第三話:少年の依頼!


 「いらっしゃいませ、確かにここでテイムの勉強はできるけどパパかママは?」

 「あ、えっと……内緒でなんとかなりませんか?」


 見た感じ十歳に満たないくらいの子が周囲を気にしながらわたしにそう問いかけてくる。ごく普通の男の子だよねどう見ても。

 両親に知られたくないということは状況が良くないか、この先のことを考えているのか……。

 

 まだウチが貧乏だったころに下のお兄ちゃんがギルドで仕事をしていたことがあるのでこのくらいの年の子が働くということは珍しくない。

 だけどテイムは相応のスキルか、魔物に精通しなければできないため、こういった施設や師匠を見つけて勉強しなければ簡単に懐かないものなのよね。

 アッシュ達は小さいころから一緒だったから仲良しだけど、野生の魔物は一歩間違えば命を落とすこともあり得る。


 「うーん、勉強するにはお金も必要だしテイマーって危ないことも多いんだよね。だからご両親から許可が出ないと教えられないの。それに修行には時間もかかるよ? 最低でも三年くらい」

 「そ、そんなに待てないよ!? ああ、どうしよう……あの子が死んじゃうよ……」

 「あの子?」


 なにやらお困りごとかな?

 わたしが尋ねてみると、男の子は涙目になりながら口を開く。


 「あの、あのね、山にケガをした子狼がいるんだ! 罠にかかったみたいで足から血を流して……。助けようと思ったんだけど親が威嚇してきて近づけなくて……」

 「なるほど、そういうことか」


 害獣避けや狩猟のために仕掛けられた罠にかかったんだろうね。わたしは魔物さんが好きだけど、害を為したり狂暴な個体は倒さざるを得ない。

 お肉なんかも魔物からいただいているし、持ちつ持たれつだと家族は言う。


 それよりそこまで近づいて親に噛まれたりしなかったのは幸いだったのかもとカウンターから出て男の子の頭を撫でながら笑顔で話しかける。

 

 「なら、お姉ちゃんがなんとかしてあげるね! その子のところに案内して?」

 「ホントに……?」

 「うん! ほら、この子もこの子もお姉ちゃんのお友達なんだよ!」

 「くお……」

 

 なにごとかとアッシュが立ち上がって受付に頭を置いてあくびをすると男の子が、


 「わー、大きいねえ」


 ポカーンと口を開けてそんな感想を口にする。

 ゴウ君は相変わらず大人しく受付カウンターで頭だけ出してこっちを見ていた。

 でもわたしと仲がいいのは分かってくれたようで泣きべそからほんのり笑顔になって言う。


 「それじゃあお願いしていい?」

 「もちろん! わたしはアイナ。君は?」

 「僕はマウリだよ!」


 この町に来て半年、なんかテイマー施設っぽいお仕事の依頼だ。

 まあ、お金は入らないけど困っている子供や

魔物さんを助けることはお店の宣伝にもなると思う。


 (テイマー施設のお嬢さんがケガをした子犬を助けたらしいぞ!)

 (まあ、なんて優しい!)

 (それに可愛い!)


 「……ふふ」

 「どうしたの?」

 「あ、な、なんでもないよ! さて、そうと決まればここから離れないといけないんだけど……」


 問題はタンジさんだ。

 危険なことをしないという約束があるので山に入ることを伝えたらきっと止められる。


 さて――


 「タンジさーん! ちょっとチラシ配って来ていい? 受付お願い!」

 「お、頑張ってるなあ。どうせそんなにお客さんも来ないだろうしいいぞ」

 「ありがとうー!」


 ちょろい。

 わたしは裏に続く扉を閉めながらほくそ笑む。山は町の裏手にあるから柵を越えればすぐだし、買い物感覚といえば合っていると思う! うん!


 「それじゃお散歩に行くよ!」

 「くおん? ……くおーん♪」

 「ゴルゥ」

 

 施設から外に出ると、早速アッシュが四つん這いになって背中に乗れと示唆してくれ、マウリ君を乗せてからわたしもまたがり出発する。


 「すごいねーアッシュ」

 「力持ちだし、凄く強いんだよ」

 「で、ゴウ君は空を飛べるんだ?」

 

 町中を早足で歩くアッシュの横でゴウ君は頭だけを出した状態で、足から風を出して空を飛びマウリ君はびっくりしていた。


 「サンドタートルって大きくなると飛べるんだって。そういえばお兄ちゃんが『ガ〇ラだ!?』って驚いていたけど知ってる?」

 「ううん」

 「だよねー」


 なんのことかは教えてくれなかったけど、気にしても仕方がない。

 わたし達は町の中にある柵を越えて山へと入っていく。


 町の中に山があるのも珍しいけど、わたしの居た町も山と地続きだったんだよね。

 高い鉄の柵で魔物さんが入れないようにしていて、ここまで近いのは木の実や果物、イノシシなんかを獲るためなんだとか。

 冒険者の人が狩りをしていたりするので採集に入る人は結構いるんだけど――


 「一人で山は危ないよ」

 「薬草と果物、それと薪を採りにお父さんと入ってたんだ。その時に見つけたんだよ。怒られそうだから言わなかったけど」


 罠を仕掛けた人の獲物だから勝手に助けるのは良くないんだけど、親犬に吠えられたんだと思うんだけど、それでも助けたいという優しい気持ちには応えたい。

 犬なら獲物じゃないし助けても怒られない……はず。

 

 マウリ君先導の下、私達は山を登っていく――

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