雨と石
@Kngr
第1話 雨
ザーザー
朝から止む気配の無い雨が降りしきっている。
「いて…」まただ。雨の日は決まって頭が痛くなる。普段から頭が痛くなることはちょくちょくあるのだが、雨の日は必ずだ。気圧のせいだろうか?いや、なんでもかんでも気圧のせいにするのは気圧が可哀そうだ。そんなくだらない事を考えながらベッドの上で起きれずにいるとドアがけたたましく叩かれる。
「おはようございます!!!」一層でかい声が廊下や部屋に響き渡る。
「少しは静かにしてくれないか…頭が痛いんだ。」小声でそういうが聞こえていないのかまだドアの前にいる。そしてとぼけたような声を出して
「あれぇ?出かけたのかな?」独り言の声量では無いなと呆れながらドアを開ける。
「あ!やっぱりいましたね!」顔を見るなりまたでかい声がまた飛んできた。
「わかったから静かにしてくれ。頭が痛いんだから…」と言いながら部屋に招き入れる。やかんに火をかけてコーヒーの準備をする。狭い軍の寮の部屋では2人も男が入ればキツキツだ。
「んで?なんだ休日に野郎の顔なんか見に来やがって。どうせ明後日になればまた顔を突き合わすってのに。」言いながらコーヒーを差し出し、ベッドに座る。
「いやぁ、ちょっとお願いがありまして…。この前の遠征で道具が壊れてしまって。んでそれを強化改造して欲しいと思って!」だから、声がでかいだよ。こいつぁ
「おいおい、そんなの軍の整備師に頼めよ。俺はお前の便利屋じゃないぞ」やっと置きだした頭を使って考える。まぁ大方俺に頼む理由はわかってる。
軍から支給された武具等は勝手に改造してはいけないのが鉄則とされている。だが、俺みたいに勝手に改造する輩もいる。勝手な改造ははっきり言ってアウトなのだが基本見つかることも無いし、なんなら改造品を見つけられても実用性があるとされれば採用もされる。だが一応は基準が存在しているので勝手に改造してはいけないのだ。
「公に俺に改造を頼むなよ。そういう事なら整備師を休み明けにでも捕まえてお願いしろよ。面倒くさい」とは言ったものの正直改造は好きなのでやりたい。ただ、最近隊長と整備長にそろって大目玉を食らった後なのだ。
「俺に魔石あげますよ!!この前の遠征の時に拾ってきたんですよ!」
「おい!レイン!俺を物でつられるような安い男だと思うなよ!今からその道具と要件を書いてすぐに持ってこい!」あれ?釣られてね?まぁいいかどうせやることも無いし。
「ありがとうございます!えっと…」
「パッツァでいいよ」
「ありがとうございます。パッツァさん!」
コーヒーをグイっと飲み干して自室え颯爽をかけていく。まるで嵐だなと思い自分の分のコーヒーも飲み干す。この隊に来てから1か月か。以前は整備側にいたが、現場部隊の隊長から引き抜きという形で現場部隊{正式名称:魔法海現場特攻部隊}に所属することになった。とは言っても他国と戦う事なんかは無くなってしまった為、実態としては自国の警備団みたいなものだ。
ここ海の国は国の周りが海で囲まれており、貿易が盛んであり近隣諸国とも大きないざこざがここ数年起きていないため平和そのものの国である。特産品などはもちろん海産物でよその国からも観光によく訪れる。国境警備みたいな立場をすることもあるが、治安が良く問題が起きることは滅多にない。現海の王に関しても政治に積極的に取り組み、国民からの信頼も厚く暮らしていくのには何不自由無いだろう。そんな国で軍に所属してもあまり意味がないと言われればそうなのだが、親に勧められた為、軍に入隊した。親孝行にもなるだろうし、平和を守れる仕事なら誇りも持てる。
そんなことを考えているとレインががしゃがちゃあわただしい音を立てながら道具をを持ってきた。
「これとこれです。内容はこちらに書いてますので!これはお礼の石です!」
「おいおい、一つじゃないのかよ。しかもこれって結構面倒だぞ…」渡された紙を見ながら軽く頭を抱えると共に、既に頭の中では図面が展開されていた。
「じゃ、お願いしますね!」それだけ言うとそそくさと部屋から出て行った。
「あーあ、こりゃ損な話を受けちまったかな」なんて言いながらも口の端は持ち上がっていた。外はまだ雨が降っている。鼻を雨の匂いがつく。雨にも匂いがあるらしい。そういえば頭痛が収まっている。
「毎度毎度雨の旅に頭が痛いんじゃ、やってられんな。さて…っと」頭の中の図面面を紙に書き出す為作業台のライトを付けて図面を引き出す。湿気のせいか紙がくしゃりと歪む。
もう朝か…結局あのままぶっ続けで改造してしまった。我ながら呆れる。こうし貴重な休みを部下の為に使ってあげるとはなんてお人好しなんだろうか。しかし、やつはそんなこと思わんのだろうな。今日は自分の為に使ってやる。
「とりあえず…」独り言を呟きながらベッドに倒れ込んだ。今日も雨なのか?また、チクりとした痛みが頭部に走った。鼻腔を雨の匂いがつく。だが、徹夜したせいで眠くてそんなことはどうでも良いのだ。泥のように眠ろう…
「おやおや、私の大事な石はこんな所にあったんだねぇ…」誰だ…夢か?
