちゃんって優秀? 名探偵?
「首相の件はまあ納得? だけど、そんなに被害者が出ているのに誰も?」
遺族だって黙ってないんじゃない?
だって、みんながみんな生きていたのに。
ワケもわからず殺されているのに。
「最初からそんな人間なんていなかったかのように沈黙させる。というのが、組織の方針でしょう?」
「なにそれこわい」
「秋月さん、仕事できるできない以前に向いていない説ありません?」
なんだとお。
たーちゃんだって勤務時間中にこんな激ヤバ事件について調べまくって平気?
資料作ってわたしに見せちゃって怒られない?
警察クビになったらどうするの?
「実は秋月さんも死んでるとか? お墓どこにあります?」
「そこにわたしはいないのに」
ふざけてないで、とりあえず全員分調べてみよう。
なんだかいけそうな気がしてきた。
【A word spoken is past recalling】
この世界での“能力”は『現在の科学では証明できない不思議な力』のこと、って“能力者保護法”で定義されているね。
それにしても“保護法”ってなんだろうね?
作中では2022年を迎えて6話「神のみぞ知る」
こんや、12じ、だれかがしぬ。
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