第七話:いざこざ!
「さーて、今日も張り切ってお仕事するよ!」
「くおーん♪」
「ゴルゴル」
ここ数日、タンジさんもわたしも大忙しなくらいお客さんがやってきていて、きっと今日も多いだろうとお掃除前に気合を入れる。
「ふんふふ~ん♪ 雪虎ちゃん達、掃除に来たよー」
「にゃーん♪」
雪国に住んでいる青白い毛並みが美しい虎魔物の雪虎ちゃんのお部屋は寒い。魔法で氷や雪を常時出しているのでこの部屋は過ごしやすいけど、部屋から出るとやっぱり動きは鈍くなるんだよね。
「お掃除できないからアッシュと遊んでね」
「にゃーん……」
「くおーん」
構っていると時間が無いので少し撫でてからすぐに取り掛かる。お掃除中は無理だとわかっているから、しぶしぶアッシュのところへ行き鼻をこすり付けていた。
ゴウ君は寒いのが苦手なのでここには居ない。
その後もアイアンコングにファングボア、チャージゴートなどなど、色んな魔物さんの状態をチェックしながら施設内を回っていく。
「お、今日も艶がいいわね」
「ギ」
巨大かぶとむしのキングビートルが前足を上げて挨拶をしてくれる。
この子の主食は樹液と昆虫なので外を歩かせているのだ。なにかあると知らせてくれるから凄く役に立つ。
最近は増えたお客さん、特に少年たちのヒーローだ。
ちやほやされているため背中の光沢が輝いて見える。角を掴んで前の方に座れば空も飛べるんだけど、なにかあったら危ないので子供たちを乗せて飛ばないよう言い聞かせてある。
「餌は置いているから食べてねー」
「ギギ」
「ゴル」
「ギッ」
両前足を上げて喜びを表現したキングビートルはふわりと浮いて巣へ戻って行った。
彼はゴウ君よりさっと飛べるのでライバル視しているんだよね。けどゴウ君は亀だから飛べる方が珍しいんだよ?
「ふう、これで準備はオッケーね。朝ごはんを食べましょ。子狼ちゃんもだいぶ元気になったし、後でブラッシングしてあげようかな」
「くおん♪」
「ゴルゴル♪」
そんないつもの朝の光景が終わり、コーンスープに木苺ジャムたっぷりのパンと最近増えたサラダを優雅に食べ、アッシュはどんぐりやお魚、ゴウ君は葉野菜の切れ端を美味しそうに食べる。
そして開店。
「こんな施設ができていたなんてなあ……」
「隅っこだからわかんないよね、父ちゃん」
「あはは、でも来てくれてありがとうね!」
「くおん!」
「わ、びっくりした! でけえ! ふかふかだ!」
やっぱりチラシ効果は大きいようでここから反対側の区域に住んでいる人親子がやって来てくれた。
「そういえばギルドにチラシを張ってもらうのもアリだよね。後で行こうか」
「だな。はい、いらっしゃいませ。ご案内しますよ」
そろそろテイマー資格受講者も増えて欲しい。
従業員がわたししか居なくなるけど、伝手はあるからもう少し忙しくなれば頼む予定なんだよね。
さてさて、今日はさすがに『多い!』って感じじゃないけど前に比べればかなりいい。
「アイナちゃん、ぶどうジュースとモモジュース頼む」
「はーい!」
「邪魔するぜー」
「いらっしゃいませー! ありゃ」
タンジさんにジュースを渡していると、珍しいお客さんがやってきた。
武装した男の人が三人……いわゆる冒険者だ。
テイマーかなと思っていると、男の一人がわたしを見て声を上げた。
「お嬢ちゃんはあの時チラシを配っていた子じゃないか」
「あ、セクハラ冒険者!!」
「くおん!」
「ゴルゥ……!!」
この三人組、よく見れば広場でチラシ配りをしていた時に絡んで来た人達だった。
すぐにアッシュとゴウ君が立ちはだかりブロックしてくれる。
だけど彼等は心外だという感じでアッシュをモフリながら口を開く。
「おいおい、俺達は客だぜ? なんか金を払えば魔物を見ることができるらしいじゃないか」
「……まあ、そうですけど。テイマーになりたいんですか?」
すると眼鏡の男が口元に笑みを浮かべて蔑むように言う。
「はは、魔物なんて連れて歩いたら印象が良くないからテイマーなんてなるはずがないだろう」
「そう、ですか。一人四百ベリルです! ごゆっくりどうぞ!」
「おお、怖い怖い」
最後に短髪の男がニヤニヤしながらお金を受付に置いて観覧しに扉を抜ける。
「……ああいうの大っ嫌い!」
魔物を連れていれば確かに町の人達に変な目で見られるけども! けども!
それを払しょくするためにこの施設を建てたんだからあんな言い方しなくてもいいと思うの!
「なんかムカつく……お兄ちゃん達ならどうするかな……」
「くおん!? くお、くおん!」
「……大丈夫よ、闇討ちとかしないって! ほらほらほら!」
「くおおおおおん……!?」
ホッと胸を撫でおろすアッシュのお腹をめちゃくちゃにモフる。
毎日お風呂に入っている珍しい熊、もといデッドリーベアなので毛並みはふかふかなのだ。寒いときはアッシュに抱っこされているだけでお布団代わりになる。
それはともかく嫌な冒険者達だったと出て行った扉に目をやる。
わたしを見る目がいやらしかったような気もするけど……。
「まあさすがに気のせいかな。わたしみたいなお子様は興味ないだろうし」
「ゴルゥ」
「あ、お客さん? ありがとゴウ君! あの人達も施設の中で変なことはしないだろうし、一応……お客さんだしね」
わたしは新しく来たお客さんの応対へと戻るのだった。
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