第八話:忍び寄る影!


 「ふうん、こりゃ結構な施設だな?」

 「見たことない魔物も居るな……」

 「ブルベェェェ!」

 「うお!? なんて首の長いやつだ……」

 「歯をガチガチさせてるぞ、恐らく凶悪な魔物だなこいつは」


 三人の冒険者はテイマー施設の動物園チックな場所を歩きながら感心する。

 戦ったことのある魔物はもちろん、見たことのない個体がたくさんいたからだ。

 今、男達が吠えられた『バイツキャメル』なども砂漠のある国にしか生息していない草食の魔物である。


 「キレイな猫だぞ。青白い毛とは」

 「シャー!!」

 「それは虎だぞ、怒ってるじゃねえか」


 ひとしきり見て回り休憩所として設置してあるベンチに腰掛けると、周りに誰も居ないことを確認してから口を開く。


 「……裏コレクターからしたらお宝の山じゃねえか、どうするエドフ」

 「まあ『仕事をする』だけだなターメリック。フェンリアーの子よりも稼げるかもしれん」

 「受付にいた子はどうするよ」

 「そりゃ連れて行くさボブ。後二年もすればいい女になる。貴族のおっさんにでも売り飛ばせばしばらく暮らせるくらいはくれるだろ」


 小型の魔物ならいくつ連れて行けるか、などと小声で話し合いながら檻の向こうの魔物たちを見ながら皮算用を始める。


 「こうなるとフェンリアーの子なんて――」

 「きゅん!」

 「わふ」

 「ん? 犬……じゃない!? あれは俺達が捕まえようとしていたやつだ!」


 『準備中』の看板が立てられた檻の向こうで子犬の声が聞こえ、視線を向けると檻の向こうにある奥の部屋……その隙間で見慣れた姿を発見したボブが声をあげる。


 「馬鹿野郎、声がでけぇんだよ!? ここに保護されていたのか……」

 「手当されているところをみると、採取に行った親子連れが見つけて親狼に手を焼いたからテイマーを連れて来たという感じか」

 「やけに具体的に言うなお前……。まあそんなところだろうさて、どうするリーダー?」


 ターメリックが口元に笑みを浮かべながら眼鏡を直し、リーダーのエドフへ尋ねると彼は腕組みをしてから真面目な顔で腕組みをして目を瞑り、しばらくしてから膝を叩いて立ち上がる。


 「……一度、クライアント様に話をしてみよう。あのお貴族様なら面白いことを考えてくれるかもしれない」

 「オッケーだ。へへ、こりゃ楽しくなってきた――」

 「……ギチ」

 「おう!? なんだこいつ!?」

 

 その瞬間、彼らの足元に巨大なカブトムシが現れた。


 「キングビートルだっけ? 放し飼いなんだな」

 「まあ、こっちが攻撃しなけりゃ大人しい魔物だからな」


 「こっちに居たー!」

 「わー!」

 「ギチギチ……!!」

 「あいつ飛んだぞ! ずるいー!」


 「ああ、ガキどもから逃げて来たのか……」

 「そんじゃ帰ろうぜ」

 

 そう言って三人はベンチから腰を上げると来た道を帰りながら奪えそうな魔物を物色しながら鼻歌交じりに歩く。


 「……ギ」

 


 ◆ ◇ ◆

 

 「ふう、客足がようやく途絶えたわね! お昼ご飯、今のうちに済ませちゃおうか。あ、その前にモフらせてアッシュ」

 「くおーん♪」


 うん、今日もわたしのブラッシングのおかげでふかふかだ。

 両手を上げてアッシュに埋もれていると、観覧スペースへ続く扉からいやらしい三人組が帰って来た。


 「お嬢ちゃん、楽しかったぜ。また来るわ」

 「え? 本当ですか! ありがとうございます!」

 「ああ、珍しい魔物もたくさんいたし勉強になるぜ」

 「わあ、看板を見てくれました? いろんな冒険者さんに生態とか聞いて作ったんですよ」


 作ったものを褒められるのは嬉しいものだ。そう言われればさっきの態度も許していいかもしれない。


 「それじゃあまたな」

 「はーい! ……案外いい人達だったかもしれないね」

 

 わたしは作って来たおにぎりとお茶を用意しながら良い気分でお昼の準備をしていると、観覧扉がノックされた。


 「ん? お客さんかな?」

 「ギ」

 「あ、キングビートル君だ。どうしたの?」


 そこにはキングビートルが佇んでいて前足を上げてわたしに挨拶をするのもそこそこに、受付の中へ入って来た。

 

 「ギィ」

 「くおん?」

 「ゴルゥ」

 「ギギィ」

 「くおん!? ……くお!」

 「ゴルゥ……!!」


 わたしに用があったわけじゃないらしく、即座にアッシュとゴウ君になにやら声をかけていた。

 しゃがみこんでその様子を見ていたけど、アッシュが驚いてゴウ君がなんか怒っているくらいしかわからなかった。


 「なあにアッシュ?」

 「くおん! くおーん」

 

 アッシュは『なんでもない』という感じで両手を上げて吠えていた。まあノーラお姉ちゃんと違って言葉が分からないからなんとなくだけどね。

 まあ、魔物同士で会話するということは稀にあるので気になるほどでもない。


 「それじゃお昼にしようか!」

 「くおん♪」

 「ゴルゥ♪」


 残りの時間も頑張ろうっと!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る