第五話:保護をするのも施設の役目!
「このアホ娘が!」
「いたたたた!? 痛いよタンジさん!?」
「俺の怒りを思い知れ!」
「ごめん! ごめんなさい!!」
「くおんくおん!?」
「わあ!? 怖いよアッシュ!?」
「ゴルゥ……」
帰宅早々フェンリアーの親子を連れて戻るとタンジさんに状況説明を求められたので包み隠さず話したところ両頬を思いっきり抓られた。
アッシュはマウリ君を抱えてオロオロし、ゴウ君は足元で甲羅の中に頭と手足を引っ込めて様子を伺っていたりする。
「はあ……ったく、お前は親御さんから預かっているんだ。危険なことはするなって。なにかあったら俺のクビが飛ぶんだし」
「まあまあ、戦いになればアッシュもゴウ君も居るし、わたしも戦えるから大丈夫だって! それに自己責任だって出てきたわけだもん」
「せめてサージュが居れば怒らないよ! ……はあ、まあいい無事でよかった。で、そいつらを預かるって?」
ため息を吐いてフェンリアーの親子に目を向けてタンジさんが言う。
わたしは頬をさすりながら小さく頷いてから口を開く。
「うん。マウリ君の話からすると二日は放置されていたみたいだし、いいかなって。このまま死んじゃうのも可哀想だし、森に返すにしても子狼ちゃんは動けないと」
「アイナちゃんが魔物を大事にしているのはわかるから俺は別にいいんだが、ちょっとキナ臭いから大丈夫かと思ってな」
「くおん」
落ち着いたアッシュがくまちゃん座りをして一声鳴く。親狼の匂いを嗅いでいたのでなにか気づいたことがあったのかもしれない。
タンジさんも罠を仕掛けていいところではないところが引っかかっているようだ。
「でも、なんの獲物が獲れたかわからないと思うしここで療養しておけば大丈夫じゃないかな?」
「面倒を見れる……か、お前なら。どうせお客さんもこねえしいいか」
「やったー!! ありがとうタンジさん!」
「こら、抱き着くな!? じゃあさっさと裏に行って手当てしてやりな」
「はーい! いこ、みんな!」
「僕もいい?」
「もちろん!」
わたしが合図するとアッシュがゴウ君を持って立ち上がり、親狼と一緒に着いてくる。観覧する道とは別に飼育小屋がある裏手へと周り、開いている部屋へ二頭を連れて行く。
藁でできたクッションに子狼を乗せて足に添え木をしてやると嫌がる素振りを見せた。
「ダメよ、これを取ったら治りにくくなるわ」
「きゅーん」
「うぉふ」
親狼にも諭されたのか大人しくなり、しばらくウロウロしていた親狼が子狼を守るように寝そべった。
「ここなら誰も来ないからゆっくりしてね。アッシュ、マウリ君、お水と少しご飯を取りに行こう」
「うん! ちょっと待っててね!」
「くおん!」
大きい身体を揺らしながら飼育小屋を出て行くアッシュ。わたしが後ろから襲われないかという心配はご無用。ゴウ君が常に見張っているからだ。
他にも仲のいい魔物さんがたくさんいるのでいざという時はそこから救援を呼べるしね。
動物よりも魔物の方が賢いというのは意外と知られていないけど、人物の認識と言葉の理解は魔物が格段に上。
だからアッシュに指示を出すとすぐに対応してくれるし、お友達になれば嚙まれたりすることもないのである。
「ま、この親狼さんは大丈夫そうだけどねー?」
「わふ」
「きゅん」
大人しく寝ている二頭を尻目に一旦、食材庫へ行き水を入れる容器と下のお兄ちゃんが開発した道具でペースト状にしたお肉、それとミルクと哺乳瓶を手にして部屋へ。
「わふわふ……」
「きゅ……きゅ……」
「ああ……可愛いなあ……」
「いいなあお姉ちゃん」
マウリ君が子狼に哺乳瓶を咥えさせながら口を尖らせる。
わたしが抱っこしているのが羨ましいということだけど、子供とはいえ魔物さんなので資格なしの子に抱っこさせるわけにはいかないのだ! 決してわたしが抱っこしたいわけじゃないよ!
相当お腹が空いていたみたいで親子ともガツガツ食べていた。
毒を警戒していたけどアッシュの説得でなんとか口にしてもらえたんだけどね。
「けぷ」
「もういいの?」
「きゅん! ……くあぁ……」
二頭ともお腹いっぱいになったら眠くなったみたい。わたしはクッションに子狼を寝かせてやると親狼も安心したのか目を閉じた。
「……寝かせて上げようか」
「うん」
「ゴルゥ」
そっと部屋を出て格子を閉じる。
二日前に見た、というだけで実際はもっと前からあの状態だったのかもしれないなあ……。
たまに遊びで追い回す貴族が居るらしいけどもしかしたらそういう類の罠だった、とか?
「うーん」
そんな考察をしながら悩んでいると、マウリ君がわたしの正面に回り込んできて笑顔で言う。
「お姉ちゃんどうもありがとう! 僕、ここに来てよかった!」
「そ、そう? えへへ、そう言ってもらえると怒られてまで行って良かったよ。でも、危ないことをしちゃダメだよ?」
「くおん……」
「ゴルゥ……」
アッシュとゴウ君が『いやいや、それを君が言う?』みたいな声を出していた。
いいじゃない! 結果良ければ!
「うん、アッシュやゴウ君はいいけどやっぱり魔物は怖いもんね。……またあの子の様子を見に来てもいい?」
「もちろん! わたしがいる時に来てね」
「はーい!」
元気よく挨拶をしてテイマー施設を後にするマウリ君は来た時と違い笑顔だった。
それを見てわたしは腕組みをして頷きながら見送る。
「うんうん、いいことをしたわね。……まあお金にはならなかったけど……」
「くおん♪」
「わ!? ふふ、ありがとアッシュ。それじゃ、タンジさんと受付を交代しようか!」
わたしはアッシュに抱っこされて労われながらまたいつものお仕事に戻るのだった。
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