第2話 晴れ

パッパーパー!パッパー!

下手くそな起床ラッパが鳴り響く。いつまでたっても上達しないな。俺が現場に配属されてもう1ヶ月になると言うのに毎日毎日下手くそなラッパだ。支度をして広場へと向かう。

「おはようございます…」歩いていると横から眠そうな声で挨拶が聞こえた。コートだ。

「あぁ、おはよう。眠そうだな」珍しいなこの男は真面目なので基本的に早起きなのだが何かあったのだろうか。そんなことを考えていると

「おっはよーございやーす!」と大きな声でレインがこちらにやってきた。

「どうです?俺の起床ラッパ。目覚ましには最適な音色でしょ??」下手の横好きだな。あえて何も言わない。

「おやおや?これはコート君じゃないか。珍しいな君がそんなに眠そうにしてるなん」普段はダラダラとしている癖に自分が早く起きたときだけこうやって言うやつがいるんだよな

「あ、あぁ、昨日ちょっと遅くまで起きてたからね」

コートがそう言うとレインは頭に?を浮かべながら三人で広場へと向かった。

 広場に現場部隊が集合した。毎朝日課になっている

朝の点呼作業だ。昨日とはうってかわって快晴の空だ。せめて土曜日にこの天気になってくれてたら俺は改造なんかせずに、頭痛に悩まされる事もなく過ごせたと言うのに。…いや、改造は多分してたな。

 「今日は来月合同演習のある魔の国について軽く学んで貰うぞー、各自資料はちゃんと読んどけー」気だるそうに隊長が隊員に言っている、隊長はいつもこんな感じだ。気だるそうに、やる気があまり見えない。無精髭を生やし、加えたばこ…。なぜ彼が隊長なのか未だに疑問である。確かに力、こと接近戦においては海の国最強とも言えるらだろう。しかし、人の上にたって指導って言うのも違う気がするな…。そんな失礼なことを考えながら配られた紙に目を通していた。

「やぁ、諸君。今日も元気かな!」隊長の方から明るい声が聞こえてた来た。

「おいおい、あんたまたこんな所に来て…なにしてんの。」隊長が頭を掻きながらため息をつく。

「王様に向かって《あんた》とは、君も変わらんなー。ゲイオス君!私だって王様だよ!?国民とは真摯に向き合うものさ!君たちに挨拶したり、様子を伺うのも私の使命だろぉ?」人差し指を、わざとらしく立て左右に揺らす。もはや、見慣れた光景になりつつある。最初はそれなりにビックリもしたがこの国の王様とはこうなのだ。国民からするとふんぞり返って何もしないなんかより全然良い。

さて、と一つ咳払いをしてこちらに向かって話し出した。

「君たち国王軍は私の、国の大事な存在である。今でこそ大きな争いは無くなったが他国のアウトローや、国内の黒い噂を捻出するような輩。または森から出てくる魔物等。君たちのおかけで私はこうして今自由に動けている。私はその事実に感謝している。しかし、ここ最近あまり芳しくない噂を耳にしている。確かに君たちは《槍》だ。一番危険な仕事をお願いしている。命も危険だってしばしばあるだろう。」

「おい、もういいだろ。朝から元気だよな。まったく。」と隊長が割って入る。

「ん、あぁ、そうだね。じゃあ、皆!頑張って!…」

去り際に小さく隊長に耳打ちをしているのがちらっと見えた。

 軍の隊とは言えど、国王が言った通り戦いがあるわけではないので基本的には自警団のような動きをしている。国内の不穏分子や他の国から攻めてくる輩などの捕縛等を主な仕事としている。10数年前までは他所の国との小競り合いなどもしばしばあった見たいだが自分が団に入隊してからは起きていない。ただ、先ほど国王が言ったように最近あまり良くない噂をちらほらと耳にしている。詳細がはっきりとしていない為公に言うことは出来ないが、皆懸念している。といのもどうやら国境付近にある森付近から見慣れない人影を見るという噂が最近出ている。特に実害があるわけではないが、何かあってからでは遅い。先に調べておいて損はないだろう。

