第3話 どこでもドアと同一性
「ねぇ、二人はドラえもんの秘密道具だったら何が欲しい?」とゴリが聞く。
「何それ、ドラえもんの秘密道具?ヒカルは何が欲しい?」チカはギターを弾く手を止めて僕に聞く。
「ん-、ビックライトかな」と僕はスマホの画面を消して答える。
「なんでビックライト?」ゴリが聞く。
「背が低いのがコンプレックスだから」僕は少し小さい声で答える。
「そんなことで」とチカは少し笑いを含んだ声で言う。
「だって160センチしかないんだよ!やだよ、こんな低い背で大人になるなんて。良いよね、ゴリは身長が高くて。今何センチなの?」
「176センチ」ゴリは答える。
「でもさ、ヒカル。ビックライトで大きくなるってことは縦だけじゃなくて、横にも大きくなるんだよ」と大笑いしながら言う。
「た、確かに…。でもチビよりはましかもしれない…」と僕は真剣に悩んだ。その横でチカは大笑いし、ゴリもそれにつられて笑っている。
「人が真剣に悩んでいるのに笑うな!そういうチカは何が欲しいの?」僕は聞く。
「背がちっさいから、ビックライト!」と真剣な顔で言う。完全にバカにされている。ゴリはそれを聞いて一層大笑いしている。
「ゴリは!ゴリは何が欲しい。ビックライト以外で!」と僕は今度はバカにされないように予防線を張って聞く。
「どこでもドアかな」
「なんでどこでもドアなの?」僕が聞く。
「ギリギリまで寝ていられるから」と真面目な顔で言う。
「しょうもな」と僕とチカは声を合わせて言う。
「でもさ、どこでもドアって意外と怖い道具だと思うんだよね」とチカがいう。
「なんで?」と僕が聞く。
「どこでもドアって理論的に構成している原子を全て記録して、それをデータ化してから、そのデータを移動先に転送するってのが基本的な理論らしい」
「それのどこが怖いんだよ」とゴリが聞く。
「FAXってあるじゃん」
「古代の遺物ね。でもそれと何の関係があるの」と僕は茶化しつつも聞く。
「FAXとどこでもドアって理論的に似てると私は思うんだけど、FAXって転送先にコピーが送られるでしょ?どこでもドアも同じようにコピーが送られるの。でも、FAXは手元にもとになったものが残るじゃん。でもどこでもドアには残らないでしょ。つまり人間を一度原子レベルでデータ化した後にそのもとになった人を原子レベルで分解してなかったことにするんだよ。それに転送先に送られた人間はその人と全く同じコピー」
「確かにそれは少し怖いね」と僕は言う。「けどさ、あんまりイメージつかないな」
「ま、そうだろうね。実際に体験したことないし」チカが言う。「ヒカル以上に混乱してるゴリラがそこにいるけどね」とゴリを指さして言う。
「難しいことはさっぱりわからない」とそう言ってチョコアイスの袋にアイスの棒を入れてコンビニのレジ袋に入れる。
「けどさ、全く同じコピーならそれはもうそのコピーが本物なんじゃん?」とゴリがいう。
「それは違うと思うな」僕がゴリの疑問に答える。「さっきチカが言ったようにどこでもドアはFAXに似たものなんだよ。例えFAXの送信先と原書が全く同じインクで同じ紙でもそれは偽物でしょ?原書が破られたり燃やされたりしても」
「でも似ているだけで、FAXとどこでもドアは全く同じ理論じゃないんだろ?」
「まぁね」とチカがいう。「ま、ゴリにテセウスの船とか説明をしてもわからないだろうから簡単に説明すると、もとの人間をもし送信後にも分解せずにいたとしたら?同じ人間が2人になると思う?」とゴリに聞く。
「それは別々の人間だと思う」
「それにもしクローンができたとしたら、それも同じ人間だと思う?」
「それも別の人間だと思う」
「つまりそういうこと。なんで元の人間がいなくなったら偽物が本物になるのよって話」
「なるほどね」
「でもゴリのいういうように本物が2つになるって主張している学者もいるし、人それぞれの考えがあるのよ。まだ実現できていない技術だし、机上の空論」
「きじょうのくうろん?また難しい言葉を使う」とゴリはチカに向かって言う。
「さすがテストの点数学年一位の不良」と僕がさっき茶化された仕返しをする。
「ま、確かに。なんでテスト順位一位がピアスを開けた不良少女何だろうね」とゴリが僕の茶化しに便乗してきた。
「頭の良さと見た目は関係ないし、高校の授業なんて教科書を丸暗記するだけ何だからなんも難しいことなんてないでしょ。ほんとに頭の良い人っていうのはヒカルみたいな人のことを言うんだよ」
「なんで僕?」
「なんでだろうね」とチカはまた笑みを含んだ声で僕の質問をはぐらかす。
ゴリも僕と同じようにわからないでいた。いやゴリはずっと何も理解できていない顔をしていた。
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