第十四話:諦めきれないこと!
「んー、よく寝た! おはようアッシュ、ゴウ君!」
「くお……くおーん……」
「ゴル……」
「ありゃ、まだ眠いの?」
丸まって寝ているアッシュにわたしが声をかけると大あくびをし、ゴウ君は頭だけ出して目をしぱしぱさせていた。どうやら珍しく寝不足のようで動きが鈍い。
「もうちょっと寝てていいよ? いつもお手伝いしてくれているし、ご飯は用意しておくからゆっくりね」
「く、くおーん……」
アッシュが大きく体を伸ばして手を出してきたのでそれを握ってふにふにした後に頭を撫でて部屋から出た。
そしてリビングへ行くと――
<む、起きたか>
「あ! サージュ! 戻って来たんだ!」
リビングのソファにわたしの恋人であるサージュが座っていた。
彼はわたしが赤ちゃんの時から遊び相手になってくれたとても優しいドラゴンさんである。
ずっとドラゴンの姿だったんだけど、わたしが五歳くらいの時にとある事件から人間になれるようになったのよね。王様ドラゴンさんの子供だって。
で、わたしが学院を卒業してから恋人になってもらったというわけ。
<今回は少し手間取ってしまって遅くなってしまった、すまない>
「ラース兄ちゃんがお手伝いに欲しいっていうくらいだから大変だろうとは思ったけどね」
<シャオの国に現れたヤーマターオロチという魔物だったのだが、まあラースだけでもなんとかなったとは思うがな>
と、目を細めてわたしの顔を見ながらなにをしてきたかを語るサージュ。
わたしも無事に戻ってきて良かったと笑顔で抱き着く。
人間とドラゴンの恋人が少し変なのかもとは思うけど、小さいころから見守ってくれた彼が大好きなので先にわたしが死ぬことになってもお互い後悔はない。
ちなみにわたしの故郷ではもう一組、人間とドラゴンのカップルが居るんだけど、子供もできていてとても幸せそうなので種族とかあまり関係ないのかもと考えている。
まあ、それはともかく戻って来たのはとても嬉しい。
「あ、サージュが帰って来たのならアッシュ達を起こしてこようかな」
<ああ、寝かしておいてやれ。昨晩は活躍していたからな>
「夜? なにかあったの? ってサージュは夜中に帰って来たの?」
<まあそういうことだ。アッシュに出迎えてもらった>
「ふーん?」
「おう、朝飯の準備ができたぞ。サージュも食うだろ」
<もちろんだ>
「ラースのヤツは元気でやってるのか?」
<うむ――>
タンジさんが当番だったので朝ごはんに向かうわたし達。
なんか引っかかるけど……ま、タンジさんもなにも言ってこないしいいかな?
◆ ◇ ◆
――クライアント 屋敷――
「愚か者どもめ……勝手なことをした上に失敗し、顔を見られるとは……」
「め、面目ねえ……」
昨晩、サージュに捕まった三人組はズタボロにされて町の外へ捨てられていた。そのまま引きずるようにクライアントの屋敷へ戻り、事後報告の最中である。
「私と繋がりがあるのことを知られている……ドラゴンは夢でも見ていたのであろうが、通報されては面倒だ。雇ったのは私だが、テイマー施設へ乗り込んだのはお前達の独断。この町、いや国から出て行け。実際、私は命令していないからな。施設へは見舞金を持って行って相殺する」
「そんな!?」
「そんな、ではない! 犯罪をしてまで手に入れろとは言っておらんだろうが!! 役立たずどもに食わせる飯はない!」
クライアントは激高して三人組を私兵に命じて屋敷から叩き出し、むき出しの荷台に乗せて国境へと追放した。
「……まったくもって上手くいかないものだ。さて、アイナには迷惑をかけたようだし、見舞金をもって行くとするか。心証を良くしておかねば――」
◆ ◇ ◆
「さて、今日も頑張って行こうねー! ……って、みんなどうしたの!?」
「ブル……ベェェ……」
魔物さん達の部屋掃除と朝ごはんの用意をしにいくと、半分くらい寝ていた。大あくびをする子も居れば完全に寝ている子も。
夜行性の魔物さんなら分かるんだけど、バイトキャメルやアイアンコング君などはいつも元気に起きているんだけどなあ。
<まあ、こういうこともある。どれ、我も久しぶりに手伝うとするか>
「ご飯だけ置いてお掃除は汚いところだけやろっか」
アッシュの代わりにサージュがやってくれるのは助かるけど、殆ど動きが無いためお仕事は楽だった。
……昨日の夜、気になる……。
だけど怪我をしているわけでもないしなんだか疲れているだけみたいなので夜更かしでもしたのかと思いつつ作業を終える。
「おチビちゃんは元気かなー?」
「きゅん!」
「お、いい声! 親狼さんも大丈夫そうだし、今日は森へ帰れそうね」
「……わふ」
「?」
なんだか親狼さんの元気が無い気がするね? 森へ帰るのに嬉しくないのかしら。
まあ、それはそれとし次は受付の掃除へ。
今日はお休みなので掃除が終わればフェンリアー親子を森に連れて行く予定だ。
「最近、観覧のお客さんが増えたから忙しいよー」
<ほう、それはいいことだな。母上に成果を報告できそうではないか>
「うん。この調子だと一年で達成できるかもね!」
<まあ、心配しているだろうからたまには家へ帰るとしよう>
「そだね、パパが心配しすぎて倒れそうだったし次の休みはお家へ帰ろっか? サージュが飛べばすぐだもんね」
<うむ>
そんな話をしながら掃除を済ませ、いよいよフェンリアー親子を森へ返す時がやってきた――
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