第十一話:みんなの思惑!


 「わーい、アッシュふかふかー」

 「くおん♪」

 「アッシュ便はここまでねー、また来てね!」


 あの失礼な訪問から早数日。

 わたしの願いが通じたのか分からないけどあれから彼らが来ることは無かった。

 貴族の嫌がらせみたいなことがあるかなと思っていたんだけど今のところそういったことはなく、通常営業が出来ている。


 あれだけ強く言ったからさすがに来ないみたいだとタンジさんも胸をなでおろしていた。

 

 そして当施設は今日も大繁盛。

 特にアッシュとゴウ君が町を歩いたのが良かったみたいで、二頭を目当てに来る子供が多くカップルも来るという感じなの。


 だけど観覧の対象ではなくわたしと一緒に受付と掃除といった雑用係なので入り口に居ることが多い。

 で、そこでモフって満足して帰っちゃうお客さんが多く、それを考慮した結果として子供限定でアッシュの背中に乗って観覧ができるサービスをするようにした。

 これで料金は問題ないけど、アッシュの仕事が増えたのが少し申し訳ない。


 「……まあ、しばらくの辛抱かな? 少ししたらさすがに飽きるだろうし。その間はゴウ君お願いね」

 「ゴルゥ」

 「おーいアイナちゃん、そろそろ交代しようか。あいつらの様子を見に行くだろ?」

 「あ、はーい!」


 タンジさんの言うあいつらとはフェンリアーの親子のことで、魔物らしくケガの治りが早いのかおチビちゃんはすっかり元気になっていた。


 「きゅん♪」

 「おお、動くねえおチビちゃん! これだけ動ければそろそろ森に帰ってもいいかもね」

 「わふ」

 「きゅん……!?」

 「ゴルゥ!?」


 中腰でおチビちゃんをキャッチして親狼の頭を撫でて森へ返す話をしていると、おチビちゃんがわたしの手から飛び出してゴウ君のお腹の下へ隠れようとする。


 「うーん、この話をすると逃げるわねえ。気にいってくれたなら嬉しいけど、ここで飼われる抵抗はないかしら」

 「うぉふ」


 わたしが親狼を見ると、ゴウ君のお腹の下に潜り込んだおチビちゃんを咥えていた。どうやら親は森へ戻る方を選んだようだ。


 「なら、明日はお休みだし森へ行こうね。でも捕まって殺されちゃったら悲しいから、気を付けるんだよ?」

 「わふ」

 「きゅん……」


 敵としてであったならまだしも、助けて置いていたら情も移るというもの。

 魔物さんとは全部分かり合えないことは理解しているけど、今日お別れして明日、もしかしたら毛皮になっているかもとか考えると鼻の奥がつーんとなる。


 「わふわふ」

 「うんうん、明日にでも行こうね。あ、そうだ! お客さんも少なくなって来たころだし、最後にみんなへ挨拶しておこうか!」

 「きゅん!」


 わたしは二頭とゴウ君を連れて表へと回る。

 アッシュは休憩を兼ねたお昼寝中なので、三頭と一緒にひとつずつ檻の前を回る。


 「ブルベェェ!」

 「わん!」


 「ウッホ!」

 「きゅんきゅん!」


 「ギチギチ……」

 「きゅん!?」


 色々な魔物と顔合わせするのを見て顔が綻ぶわたし。お客さんもその様子に顔を綻ばせる中、気になるカップルが居ることに気づく。


 「……ここが意外と」

 「でも、正攻法で……」

 「どうしました?」

 「おおう!? い、いや、なんでも……!? い……いい施設ですね!」

 「ありがとうございます! ん? 絵ですか?」

 「あ、ああ……こういう施設を作る参考にね」

 「へえ! テイマー施設にご興味が? なんでも話しますよ!」

 「いや、今日はどういう感じか見たかっただけだから、また来るね」


 そういってカップルはそそくさとわたしの前から立ち去って行った。

 うーん、テイマー施設のことならゆっくり教えられるのに……残念。


 「あ、ダメだよ勝手に動いちゃ!」

 

 とりあえず明日のお別れの準備をしておかないとね……。多分、泣いちゃうだろうし。

 そんな気持ちでゴウ君達と戯れるおチビちゃんを見るのだった。

 

 ◆ ◇ ◆


 「ああ、アイナ……! また君に会いたい……!!」

 「会いに行けばいいじゃないですか。王都までそんなに遠くないんだし」

 「……かなり怒らせたからな……これ以上嫌われるのは良くない。彼女の欲しいものなどあれば取り寄せて手土産を口実に会いに行くのだが」

 「大胆なのかみみっちいのか分からない……お?」


 クライアントは屋敷でアイナに一目ぼれをしてから悩んでいた。あれほどの逸材には舞踏会などでも会ったことがなく、欲しいと思っていた。

 しかし今はまだほとぼりが冷めるまで待とうと歯噛みをしている。

 そんな様子に呆れながら見ている二人の冒険者、エドフとボブ。そこへもう一人のターメリックが戻って来た。


 「……情報を手に入れた」

 「お、マジか? クライアント様、もしあの娘を連れてくることができたら報酬をはずんでもらえますかね?」

 「ん? それはもちろんだが……アテがあるのか?」

 「ええ、もしかしたらフェンリアーの子も連れてこれるかもしれませんよ」

 「それは願っても無いな、頼めるか?」

 「分かりました、すぐにでも決行しますよ――」



 ◆ ◇ ◆


――テイマー施設 深夜――


 「くおん」

 「ゴルゥ」

 

 静まり返る深夜、アッシュとゴウがテイマー施設の広場で佇んでいると暗闇の中からキングビートルが飛んでくる。

 

 「ギチ……ギチギチ……」

 

 キングビートルが声を出すと、暗闇に魔物特有の赤い瞳がその場に何十と輝きだす。アイナの知らない魔物達の夜――

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