海へ

「うわぁ 海に来るとき最初に車から見える海が一番好き」

「え?車から見るだけで?」

「ほら 分からないのぉ?ほらっ。いきなり視界にぶぁ〜って広がるでしょ。」

「うん 海は広いからな」

「もっ!かずちゃん 芸術センス無いんだなあ」

「ああっひどいな。これでもジュエリーのデザインするんだぞっ。今日は俺、陽菜の被写体でいいよ」

「じやあ今日は、海男 かずちゃんねっ」


なんて幸せなんだ。なんて愛おしいんだ....

ツンとかデレとか言ってる場合じゃねー。

どうして俺はこんな陽菜を失うんだ......なんであの時理由も聞けなかったんだ。


「かずちゃんー!来て来てっ」

波打つ海に足を入れたりひっこめたり、砂浜に立つ陽菜が海の太陽の反射より煌めく笑顔で手を振っている。


あ、たしか陽菜の白いハットが飛ぶんだ

「陽菜〜帽子〜っ」

俺は陽菜の帽子を風から守るため走りよる

そして、俺は海にダイブ.....同じじゃねぇか


「きゃはははははっ かずちゃん。そのまま!そのまま!」

陽菜は大喜びでびしょ濡れの俺を撮った。


俺は、何か前とは違うことがしたい。

そうだっ、二人の写真。

「あの〜すいません。あの〜」

無視かよっおじさん。

「どしたの?」

「俺らの写真撮ってもらおうと思って」

「すいませーん!写真撮ってもらえますかあ?」

「あっはいはい いいですよ〜」

聞こえるんかいっ。

俺だから無視したな....。



「はい、はいチーズゥー」



「ありがとうございましたっ」


「かずちゃんどうする?服.....」

「その辺りで買うよ。」


そうそう、このしがないスーパーの横の衣料品店。

「かずちゃん!お誕生日だし、選んであげる。買ったげる〜。待ってて。どうせそんなびしょ濡れじゃ、入れないでしょ。」

陽菜は真面目な顔して、服を選ぶ。

でもさ、ここ初老のおっちゃん、じいちゃん用みたいな衣料品店だぞ。


「じゃじゃーん。さっ着替えましょ」

俺は海沿いの道路で着替える。

「な!陽菜 俺の下半身かくして」

「なんで~誰も見てないよっ。私たちのことなんて海しか見てないよ~」

「はいはい じゃ全裸でひと泳ぎしてくるわ」

「やめて」

そうだ、あの赤いハート柄トランクスはこの時のだ。このパンツみたら、泣けてきた.....。


「陽菜〜ずっと一緒にいような。このパンツが色褪せても」

「何言ってるのぉ?早く服も着てっ。ねっ。」



ザ―――ッザ―――ッ

急な雨が降り注ぐ


「ギャーッせっかく着替えたのに!」

「かずちゃんっ走るよ!」

俺達は、ひたすら真っ直ぐな海と並行して続くアスファルトを手をつないで走り抜けた。右には陽菜、その奥には海


土砂降りの中、その景色はすごく綺麗だった幻想的だった。水滴が、水晶の玉みたいに。ブルークオーツのカケラが散りばめられたみたいな雨粒と海。ブルークオーツは透明に近いブルーが美しいんだ。

それを背景に走る陽菜。陽菜には青がよく似合う。



俺のマンションに着いて陽菜は誕生日だからと、料理をする。俺達は半同棲状態だった。

そうだ、嫁には内緒で俺はいっぱい陽菜の思い出の品を忍ばせたまま結婚したんだ。


見合い結婚しようが俺は陽菜がずっと頭から離れなかったんだ。

だるまの箸置きだって、コバルトブルーの皿セットだって、陽菜を連れて行った取引先のガラス工房屋がくれたコップを使う度、見る度に陽菜を想った。ものがあるだけで安心した。


振られた後から意地になって連絡が取れなくなった陽菜を探した。

陽菜はマンションからも引っ越して、陽菜の仕事関係も誰も知らないといった。

今回は、絶対別れないぞ。



「かずちゃん シャワーしたら?」

「陽菜も雨で濡れただろ?今一緒に入ろ」

「あーっ!ダメダメ。ご飯作る前にそんなことしたら、ベッドから出られなくなっちゃう」

へへっ。そうだな。

「ちっ。じゃ先入る」


そうだ。俺はこの陽菜に

「お風呂にする?ご飯にする?それとも....」

と毎晩言ってもらうため。

いつ戻るかわからない未来にかけるぞ。

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