第5話 見た目の中身
「実はさ、最近やたらと見た目について言われることが多くて」とチカが話始める。
「その金髪とピアスのこと?」と僕が聞く。
「うん。うちの校則って結構緩いじゃん。成績さえ良ければ見た目はそこまで厳しくないっていうか。髪染めてもいいし、ピアスも別に禁止されてないじゃん。けど、最近生徒指導の先生にいろいろ言われることが多くて」
「なんで今更?今までそんなこと言われてなかったよね」と僕はチカに聞く。ゴリはカバンからお菓子を取り出して食べている。
「うん。一年の後半から髪の毛は染めてるし、ピアスも開けたけど言われたことない。成績が良ければ何も言われないからこの高校選んだのに」とチカは暗い声で言う。
「多分だけどさ、3年とか2年の誰かが変なこと先生に言ってんじゃないの」とゴリがいう。
「それってどういう意味」と僕が聞く。
「目立ちすぎると攻撃に的になるってこと。俺も去年までそんなことしょっちゅうだったよ。一年生で野球のレギュラーに入っただろ?それで2年とか3年のベンチの先輩たちに意味もなく暴言吐かれたり、いじめまがいのことをやられたよ」とゴリは変わらずお菓子を食べながら話す。
「ましてや、チカは見た目の割に定期テストも毎回トップ3には入るだろ?そりゃ見た目がおとなしくて、真面目な奴らからすれば面白くないだろ。どうにかして邪魔してやろうとするのが普通じゃん」とゴリが真面目なトーンで言う。
「でも、見た目と勉強は関係ないじゃん!別に校則違反して髪染めてるわけでも、ピアス開けてるわけでもないし。だったらそいつらも校則内で好きなようにすればいいじゃん!」とチカが声を荒げる。
「ゴリにそんなに怒っても仕方ないよ」となだめる。
「俺もそう思う。チカのいうことは正しいと思う。自分たちがやる勇気もないのに、誰かの足を引っ張るのはまちがっている。だったらその分努力すればいいと思う。けどな、そういうのができない人間ってのがたくさんいるんだよ。だから、今チカにできるのは2つ。このままの自分で耐え続けて相手が諦めるのを待つか、自分が折れて黒髪にしてピアスも外すかのどっちかだ」と普段あまり言葉に説得力のないゴリにしては妙に説得力のある言い方だった。「ま、今日金曜日で明日明後日と休みだし、少し考えればいいんじゃね」とゴリは優しく言う。
「うん、そうする」とチカは言うと、ギターを片付け、荷物をまとめて帰っていった。ギ―と建付けの悪いドアが悲しく閉まり、急に部屋が静かになった。
「俺言い過ぎたかな」とゴリが僕に聞く。
「ううん、そんなことないと思う」と僕はペットボトルを持ち上げながら言う。
一口飲んだメロンソーダが口の中ではじけて、僕の喉を刺激する。いつもはこんなことを気にしないのに、今日だけは少しこの痛みが気になる。
「もしかしてさ、ゴリが野球部やめたのって」と僕が聞こうとするとゴリはすでに荷物をまとめ、ドアに手をかけていた。
「じゃ、また来週」とゴリは逃げるように帰った。ゴリは野生の勘的なのがすごく鋭い。きっと僕がこの話題を振るのを何となく察したのだろう。
誰もいない文芸部の部室。僕は静かなこの部室でソファに寝ころんでスマホをいじる。去年の一人だけの文芸部を思いだした。
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