第六話:フェンリアー親子と繁盛するお店!


 さて、狼さん親子を助けてから早七日が経過した。

 小さいながらも魔物らしくケガの治りは早かった子狼は少し引きずりながらも動き回るくらいになっていた。


 「きゅーん♪」

 「あ、また歩き回って! 骨が変なくっつきかたしたら困るのは君なんだから大人しくしなさい」

 「きゅーん……」

 「う、そんな甘い声を出してもダメ! ママも見張っておくこと!」

 「わふ」


 ウチは甘やかさない教育方針なので強く言い聞かせてクッションに寝かせ、おもちゃを置き、水と食べ物を近くに設置して親狼にも言う。


 「アッシュも遊んだらダメだからね」

 「くおん!?」


 背後で驚愕の声を上げながらゴムボールを取り落として固まるアッシュ。

 下のお兄ちゃんお手製で、小さい頃からアッシュの宝物であるゴムボールを持ってくるあたり子狼を元気づけようとしているので優しい子だ。


 だけどボール遊びなんてしたら足に負担がかかるのでさせるわけにはいかないのよね。


 「はいはい、他の子と遊ぼうね」

 

 わたしはボールを拾い、落ち込むアッシュの背中を撫でながら一旦フェンリアー親子の部屋から出る。

 

 「次はレッドエルクのお部屋ね」

 「ゴルゥ」


 タンジさんとわたししか従業員がいないので他の魔物さん達の部屋掃除は二人で手分けてやらないといけないんだけど、わたしが部屋に入ると遊んで欲しいと寄って来て作業がなかなか捗らなかったりする。

 そのため、アッシュやゴウ君を一緒に連れて気を引いてもらってその間にやるのだ。


 「ンメェー」

 「くおーん」

 「ゴルゥ」


 鹿型の魔物であるレッドエルクとボール遊びを始めたので、急ぎ水飲み場と寝床を整える。

 実は結構立派な施設であるウチは魔物さんの部屋が広く過ごしやすい。

 たまにお散歩に連れ出すのをこの国の王様に許可をもらっているからストレスはない……と思いたい。


 ちなみにウチははぐれた子供の魔物を拾ったケースが多く、狩りのやり方などをしらないので野生に帰れないためここで世話をしている。

 今回のフェンリアー親子は親が一緒なのでケガが治ったら森に返すけどね。


 この辺りのさじ加減が非常に難しいのがテイマー施設。

 あまりに狂暴だと処分せざるを得ないし片っ端から拾っていると餌代もかかるし、場所も無くなっちゃう。

 だからテイマーを増やして引き取ってもらえればいいなという思いもあってもう知名度が高い自国ではなく他国であるここに建てた。


 まあスキルとの兼ね合いもあるからなかなか引き取り手は居ないし、ファングバニーのように小さくて可愛い子に集まるのも難しいところなんだよね。


 そんなことを考えていると狐さんを連れたタンジさんが横切っていくのが見えた。


 「こぉーん」

 「あ、狐さんだ。お迎えが来たのね」

 「ああ、向こうもゆっくりできたって感謝していたぞ」

 「うーん。一緒に居てあげればいいのに」

 「宿はお断りだし、この宿泊施設も簡素なものだからパーティメンバーがいたらなかなか言い出しにくいだろうさ」


 難色を示すわたしに笑いながら狐さんを連れて行くタンジさん。

 結構な料金で預かるのでブラッシングにお風呂、餌もしっかり与えているので狐さんもご満悦なのが救いかな。


 「よーしそれじゃ次に行くよ!」

 「くおーん!」

 「ゴルゥ!」


 そんな感じで早朝の掃除を続け、ようやく終わったころには陽がそれなりに上っていた。

 朝ごはんを食べて今日もお暇な受付へ……と思っていると――


 「あ、はい! 四百ベリルになります、こちらからどうぞ!」

 「くおーん」

 「アッシュを撫でたい人はどうぞー。大人しい子ですよ」

 「ふかふかだ……!」

 

 ――今日はやけに人が多かった。


 観覧ばかりでテイマーさんは全然来なかったんだけど、お手製のフルーツジュースや、魔物に餌やり体験ができるおやつが子供たちに売れたのでわたしとしてはホクホクである。


 「俺は観覧通りを巡回するから受付は頼む。アッシュを借りていいか? そいつが居ると子供たちがそっちに集まるからやりやすい」

 「いい?」

 「くおん!」


 アッシュは『任せて』という感じで鳴き、タンジさんについて歩き出す。抱き着くとふわふわで気持ちいいんだよね。


 「アイナちゃん、盛況だね」

 「あ、おばさん! ええ、急にお客さんがいっぱいで! 嬉しい悲鳴ってやつですよ」

 「あなたが配っていたチラシを見た人が増えたんじゃないかね? 手にしている人が多い気がするし」


 餌用のお肉を運んでくれたおばさんがそう言ってくれ、なるほどと手を打つ。どうやらアッシュとゴウ君を連れてビラ配りをしたのを子供たちが見ていて、親にせがんだのかもしれない。


 「無駄じゃなかったんだ……良かった……」

 「あはは、あんた達は可愛いからね。それじゃここに置いて行くよ」

 「はーい! ありがとうございます!」


 肉屋のおばさんに手を振って見送るとまたお客さんが入って来て対応をする。


 「あの熊さん、中に人が入っているってホント?」

 「中の人なんていません!?」


 ……まあ、物珍しさという一過性のものかもしれないけど周知することが重要だもんね!

 

 ――その夜、わたし達とタンジさんの夕食が少し豪華だったのは別の話。


 ◆ ◇ ◆


 ――酒場


 「くそ、結局見つからなかった……!」

 「タダ働きか、面倒だな」

 「あの貴族のおっさんも早く子供だけでいいと言ってくりゃあなあ……」


 フェンリアーを罠にかけた三人が酒場で依頼を果たせなかったことを愚痴りながら飲んでいた。

 

 「あの子狼を連れて逃げ切れるとは思えねえんだけどな……」

 「他にかっさらわれたんだろ? しかたねえ」

 

 依頼に失敗したからといって死ぬわけはないと割り切っている。

 

 「……汚れ仕事なら金払いもいいと思ったんだがなあ」

 「言うな。それよりも新しい仕事をだな――」


 眼鏡をかけたインテリ風の男が諫めていると、別の客の会話が耳に入る。


 「――でよ、あのテイマー施設はキレイだし、魔物も迫力あるんだって。子供は大はしゃぎだったぜ。観覧料もそんなに高くないから家族サービスにはいいかもしれん」

 「ああ、半年前にできたとこな。おっさんと可愛い女の子がいるって話じゃないか」

 「でけぇ熊もな!」


 「……テイマー施設、か」

 「なんか珍しい生き物が居たら引き取って貴族のおっさんに高値で売りつけてもいいんじゃねえか?」

 「悪くない提案だな。行ってみるか――」

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