ダブリュー!エー!エヌ!ティー!ワント!!

「あ、あの、その…………何か飲みますか?」


あれからおじさんは帰って、うちのお母さんも仕事に行った。

なんでもありすさんは夏休みの間家にいるようだ。


僕はリビングで二人きりが気まずくなってそう尋ねたのだけれど………。


「…………。」


まさかのガン無視。

おぉ!!僕ヒロインに開始10分も経たぬ間に嫌われちゃった!!?


いや待てよ僕、もっと冷静に考えろ。

彼女はおじさんの仕事の都合で海外を転々としていた。


なので、英語は喋れるけど、日本語は話せないのではないか?

そうだ!!それだぁ!!


つまり、彼女は僕を無視しているのではなく、話したくても話せないんだ!!!!

僕はそう納得して手鼓を打つ。


「ユウ、ドリンク、ほしい?」


ならばと、僕は自分の持ち得る英語力を最大限に発揮して、そう尋ねた。

…………ほしいって英語でなんて言うん?


僕は今回こそは伝われと手を合わせて祈る。


「…………。」


それでもありすは話しません。

ソファにすら座らず、床に体育座りをしたままでスンッてしてる。


「ち、ちょっと、マッテテネ。」


もうこうなったら意地でも彼女に反応してもらいたい。

僕は何故か自分が片言になりながら、部屋を出た。


「くっそ!ほしいの英語さえわかれば!!!」


廊下を早足で歩きながら叫ぶ。

向かう先は、お父さんの書斎!!!


「失礼しまーす」


誰もいないのが分かっているけど、一応そう断ってから中へと入る。


「いつ見てもカッコいいよな。」


お父さんの書斎には木でできた本棚とかギラギラしてるパソコンとか色んなものが会って、魔王城みたいでカッコいい。


「えっと、辞書辞書……。」


僕は部屋の壁際においてある大きな本棚の前に立って、本の背表紙を確認していく。

求むは英語の辞書!!


「あったぁ!!!!」


僕は緑色の分厚い本を引っ張り出して言う。

これこれ!!


「ほしい、ほしい………。」


パラパラと辞書をめくって、『ほ』の場所を探す。


「えっと……………あった!!!」


僕は『欲しい』の場所を指差して、そこに書いてある文字を読む。


「欲しい、ダブリュー、エー、エヌ、ティー………。『ワント』かな?」


ワントなら、最後にオーが足りない気もするけど、まぁそこは英語だし。なんかそういうルールがあるんだろう!


「ユウー、ドリンク、ワント!!コレで完璧だ!!!」


僕は大きく手を振って、ガッツポーズしながら喜んだ!

グフフ、まってろよありすさん!


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