第四話:熊と亀と狼さん!
「気をつけなよ、あんまり奥へ行くと魔物が多くなるからな。……ま、そんだけでかい熊と一緒なら大丈夫か」
「ありがと、おじさん!」
町の中にある柵を越えて森へ入っていくわたし達。
しっかりとした鉄柵には痺れる魔法がかかっているらしく、一度それを味わった魔物はここへ近づくことがない。
痺れている間に狩られた仲間を見ている賢い魔物は特に近寄らないとのこと。
なので森も奥までいかないと罠も魔物もないんだけど、マウリ君はパパと一緒に薬草や木の実といった採取でその周辺まで行っていたらしい。
罠を仕掛けるということはそれなりに捕獲できるわけなので危険度は高いんだけどね。
で、その時に見つけたそうだけど、さすがに親狼が威嚇しているところに近づけるはずもなく帰って来たというわけ。
「どのあたりなのかな?」
「えっと、こっちだよ」
「アッシュ、お願い」
「くおん!」
アッシュの背中を軽く叩いて方向を指示しお願いすると、速度を上げてダッシュしてくれる。緩やかな坂くらいはものともせずにどんどん進んでいくけど、結構奥の方でちょっと手に汗握り始めるわたし。
浅いところならタンジさんと来たことがあるけどアッシュ達と一緒とはいえ一人でここまで来ることは初めてなのだ。
「うぬ……」
「変な声が出てるけど大丈夫お姉ちゃん!?」
「も、もちろん! 一応こうやって剣も持ってるし!」
防具は下のお兄ちゃんが着ていたローブで防御魔法がついている豪華なやつだ。お兄ちゃんの匂いもついているのでこれを着るとテンションが上がる。
「そろそろだと思うけど……」
「あ、居た! ……って、あれは――」
「グルウゥゥ……」
わたし達に気付いた狼さんが立ち上がり威嚇してくる。
そしてあれはただの狼じゃない……背中が薄い青でお腹が銀色の毛をした狼はレア個体と言われている‟フェンリアー”という種類の魔物さんだ。
この国には居るって聞いていて毛並みがとてもきれいだからテイマー施設で預かりたいとかタンジさんが言っていたのを思いだす。
「ひゅーん……ひゅーん……」
「あの子だよ!」
「あれはマズイわね」
いつから捕まっているのかわからないけど子狼はかなり衰弱しているように見える。虎ばさみという罠が足に挟まっていて抜け出せないようだ。
食べ物は与えられているようだけど痛みでそれほど食べれていないのだと思う。
「どうしようかな……」
「すぐに助けないと……!」
ちなみにマウリ君がこの二頭を見たのはもう二日前の話らしい。
獲りに来なかったところを見ると親狼に恐れをなして手に入れられなかったのかな? 強いみたいだしフェンリアーって。
冒険者やギルドの職員さんなら毎日来るはずだし、それにこの辺って罠を仕掛けていい場所じゃなかったような……? まさか密猟?
「お姉ちゃんどうするの?」
「ハッ! そうね、まずは虎ばさみから小さい子を助けないと。アッシュ、ゴウ君、交渉して!」
「くおん!」
「ゴルゥ」
「グルゥウウ……!!」
わたしとマウリ君がアッシュから降りると、二頭は親狼の方へ近づいていく。
親狼が飛び掛かる態勢を取りながら威嚇してくるものの、アッシュ達は途中で立ち止まり声をかける。
「くおーん、くおんくおん!」
「ゴルルゥ」
「ガウ……グルゥゥゥ……」
「くおん」
「なんて言ってるの?」
「わかんない! けど、多分大丈夫だよって言ってくれているんだと思う」
魔物さんの言葉はさすがにわからない。けど上のお兄ちゃんの奥さんは話せるんだよね。
わたしってテイマーの資格は持っているけどアッシュの言葉とかが理解できるのは羨ましいと思った。
「がる……わふ……」
「くおーん♪」
「ゴルゥ!」
どうやら交渉が終わったようで親狼が道を譲ってくれ、アッシュがわたしに子狼を助けるように促してくる。
すぐに虎ばさみの解除をして子狼ちゃんを確保。ケガを回復魔法で癒してあげるも――
「ひゅーん……」
「ありゃ、骨折してるわね」
「うう、痛そう……」
「わたしの回復魔法じゃ骨折は治らないんだよね……。こうなったらウチで預かるしかないか。それしかないよね!」
「く、くおーん……」
アッシュが『大丈夫?』という感じで鳴くが、わたしの手にある子狼の震えっぷりには心を打たれたようで、
「くおん!」
やる気を出してくれた。
親狼が匂いを嗅ぎに近づいてきたので恐る恐る背中を撫でてやり話しかける。
「しばらく療養が必要だから連れて行くね。心配だと思うから一緒に来るよね?」
「わおーん」
「うんうん、パパかママかわからないけど子供は大事だよね! それじゃこの罠を仕掛けた人が来るかもしれないし早く戻ろう」
「うん!」
再びアッシュに乗って町へと戻るわたし達。親狼もついてきてしんがりを一番防御力の高いゴウ君が務めてくれる。
これは報告しておいた方がいいかなと思いながら一瞬だけ振り返るわたしだった。
◆ ◇ ◆
「今日こそは親子ともどもとっ捕まえてやる……! 親は殺していいんだな?」
「許可は貰っているから問題ない。子狼がいれば文句はないそうだ。なるべく傷つけずに殺せとのオーダーだからな。はく製にでもするのだろう」
アイナ達が町へ進路をとったそのころ、別の方角から武装した冒険者がそんな話をしながら森を歩いていた。
「ん? 様子が変じゃないか?」
「どういう……あ!?」
「い、居なくなっている?」
「逃げられたのか?」
「くそっ! 折角ここまで追い込んだってのにタダ働きかよ!」
そういってアイナの外した罠の周りで男達は悪態をつくのだった――
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