第4話「初恋の行方」(前編)
「犬浦、みーちゃんっていつ来るんだ?」
俺は犬浦に呼ばれて駅で待ち合わせをしている。
そろそろ30分はかかるんだが…。。
「なぁ、犬浦?」
…。
いつまでたっても返事をしない犬浦を見ると何やらスマホを眺めていた。
「何やってんだ?」
俺は気になって犬浦のスマホを横から覗いて見る。
「ちょ、何見てんの〜?」
犬浦が笑いながら俺の顔を見た。
一瞬、目が合ったが、俺は何だ…と目を逸らした。
どうやらエゴサしてたらしい。
「そんなにファンの事が気になるのか?」
俺は何気なくそう口にした。
「まぁね、一応ファンだし」
犬浦は相変わらず呑気な声でそう答える。
「ふーん…」
端切れの悪い相槌をした後、俺はまた同じ質問をした。
「それで、みーちゃんはいつ来るの?」
真剣な顔で犬浦に尋ねる。
「後、1時間…かなぁ〜」
苦笑いを浮かべながら犬浦の頬から汗が流れた。
「はぁ!?」
1時間だと…!?
30分も待ったというのに後、1時間も待たないといけないのか?
ふざけんじゃねぇ…。
「犬浦、店の中に入るぞ」
俺は呆れて犬浦を引きずりながら店の中に入る事にした。
「え〜、みーちゃんはどうするの?」
犬浦がそんな事を言っていたが「みーちゃんにお店の中で待ってると伝えてくれ」と言う正論で俺は返した。
◆◇◆◇◆◇◆◇
それからしばらくして見覚えのある顔つきをした女性が店内に駆け足で入ってきた。
「あ、みーちゃん!こっちこっち〜」
犬浦が手を振ると女性は少し微笑みこちらに駆け寄る。
あぁ、みーちゃんか。
久しぶりに見るとみーちゃんは女性という言葉が似合うくらいに美人さんになっていた。
小さい頃は可愛かったけど…。
すると、席に着くなり、「あ、藍原お兄ちゃん!久しぶり」と昔のように俺を呼んだ。
「お兄ちゃんなんて…呼ばなくていいよ」
俺は照れ笑いしながらそう答えると、犬浦がニヤニヤしながら「お兄さん〜」とだる絡みしてくる。
こいつに言われるとイラッとくるのは俺だけか?
さて、来てみたは良いがいよいよ俺がここに居る意味がわからなくなってきた。
俺はどの立場で居座ればいいんだ?
犬浦とみーちゃんの知り合いのお兄さん?
犬浦の付き人か同僚?
訳が分からない。
俺が居ると2人の邪魔になるのでは?
そう思ったら俺は居てもたってもいられなくなって席を立った。
「ん?藍原〜、どこ行くの〜?」
犬浦が俺の方に顔を向けてそう尋ねてきた。
「あー、ちょっとお手洗いに…」
とあとを濁しながらそう答えると「早く帰ってきてね〜」と犬浦が手をヒラヒラさせた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「でさ〜、藍原、鈍感だよね〜」
俺がそう言うと、みーちゃんが笑いながら、「そこが昔から変わってないよね」と共感してくれた。
分かってる。俺が好きなのはみーちゃんで、みーちゃんが好きなのは俺でもなく藍原だって事を。
だが、諦めきれない俺は藍原をずっと頼っていた。
今日は初恋を見送りに来ただけだから藍原がこの場にいないといけないんだ。
いつもはファンに笑顔で居なくちゃいけなかった。
だけどこの人の前なら泣いてしまったり悲しい顔をしてしまう。
勿論、藍原の前でも。
だから初恋を失ってしまったけど、まだ俺はここに居なきゃ行けない。
幼なじみの勇姿を見守って応援する役目があるんだ。
ーENDー
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