第7話 大杉 有希は星と消えた元アイドルに酷似していた
この女性こそ大杉 有希だと確信できた。
やはり、大杉 有希は、亡くなったアイドル岡田有希子に似ていた。岡田有希子ほどに、華やかな美しさはないが、面影が似ているのだ。
そういえば、体型まで似ている。スリムな身体に胸だけが、ふくよかに盛り上がっている。それでいて、仕草はたどたどしさえ感じさせる。
有希は興奮しているのだろうか。頬をちょっぴり紅潮させて語った。
「よかった。思ったとおりのいい人で」
開口一番、有希はそんな言葉を口にした。それは、どういう意味の言葉だろう。
「初めまして」
真由子の方から、有希に挨拶した。
「私のつくったマスコット人形、拾ってくれて有難う。そして、わざわざ届けて頂いて申し訳ございませんでした」
有希はそう言って、軽く頭を下げた。多分、誰かに教え込まれたのだろう。挨拶とお辞儀の仕方に、ぎこちなさが感じられる。
「私の夢は、ぬいぐるみのデザイナーになることなのね。そこで私が、初めてつくったぬいぐるみが、世の中からどういう評価を受けるのかを知りたかったの。
自分のデザインしたぬいぐるみを、世の中の人の手に渡らせたい。でも、そのためにはどうしたらいいか、その方法がわからなかったんです。
そこで、わざとぬいぐるみを落とし、その拾い主がどんな人か確かめたかったの。拾い主が良い人だったら、お金と共に私の手元に戻ってくる。
でも、悪い人だったら、当然お金と共にぬいぐるみは永久に葬り去られてしまい、もう二度と私の手元に戻ってくることはないはず。
本当に良かった。あなたみたいにいい人に拾われて」
真由子は、やはりこのことは、神様が私を試して下さったんだと思った。
そして、ネコババしなかった自分に対しても、ちょっぴり誇りをもつことができた。神様はいつもどこかで見張っていて、人の心を試して下さってるんじゃないかなと思った。
とそのとき、有希がガラス越しに手を振った。
真由子が振り返ってガラス越しに見た人物は、なんと大杉だったのだ。
しかし、大杉は仕事の関係で京都にいるはず。なのになぜ、現れたのだろう。
大杉が店内に入ってきて、有希の隣に座った。
「紹介するわ。この人、私の主人です」
大杉は真由子に、軽く頭を下げた。
しかし、こんな形で、大杉と再会するとは思いもよらなかった。
こんな偶然ってあるんだろうか? 大杉さんと一度でいいから、お話したい。その夢が、こんな形で叶うなんて。
大杉は、真由子に軽く微笑みかけた。それは、余裕のある微笑みだった。
「ねえ、この人、私のぬいぐるみを始めて拾ってくれたとってもいい人。
これで、私がぬいぐるみのデザイナーになるのを、許してくれてもいいでしょう」
いい人と言うとき、真由子はじっと見据え、そして甘えるような上目遣いで大杉を見つめ、哀願する有希の表情が、まるで童女みたいだった。
「でも、デザイナーといっても、そう簡単になれるわけないじゃないか。
でもまあ、とりあえず勉強だけは許すとするか」
苦笑しながら、大杉は言った。
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