第十三話:悪知恵が働く!
「うおおおおお!?」
「ブルベェェェ」
「速い……!?」
「ウホホイ」
「くおんくおーん」
散会した冒険者達は魔物達と対峙することとになり、バイトキャメルやアイアンコングに追い回されていた。
アッシュは攻撃に参加せず、状況を把握して確実に
冒険者達もフェンリアーを殺さないように立ちまわっていたせいで弱そうに見えるが実力はそれなりにある。
しかし、凶悪とされる魔物達相手には場所も含めてその実力を発揮するのは不可能だった。
さらに『飼われているから大したことが無い』と彼らは言っていたがテイムされた魔物はペットとは違い、主人やを守るために鍛えており適正存在には容赦がない、ということを知らなかったのは多大なミスだ。
「ギチィ」
「くそ、硬いなこいつ!? だぁりゃぁぁ!」
「ゴルル」
「こいつも硬い!? む……!」
アイナを起こすまいと静かに暴れる魔物達。
リーダーのエドフが足元に群がるキングビートルとゴウを相手に苦戦を強いられている中、彼はか細い声を聴く。
「きゅーん」
「くおん!?」
「フェンリアーの子……!」
フェンリアー親子の部屋は開けていなかったのでアッシュが驚き慌てて確保するため駆け出していく。
騒ぎを聞きつけて隙間から一匹で抜け出して来たのだ。
アッシュは動くが巨体が仇となり他の魔物を押しのけている間にエドフがゴウとキングビートルの間を抜けて子狼を確保することに成功した。
「きゅーん!?」
「くっく……これだけでも十分だな。おっと、お前等動くなよこいつがどうなっても――」
「ぎゃああああ!? 噛むなぁぁぁ!?」
「ブルベェェェ」
「ぐへ!?」
「ウッホホ」
もちろん聞くわけもなく好き放題ボコボコにされる残りの二人。
「くそ……! こいつがどうなってもいいなら少し痛い目を見てもらうぜ」
「きゅん!?」
「くお!? くおんくおん!」
子狼の首を絞めだしたエドフにアッシュは両手を振り上げて魔物達に攻撃を止めさせる。一瞬で静かになる場に、ターメリックとボブが転がるようにエドフと合流し口を開く。
魔物達はそれでもチャンスを掴むため取り囲むのを止めない。
「グルルル……」
「唸るんじゃねえよ。で、さすがはリーダーだな。このままずらかるか?」
「そうだな……お嬢ちゃんも手に入れたかったがあれはおまけみたいなものだからな……【遠投】!」
「きゅ!?」
「くおん!?」
先程ボブも使っていた各人必ず一つは持っている【スキル】をエドフが使い、壁の向こうに行くような高さへ放り投げた。
全員がそっちを向いたところでボブが家へ、エドフとターメリックが来たところからの脱出を図る。
「くお!? ……くおん!!」
「ゴルゥゥ!!」
「ブルベェェェ!!」
アッシュは一瞬動揺を見せたがすぐに吠えた。彼はアイナを守るためボブへ。ゴウと他の魔物はエドフと子狼へ向かわせる。
「部屋に入っちまえば小回りが利く人間様の勝ちってやつだ!」
「ははは! 所詮は魔物、賢さは俺達の方が上だったな!」
「くおおおおん!」
吠えるアッシュに追う魔物。
スピードは熊のアッシュの方が段違いで速いためボブにはすぐに追いつける。
あと一息で追いつく……そう思った瞬間――
「へっ、やっぱり魔物だな? 俺達の意図までは気づけなかったか!」
「くおん!?」
追いつきそうになった瞬間に、ボブは直角に曲がり壁に向かう。さらにフック付きロープを取り出して壁を登る。
「二手に分かれりゃ捕まりにくいってな。今日のところは子狼だけでしばらく暮らせる金が入るしな。嬢ちゃんはお坊ちゃんに任せっかな」
「くおん!」
「ははは! あの嬢ちゃんも攫えたら楽しんだ後に……ってことも考えていたんだがねえ」
憤るアッシュを下にし、ボブは計画を口にしながら壁を登る。
向こうもまんまと逃げおおせそうになっていてアッシュが泣きそうになっているところで、頭上から声が聞こえてきた。
<その嬢ちゃんというのはアイナのことか?>
「おう、そうだぜ! もうちょっと成長したら間違いない美人……あん!?」
声の方向が上にあることに気づきボブは上を見上げる。
するとそこには壁の縁で片膝をついた人影があった。
「な、なんだお前は……!?」
<それはこちらのセリフだ。アッシュ、こやつらはなんだ?>
「くお~ん♪ くおんくおん!」
甘えた声を出した後、アッシュは人影に向かって声を上げた。
「魔物になにを聞いてんだ? どけよ、痛い目に合いたくなけりゃあよ」
<……ふむ、物取りか。子狼、さらにアイナも狙っていたとはな>
「え!?」
「おい、ボブなにをしている早くずらかるぞ!」
<……仲間か。あれが子狼だな>
「ごちゃごちゃとうるせえんだよ!」
先に脱出したエドフ達に目を向けていた間に壁を登りきったボブが剣を振り下ろす。だが、謎の人影はそれを片腕でガードし、硬い金属を叩いたような音が響き渡る。
「な、んだ……!?」
<一生懸命ここで頑張ろうと決めたアイナにこの所業……許しがたい。その子狼が居なくなったことに気づいたら大泣きすることが容易に想像できる……!>
「「えっ!?」」
人影は怒りを露わにした声を発した瞬間、その体を膨らませ形を変える。
「あ……あ……!?」
身体が倍以上に膨れあがり、背中から羽を生やしたその姿は――
「ド、ドラゴン……!? こ、こんなのも施設に居るのかよ!?」
「に、人間に化けてやがるのか……!?」
<そんなことはどうでもいい。覚悟するのだな……!>
「「「あああああああああああああ!?」」」
雲が晴れて顔を出した月明かりに照らされたドラゴンが大きく口を開けた――
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