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 王城の会議室。今回特別にこの会議室の許可をもらった。勿論、理由は簡単。王子妃に問うための場だ。王子妃は最近、うちの連中との会食がなくなって随分と不機嫌らしい。知ったからには通すわけないじゃないか。それに実費になってまでやる力はアイツらにはないよ。


「で、わたくしに何の御用かしら。これでも、勉強で忙しいのよ」

「貴重なお時間をいただき、感謝しております。えぇ。本日はこちらを献上いたしたく思いましてね」


 そう言って、僕が彼女の前に差し出したのは薄曇りの端末機。まぁ、読み取りのだけど。そして、陛下、王子、フィトにそれぞれに同期機を。妃殿下は陛下と一緒に見てもらう形をとらせてもらった。驚きすぎて落とされたら勿体ないからね。で、僕は本機。細かな操作をしたいし。


「なによ、コレ」

「ちょっとした魔導具ですよ」

「ただの水晶じゃない。わたくしのような美しいものに献上するのだから、もっといいものを渡しなさいよ」


 もう、あれだね。妃殿下の前でも猫被らなくなってるってことは王子と結婚したし、自分の地位は絶対だとでも思ってるのかな。人生そんなに甘くないよ。ま、丁度、手に持ってくれたようだしサクサクやっちゃおうか。


「いいものなんですよ。えっとですね、そうそう、とある令嬢に教科書を破られた時の事って覚えてます」

「はぁ!?」


 そう言いながらも、視線は宙を彷徨う。さぁ、引き出しの取っ手に手をかけて。そうすれば――。


 ビリビリッ

 ダン、ダン、ダン!


 その時の光景が水晶に映される。


「え? な、なによこれ」

『あははははは、これも、あれも、あの女がやったことよ! そう、あの生意気な女』


 水晶に映ったのは高笑いをしながら自分の教科書を破ったり、踏みつけたりしているかつての王子妃の姿。水晶を振り落とそうとするけど、落とさせはしない。僕が許可を出すまで離れないように設定してあげたんだから。


「そうそう、魔術で階段から突き落とされたとも言ってましたっけ」

「なに? かい、だん?」


 にこにこと笑みを浮かべながら、尋ねると王子妃は混乱しながらも何のことと引き出しを漁ってくれる。ありがたいね。


『キャー!』


 そう階段に飛び込み、叫ぶかつての王子妃。けど、途中でふわりと体が浮き上がるも舌打ちし、自らの魔術でそれを打ち消して階段に体を打ち付ける。


『あの子よ! あの子がわたくしに魔術を当てて突き落としたの!』


 そうヒステリックに叫ぶ。いやいや、セラフィナは君を守ろうとしたんじゃないか。全く、どうしようもないね。


「素晴らしでしょう。記憶を読み取る装置なんですよ」


 どうでしょう、素晴らしいでしょと言えば、ふざけないでと顔を真っ赤にして僕に水晶を振りかざす。


「夕月の七日、楽しかったですか」

「は? なにが、たのし、って――いや、だめ」


 気づいた時には遅い、水晶に映し出されたのは近衛騎士の一人と目合まぐわう姿。喘ぎ声に甘く強請る声。それに反して王子妃の顔からはみるみる内に赤みが引いている。旦那たる王子は呆然としているし、妃殿下は目を下げ、陛下は顔に手を当て嘆息。そして、僕は笑ってるし、酷い空間だね。あ、フィトは顔を背けてて何を思ってるのかわからなかった。


「陛下、セラフィナの無実はこれで証明されたよね」

「……あぁ、そうだな」

「僕が迎えに行っても問題ないよね」

「……あぁ」


 脱力気味にそう言われたけど、言質は取った。早速行こうとすればフィトに止められた。一応、先ぶれを出すなど手順を踏めと。まぁ、それもそうか。いきなり行って驚かれるのも、外出中でいないなんてパターンもあるし、先ぶれとその返事くらいは待とう。


「ルシアノ」

「はいはい、なに?」

「あとはこちらでする。下がってよい」

「どーも」

「フィト、行こうか」

「はい」


 陛下にそっと簡易設定にした本機を渡しておいた。勿論、説明を書いた紙も渡した。王子妃の処分は好きにするといいよ。セラフィナの無実は証明できたからね。

 あ、でも、あんまり心は満たされなかったな。うん、やっぱりセラフィナじゃないとだめなのかもしれないな。ま、すぐに会いに行けるからいいけど。

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