「お前さんは誰だい?」俺に話しかけているのか?
夢と現実の区別がつかない。しかも目も開かず、口も開かないので何も出来ない。金縛りか?
「なんだい?こっちが話かけてあげてるって言うのに。黙りこくって。」抑揚のない声だけが脳内に響く。誰なんだ。軍の施設の人間か?
「ふん、まぁいいさ。とりあえず返して貰うよ」返す?何を?さっきから誰が何を言っているんだ?
「さぁ、おいで」そう声が聞こえたと思ったら酷い頭痛がしたと同時に目が覚めた。自室のベッドだ。ならば先程のはやはり夢か?ふと時計に目をやると、夕方になっていた。
「随分と…寝たな。」今さっき起きたことはなんだったのだろうか。夢…にしてはあまりにも生々しくリアルだった。いや、目が開けれていないので実際には見ていない。だが脳の中に直接映像と声が流れてくるような、そんな感じだった。しかし、部屋には変わった様子が無い。とりあえず目覚ましにとコーヒーを入れようとベッドから立ち上がると、レインから頼まれていた防具が無くなっている。変わりにメモ用紙が残っており、(ありがとうございました!これはお礼です!ちょっと奮発してますよ!優しいでしょ!)と書かれていた。その上には奴の言う俺が2.3個置かれていた。あいつ、勝手に部屋に入って持っていきやがったな。いや、無用心なのは俺なのだが…それにしても勝手に部屋に入るか?
「明日小突いてやる。」独り言を呟きながらながら
コーヒーを入れる。外を見ると雨上がりなのか、地面が少し濡れているが雲の切れ間から夕陽でている。やはり雨が降っていたいたようだ。と、いうことはまた、雨の頭痛のせいで変な夢を見たのだろう。
「低気圧め」変な夢を見せられたので、昨日言っていたことを忘れ、気圧のせいにした。コーヒーを飲み干した後、台所に向かうとカップが置かれていた。昨日レインに出したやつだろう。
「明日からまた仕事だな…」貴重な休日なにもしていない感覚になり虚無になりながらも夕飯の準備をして眠りに着いた。我ながらよく寝れるものだ。それにしてもレインのやつめ、カップを運ぶ気遣いが出来るなら他の所に気を使って欲しいもんだ…。そんなことを考えているうちにまた眠りついた。
その日ある夢を見た。小さい村からこそこそと森へ抜けている。息を切らして走っている。小さい子供の目線だ。自分の目線になってる。自分の記憶か?いや。こんな記憶は無い…
「遅くなった!ごめんね!」と言葉を発した。女の子だろうか。目の前には背の高い綺麗な白い女性がいる。目鼻立ちはハッキリとして、髪は長く綺麗だった。綺麗なローブを身に纏っていた。
「ふふ。大丈夫よ。そんなに急いで来てくれたのね。ペトラ。ありがとう。」この子の名前だろうか。ペトラ…やはり聞いたことが無い。それにしても綺麗な人だ。この子の母親…いや親戚?わからない。
「そういえばあなた…名前はなんていうの?」ペトラが女性に尋ねた。
「私には、名前が無いの。◼️◼️だから。」一部聞き取りづらい。なんて言ったのだろう。
「私がつけてあげる!」とペトラが言った。
「あなたの名前は◼️◼️ね!」そこだけノイズがかかったように聞き取れ無かった。それに何故自分はこんな夢?を見てるのだろうか。と思った時目が覚めた。
外はまだ暗く、雨が少しだけ降っている。明日は仕事だ。早く寝よう。その夢はそれっきりだった。
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