第十話:ふざけるな!
「なんかいっぱい貰っちゃったね、ハチミツなんて高級品なのに。アッシュのおやつにいいかも」
「くお~ん♪」
「わあ!?」
四つん這いになり、甘えた声でわたしにすり寄ってくるアッシュの頭を撫でながら帰路につく。
人通りが少なくなってきたのでゴウ君も空を飛んで楽をする。
チラシは全部なくなりアッシュとゴウ君をたくさんの人に知って貰えた一日になった。
「……おばちゃん達はわたしに構ってくるんだけどなんでだろう?」
まあ、こうやってお土産を頂けるのでお金のないウチには大変助かっている。
お買い物も済ませたし、後は帰ってお野菜とソーセージのスープとパンを焼くだけだ。
そう思っていると通りの向こうからマウリ君が走ってくるのが見えた。
「お姉ちゃんー!」
「こんにちはマウリ君! ……どうしたのそんなに慌てて?」
「今日はお休みだったんだね、あの子に会いに行ったら開いてなかったから……じゃなくて、なんか変な人達がお店の前に居るから気を付けてって言いたかったんだ」
「え?」
聞けば男性四人組で、冒険者風が三人と身なりのいい人が豪勢な馬車を店の前に置いて待っているというのだ。
「怪しい……だけど身なりがいいということは貴族の人かな?」
テイマーになりたいなんて貴族は居ない……こともないけど、援助をしてくれる以外で施設に尋ねてくる理由ってなにかあったかなあ。
「まあ、待っててくれるあたり重要なお話なのかもしれないし早くもどろっか」
「だ、大丈夫かな……。怖そうな人だったよ」
「アッシュ達も居るし平気よ!」
「ぼ、僕も行くよ!」
「そう? ありがと♪ それじゃ行こう」
マウリ君が拳を握りついてきてくれるらしい。
万が一も考えたけどタンジさんも帰っていると思うし大丈夫かとアッシュに荷物を持ってもらいマウリ君と手を繋いでテイマー施設へ向かう。
そして到着すると確かに施設の前に豪勢な馬車が止まっていて冒険者風の男達が立っていた。というかあれっていやらしい人達だ……!
「お、帰って来たか!」
「えっと、はい。本日は休みですけどどうしましたか?」
「さるお方がこの施設に興味があると言ってご案内するためここへ来たのだよ」
「猿お方……」
「おい、嬢ちゃん今よからぬことを考えてねえか?」
「そんなことはありませんよ!」
猿型の魔物さんであるアイアンコングを思い浮かべたけど強く否定しておく。
すると眼鏡の冒険者が馬車の扉を開け、そこからマウリ君の言っていた身なりのいい人が出てきた。
「初めましてお嬢さん、私は隣町に屋敷を構えている者でクライアント=オービルという」
「ちなみに二十歳だぞ」
「うるさいな……!」
「あ、はい……アイナです」
細身でなかなかイケメンなクライアントさんに名前を言うと、わたしの顔を見た瞬間に目を見開いて口を開く。
「おお……! 確かにこの娘は……か、可憐だ……!」
「ど、どうも、ありがとうございます? いやいや、用件はなんでしょうか? 特に無ければ今日はお休みなのでお引き取りいただきたいのですが」
怯むことなくそう告げると、クライアントさんは高らかに声を上げる。
「珍しい魔物が居ると聞いて来てみれば、可愛らしいお嬢さん。どうかな? こんなところで働いていないで私の恋人にならないか?」
「こんなところ……?」
聞き捨てならないセリフにわたしは片眉がピクリと動く。
その様子に気づきかないクライアントさんはさらに続ける。
「君のような可愛らしい子に醜悪な魔物の世話など似合わないよ? 私ならこのルックスとお金で君を幸せにでき……おう!?」
「はあ? アッシュ達を見て醜悪だなんてどの口が言うんですかね……!」
「お姉ちゃん……!?」
「く、くおん……」
わたしを見て言葉を詰まらせるクライアントさんとマウリ君。アッシュは慌ててわたしの前に立ちはだかり壁になってくれる。
「そういうことでしたらお引き取りください! わたしはこのお仕事が好きでやっていますし、アッシュ達を『醜悪』だなんて言う人についていくことはありません!」
「い、いや、しかし魔物の世話など底辺のしご……」
「うるさーい!! 話はそれだけですか? それだけですよね! 失礼します! いくよマウリ君、アッシュ、ゴウ君!」
「あ、うん……」
「ちょ、待ってくれ……!?」
「くおん!」
まったく耳を貸す気にならない人だ! わたしの部屋がある建物に向かおうとしたところで追いかけてこようとするクライアントさんをアッシュがブロックしてくれる。さらにそこで大声が響く。
「黙って聞いてりゃふざけたことを言いやがって! ウチは清潔第一だ、魔物も可愛いヤツばっかり……アイナちゃんは好んでこの仕事をやってるんだ、気に入らねえなら関わるなっての」
「あ、タンジさん! いま帰って来たんだ」
「おう、ほら入ろうぜ」
「はーい!」
アッシュの陰に隠れながら玄関へ向かうと、まだ食い下がろうと声をかけてくる。
「いや、ちょ……」
「ここは引きましょうクライアント様」
「流石に言い方が悪いですよ」
「驚くほどのアホですね。……いてぇ!?」
「やかましい! ……くっ、また来るぞアイナ……!!」
「来なくていいですから!」
「アイナ、塩まいとけ」
「うん!」
「くおん!」
わたしが一応当たらないように塩をまくと、アッシュが真似をして塩の入った桶に手を突っ込み――
「くおん!」
「ぐあ!? や、やりやがったな!?」
「構うな、行くぞ」
――岩塩みたいな塊が冒険者の頬にヒットした。
そのまま馬車が発進し、視界から居なくなるとわたしは口を尖らせていう。
「……腹立つー」
「お前はともかく貴族のぼっちゃんにゃ分からねえよ。……とりあえずまた来そうだから注意しとかねえと」
「うんうん!」
「大丈夫だって! それにしても初めてあんなこと言われたよ。ママ譲りで可愛いってよく言われるけど」
「早くサージュが帰ってくるといいんだがなあ」
「あはは、あれだけ言ったからもう来ないと思うけどね! さ、それじゃマウリ君を送ってこようか、アッシュ」
「くおん」
「気をつけろよ」
タンジさんが厳しい顔でアッシュに乗ったわたしに声をかけてくれ、サムズアップしてアッシュを走らせる。
まったく腹立たしい……もう二度と来ないで欲しいよ。
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