第4話 会合

「やっと見つけたわ。あなた、久しぶりじゃない?」森の奥から自分たちの周りをつつこむように声が聞こえてきた。これは、俺か?それとも隣の隊長に言ってるのか?隣の隊長の顔を見上げると、今までに見たことないような神妙な顔をしていた。

「なんだい。私の事が分からない…と?」不穏な空気がひしひしと伝わる。

「まさか…。お前は…」少し震え気味な声で隊長が言った。ここまで真剣というか、神妙というか、そんな顔の隊長は初めて見た。

「女性に対して、お前とは随分な言いぐさね。」薄気味悪い笑い声と共に、先ほどまで黒い靄だったものが、少しづつ人間の形に形成されている。俺より…いや隊長よりもでかい。1m90…いや2mはあるのか?異様に高い。黒いローブで身体を覆い、顔の下半分しか顔が見えない。見える唇はまるで血のような真紅の色をしていた。

「今更…俺になんの用がある。」

「今更…だって?笑わせるじゃないか。私が貴様を許す道理があるとてども思ったのかい?愚かだね」聞こえてくるその声は目の前の女性から発せられていた。靄はしっかりと形を整形した。目の前にいるのは魔女だ。しっかりと視認できる。先程より雨が強くなっている。視界が優れないのに、彼女の姿だけはハッキリと捉えることができた。

「おい。お前だけでも、裏から逃げろ。俺たちでどうにか出来る相手じゃない。」隊長が耳打ちをした。

「自分だけ逃げるなんて出来ませんよ!」と隊長に向かって言った。

「うるせぇよ。バカヤロー。引き際位見極めろ。それが最優先だ。」引き際だって?隊長はここで死ぬつもりなのか?仮に俺がここで引いて、それでどうなる。隊長の口振りからするに、恐らく…。

「お喋りする余裕があるのかい。目の前に私がいると言うのに。どこまでも神経を逆撫でするのが好きなんだねぇ。」プレッシャーが変わった。今まではぬらりくらりとした口調だったのが、急に凄味が出てきた。いや、これは…殺気…なのか。こんなに強烈に、ハッキリとした形の殺気を受けた事は生涯初めてだった。

逃げるなんて無理だ。ここに入るだけでも窒息しそうだ。こんなの相手に誰が敵うって言うんだ。俺は勿論、隊長だって…こんなの自然現象相手に立ち向かう様な物だ。雨がうなり、風は吹き荒れている。それは確実に自分達に向けられていた。

「貴様が私にしたこと。まさか、忘れたとは言うまいな。貴様はここで殺す。」風の勢いが増した。もはや、二人とも立っているの精一杯だった。

「こりゃ、どうしようも…ねぁな。」さすがに打つ手が無いのだろう。普段怠けて、やる気が無い隊長だか、無理や、出来ない等と言った言葉を聞いたことは一度も無かった。それに、実際どうにかする人だった。その人がどうしようも無いと言うのだ。

「そんな…僕たちはここで死ぬって言うんですか」

「おめぇは死なねぇよ。」突如風の中から黒い槍の様なものが隊長のお腹を貫いた。視界が悪くなっているなかで、全く気が付かなかった。それは魔女の方向から放たれた様だった。それは、お腹を貫いたあと、ヌチャと嫌な音をさせながら魔女の元へ帰っていた。瞬間、風が急に止んだ。依然、雨は降っているものの視界が開けた。目の前にはお腹から血を流して倒れている隊長がいた。

「ふっ、ザマァないね。なんて無様だろう。張り合いも無かった。所詮人間なんてこんなもんな。さぁ、返して貰おうか。私の宝物を」隊長を見下ろす形で魔女がいい放つ。宝物?なんの事だろうか。それに返す?目の前の事で急に色々と起こり過ぎている。頭がパンクしそうだ。

「おめぇ…の、探し物は…ここにはねぇよ」

「隊長。喋らないで下さい。死んでしまう!」必死に拙い治癒魔法を施す。だが、専門でもなければセンスもない。手持ちの回復薬を飲ませようにも、こんな状態で飲めるわけがない。どうしたらいい。

「ふん。さっきから邪魔な小僧だね。話の邪魔だよ。退いてな。」お腹に感じ事のない衝撃を喰らったと同時に後ろに吹き飛ばされた。

「ぐわっ!」勢いよく、飛ばされ後の木に背中をぶつけた。衝撃で片目の色付きのグラス(コンタクト)が割れた。

「セオルパァ!逃げろ!」隊長が割れんばかりの声を自分にぶつけた。気を失いそうになっていたが、その声で気が付いた。

「お前。それをどこで手に入れた。なぜ、お前が持っている。なぜ。やめろ。返せ。ふざけるな。穢らわしい。やめろ。返せ返せ返せ返せぇ!!!!!!」魔女が自分の顔を見たとたん、驚いたと思えば、急に咆哮をした。その声は雷鳴と思える程だった。大地は揺れ、鼓膜が割れそうだった。そうして叫んだ後、最初に現れた姿とは思えない程、醜く取り乱してこちらにゆっくりと手を伸ばしてきた。それはまるで断末魔の用に耳をつんざく様だった。先ほどまで余裕で溢れて人間と言う生き物を見下しいたのに。俺は酷く混乱したのと同時に目の前の光景が非日常過ぎて、足がすくんで立てなかった。あぁ、俺はここで死ぬんだろうか走馬灯って見ないんだな。短い人生だったな。親孝行も出来なかった…親父…母さん、ごめんね。目の前に迫る彼女の顔をふと見たとき口が微かに動いて見えた

「ペトラ…」そう呟いた様に見えた。そこで意識は途切れた。

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