第九話:よくいる貴族!
「依頼に失敗してよく顔を出せたものだと思ったが、なかなか面白い情報を持ってきたな」
「ええ、王都にあるテイマー施設はクライアント様の求めるフェンリアーを始めとしてレア魔物がたくさんおりますよ。それに受付の娘も可愛いです」
「ほう……」
三人の冒険者崩れが王都から離れた町に居る貴族の依頼主のところへ足を運び、揉み手擦り手で報告をする。
フェンリアー捕獲の失敗に叱責を受けたものの、それ以上の収穫だと子爵であるクライアント=フェミアはほくそ笑んでいた。
「貧乏そうな施設ができたとは聞いているが、そのように若い娘がいるとはな。他に従業員は?」
「おっさんが一人ですな。戦闘するタイプの人間には見えませんでしたから、娘を人質にして檻を開けさせるのがいいかと」
「ふむ、とりあえず娘と子狼が欲しいな……娘の年が若いようだが、貧乏そうなら金をチラつかせればついてくるだろう」
「誘拐をしないのですか?」
「別の国ならいざしらず、いくらなんでもリスクが高すぎるだろうアホ」
それはそうかと三人はお互いの顔を見合わせて肩を竦める。クライアントはその様子に呆れながら話を続ける。
「とりあえずその施設に行くぞ。一応、どんな娘か見ておかねばなるまい」
「はっ、すぐに手配を致します」
◆ ◇ ◆
「今日も元気だ、ご飯が美味しい……!」
「なんだいそれは? それにしてもアイナちゃんのチラシ効果は凄いな、おかげで金回りが良くなったからテイマー教室をキレイにできる」
「生徒さんが増えるといいんですけどねー」
「まあ気長にやるさ」
「いや、気長だと連れ戻されちゃうんですけど……」
「ああ、そうだったか。すまんすまん、はっはっは!」
タンジさんは優しくていい人だけど大雑把なのが欠点なんだよね。まあ、ここに来ることを承諾してくれたのは頼もしいけど。
テイマー施設を運営している知り合いって全然いないもん。
「今日は休みだから俺は資材を買いに行くけど、アイナちゃんはどうする?」
「んー、チラシを作ってアッシュとゴウ君を連れて町を歩こうかなって。わたしって一応テイマー資格をもっているし連れて歩いていると教室の宣伝になるかも?」
「ああ、そりゃいいかもしれねえな。教室が繁盛しだしたら忙しくなるけど」
「その時は人を増やせばいいんじゃないかな? ティリアちゃんとセフィロちゃんならすぐ来てくれるよ!」
「そりゃ悪いだろ……」
と、タンジさんは言うけどあの二人は魔物さんが嫌いじゃないし、まだティリアちゃんもやりたいことがあるまで知り合いのお店で働いているだけなので呼べば……多分来てくれる。
問題はわたしも通っていた学院の先生がティリアちゃんのパパで、溺愛しているから他国に来るのを許されるかどうか……。
「ま、その時はその時か」
「くおん?」
「なんでもない! それじゃ準備していこうか」
「ゴルゥ!」
わたし達は部屋に戻るとお出かけ用の服に着替える。そこでふとアッシュを見上げてから腕組みをして考えた。
「……アッシュをもっと可愛くできないかな?」
「くおん!?」
「ほら、もともと可愛いしアクセサリーでもつけたら変わるんじゃないかなって。亀のゴウ君は難しいけど」
「ゴルゥ……」
がっかりするゴウ君とは反対にアッシュは後ずさる。
昔、ノーラお姉ちゃんが服を着せようとして嫌がっていたらしいからそれを思い出しているのかも?
「大丈夫よアッシュ! わたしに任せなさい!」
「く、くおーん……」
わたしはとあるアイテムを宝箱型の荷物入れから取り出した。
「くおん……!」
歓喜の声を上げたアッシュとゴウ君と共に町へと繰り出していく。
テイマー施設で働くときはツナギを着ているんだけど、今日は膝までの白いズボンに水色のシャツ、それと帽子を被ってチラシを抱えて町中へ。
「えー、テイマー施設、テイマー施設『アイザック』をよろしくお願いしますー!」
「くおーん♪」
「ゴルゴル」
「あら、可愛い子」
「あの熊も可愛いわ、見て帽子被ってる」
「亀は……かっこいい?」
チラシを持って闊歩していると注目を浴びるわたし達。
そりゃ大きなアッシュの背中に乗って声を出していれば目立ちもするよね。だけどそれが狙いなのでいくらでも見て欲しい! 特に赤い三角帽子を被ったアッシュを!
小さいころ、この白くて丸い綿がついた帽子がお気に入りだったんだけど、大きくなるにつれて入らなくなったんだよね。
それをわたしがお友達のママに教わって大きな帽子を作っておいたというわけ。
「今度行ってみるわね」
「ありがとうございます!」
「へえ、学校にもなってるのか。防犯にもなりそうでいいかもな」
「ゴルゥ」
「餌とか大変かもしれませんけど、慣れると頼りになりますよ!」
好感触なお話にわたしは顔が綻ぶ。
だけど、まさか帰った時にトラブルに巻き込まれるとはこの時、思いもしなかった。
◆ ◇ ◆
『本日休業』
「……」
「……」
「……これはなんだ?」
「えっと、休みってことで――」
「分かっている! ええい、誰か居ないのか――」
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