 先ほど配られた魔の国についてざっと目を通した。魔の国は昔魔術学校にいたとき以来だなと思っていた。

「おーい。パッツァ。今日は俺と見回りに行くぞ~」ゲイオス隊長が声をかけてきた。そうか。今日はこの人と警備に回る日だった。

「今回は寝ないでくださいよ?前回一緒に見回りしたときサボって寝てたから、自分が一人で全部やったんですから。」

「へいへい。お前が襲われそうになった時は守ってやるよ。」手をひらひらとさせながら歩いていった。

「ったく。そんな事態にならなくても警備はちゃんとして下さいね」と後ろを追って走り出した。

 国境周辺の森へ警備に赴いた。先ほど言われいた件の森である。

「隊長。この森の噂知ってますか?」

「あぁ?噂ぁ?知らないな。あのおっさんが言ってたことか?」自国の王様をつかまえて『おっさん』とは凄い言い様だな。

「他でも色々と噂になっていますよ?それにここら辺ですよ。その人影が見られるという森。」と隊長にそれとなく聞いてみた。が相も変わらずのほほんとした感じで

「おぉ、そうか。まぁのんびりしようぜ。」どうせ雨の日にしか現れないよ。

「あれ?なぜ雨の日だって?それに隊長興味ないんじゃ…」と言いかけたが

「ばぁ~か。これでも隊長だ。お前らの喋ってる内容位はある程度把握してるわ。それにさっきあのおっさんに言われたとこだ。」と遮られる形で言われてしまった。

「そう…ですか。」それ以上は何も言えなかった。なんとなくそんな雰囲気が隊長かた感じたから。この人はいつも飄々としてはいるが時折厳しい表情をすることがある。その表情はまるで般若のように寂しいような怒ったような…

 別行動でレインとコートが同行することになった。

「おう、そういえば昨日遅くまで起きてたって言ってたけど。珍しいな。真面目なお前がそんなことするなんて。」レインがそう頭に腕を組んだ状態でコートに言った。

「まぁ…昨日は少しやりたいことがあって。夢中になっているといつの間にか時間がたってたんだ。」と眠そうな目をこすりながら答えた。

「ふ~ん。そうか。ちなみに何してたんだ?」

「それは…ちょっと言えないかな」

「あっそ。ならいいや。それよりさ。お前魔の国言った事あるか?俺初めてなんだよ。緊張するよな~」とコートに対する興味がすぐに消えてしまった。少しあきれた感じでコートが

「興味がないなら詮索するなよ。まぁいいけど。魔の国は言った事あるよ。一応僕も魔術学校に行ってたからね。卒業はしてないけどね。」そ答えた。

「そうなんだ。俺も行っとけばよかったなぁ~」とレインが言った。そんな会話をしながら警備をしているといつの間にか空が暗くなっていた。今朝の快晴がまるで嘘かのごとく雷雲が近づいてくる。

「あー、こりゃ降ってくるな。おい。コートどうするよ。」とコートの方を見るとやけに険しい顔をしながらコートが空を見上ていた。コートがそんな顔をするとは思っていなかったレインは少しぎょっとしたが

「なんだ?コート洗濯物でも干してきたのか?」と少し冗談を言った。その声を聞いてコートがふと険しい顔をやめて

「あぁ…うん。そうなんだ。でも今からじゃ帰っても間に合わないから…」といつにも増して暗めの声で言った。

「なぁ。レイン先に帰ってくれないか?僕はこの先ちょっと周ってから帰るよ」

「え?いや一緒に行こうぜ。今から帰った所でどうせ濡れちまうからな」と言ったが

「ちょっとこの先用事があるんだ。どうせもうじき解散だろ。僕がその分まで周ってやるから、先に帰っていいよ。」というのだ。少し不思議には思ったが

「そう…か?じゃあ頼んだよ」とレインは一足先に城へ引き返した。

「ごめんな。レイン」と小さくつぶやいた。おそらくレインには聞こえないだろう。 

 これは本格的に降って来そうな空になってきた。この薄暗い森の中で雨なんか降られたら面倒なこと極まりない。地面はぬかるみ、視界は悪くなる。それにあの噂も気になる。

「隊長帰りますか?そろそろ雨も降ってきそうですし。時間もそろそろいい時間じゃないですか?」と隊長に問いかけた。

「ん?あぁ。そうだな。帰るか」とすんなり許可してくれた。どちらかと言うと本人も帰りたかったのが本音だろう。だが、隊長の顔が少しだけ険しい気がする。

「隊長?どうかしましたか?」問いかけてみたが

「何もねぇよ。さ、帰るぞ」と言って歩き出した。

「…まえ…かえ…せ」何か聞こえた。空耳か?

「隊長何か言いました?」

「何も言ってない。早くこの森からでるぞ。雨が降る前に」急に真剣な顔になった隊長をみてただ事ではないと判断した。地面からほのかに匂いがする。雨が降り始める前の特有の匂いだ。と走っていると目の前に黒い靄が現れた。視認するには目を凝らす必要があるほどに薄いが確かににあるのだ。

「くそ。出やがったか。」隊長がぼっそと呟く。匂いが一層強くなる。また、頭が痛くなってきた。

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