第二話:お金が無い!


 

 「いらっしゃいませ! 観覧ですか? お一人四百ベリルで、お子様は二百ベリルですよ!」

 「それじゃこれで」

 「わーい! カッコイイ魔物が居るかな?」

 「くおーん」

 「わ、もう居た!? すごーい」


 久しぶりに観覧の親子連れが来て思わず頬が緩み、男の子がアッシュをふかふかした後に勢いよく扉から出ていく。


 「子供には人気なのよね」


 カブトムシとかカッコいい生き物が好きな男の子は多いし、小さいころのアッシュみたいに可愛い子なら女の子も入りやすい。

 だけどリピーターになるのは難しいとお兄ちゃんは言う。確かに一回見たら……というのは理解できるんだけどね。


 だけど王都だし暮らしている人は多いはずなのでもう少し来客があっても良さそうなのになあ。


 「いい方法はないものか……」

 

 こういう時、わたしと一緒に来たお目付け役のサージュが頼りになるんだけど、彼はちょっと野暮用でここに居ないため相談できるのはタンジさんだけ。


 だけどタンジさんは『まあ、焦ることはないんじゃねえか?』と緊迫感が無い。

 ここを畳んでもわたしを親元に返すだけだから気にならないのかもしれないけど……。

 どちらにせよ『やっぱり無理でした、てへ♪』ということだけは避けたい。

 

 「おーいアイナ、買い物に行ってくれないか?」

 「ん? いいですよー」

 「アッシュとゴウを連れて散歩がてら行ってこい。なにを悩んでるのかしらないけど看板娘の顔じゃないぞ?」

 「ハッ……!?」


 タンジさんは受付に座り、わたしはエプロンを外してアッシュ達と外へ。

 とりあえず頼まれたのは晩御飯の食材なので本当に散歩がてらって感じみたいね。


 「くおーん♪」

 

 アッシュはお散歩に出られて嬉しそうに四つん這いになって歩く。

 テイマー施設許可証があるのと、アッシュとゴウ君はお兄ちゃんからテイマー証明を譲り受けたので町を一緒に歩いてもいいことになっているので助かっている。

 

 「あら、アイナちゃん買い物? こっちの魔物は相変わらず大きいわね」

 「はい! アッシュはもっと大きくなるらしいですけどね!」

 「くおーん♪」

 「食費も大変じゃない?」

 「施設の魔物さんと一緒に食べてますよ! 確かによく食べますけど国から支援金も出ますし」

 「そうなのね。あ、そうそう今度セールをやるからお店に来てね」

 

 そういってお肉屋さんのおかみさんがわたしに『七日! 大安売り!』というチラシを手渡してくれ、他のお客さんの接客へ戻っていく。

 お肉の前で物欲しそうにしているアッシュのお尻を叩いて歩きながらチラシを見る。


 「へえ、七日は骨付き肉が10本で千五百ベリルって安いね。お小遣いでアッシュとゴウ君にプレゼントしようかな」

 「くおん♪」

 「ゴルゥ!」

 「あは、くすぐったいって」


 お肉が食べられると聞いてアッシュがわたしの頬を舐めてじゃれ、ゴウ君も珍しく歓喜の声を上げていた。

 

 「あ! あー!! これだ……!!」

 「くおん!?」

 「ゴルッ!?」


 急に大声を出したわたしにびっくりした二頭をなだめつつ、わたしはアッシュの背中に乗って急いで施設に帰る。


 「タンジさん、ちょっと休憩するね! 紙とペン使うから!」

 「おう、慌ただしいな……。お客さんも来ねえし、魔物達の晩飯までいいぞ」


 すぐに受付で新聞を読んでいたタンジさんへ部屋に戻ることを伝えるとあっさり承諾され、わたしは紙とペンを持って二階の自室へ戻る。


 「くおん?」

 「いいことを思いついたの。チラシを作って配ればみんなの目につくんじゃない?   知名度が足りないのよ!」

 「くおーん♪」


 いい案だと地べたに座ったアッシュが手を叩いて称賛してくれる中、わたしは紙にテイマー施設のご案内チラシを作成する。

 お手製だけどベルナ先生に字が上手いと言われていたので変ではないと思う。

 ついでにアッシュとゴウ君の似顔絵を描いて完成っと!


 「できた! よし、これをいっぱい作るだけね!」


 そして始まったチラシ作りに夢中になり、晩御飯の当番だったことをすっかり忘れてタンジさんに呆れられたことは言うまでもない……


 ◆ ◇ ◆



 そして翌日。


 「魔物さんを見ることが出来て、テイマーの勉強ができる施設『アイザック』ですよー!」

 「くおーん!」

 「ゴルゥ」


 わたし達は町の入り口付近にある広場でチラシ配りを始めていた。

 減っていく枚数に最初はウキウキしていたんだけど――


 「テイマー施設なんてできたのか? ……ふん、魔物に手伝ってもらわないと戦えないなんて腰抜けのジョブもいいところだぜ。なあ?」

 「まったくだ。冒険者なら自分の身を一つで戦うべきだろう? お嬢さんは可愛いし、生徒より結婚相手を探した方が有意義なんじゃないか」

 「……興味が無いならあっち行ってください」

 「くおん……ぶふー」


 ――変な冒険者一向に絡まれていた。


 離れろと言ってもなんだかんだと話しかけてきて鬱陶しいことこの上ない。

 アッシュが伏せの態勢で鼻息を荒くしているけど、けしかけるわけにはいかないので大人しくしてもらっている。


 「どう、お昼一緒に行かない? 奢るよ」

 「結構です! お仕事の邪魔をしないでください」

 「ひゅう、気が強いな」

 「おい、そろそろギルドに行かないと依頼人が来る時間だぞ」

 「そうか。またなお嬢さん」

 「お構いなく。あ、どうぞ! 西側にあるんですよ!」


 三人組の冒険者達がようやく立ち去ってくれ、わたしはチラシ配りに奔走する。

 

 そして――


 「終わった……」


 とりあえず頑張って作った百枚のチラシを配った。

 だけど逆に言えばこの広い王都でたった百枚しかできなかったんだけどね……。

 ティリアちゃんやセフィロちゃん……あ、親友ね。彼女達に手伝って作ればもっとできるかなあ。いや、忙しいし頼れないか。

 となればサージュに早く帰って来てほしい。手伝ってもらうのに。


 「はは、でも偉いと思うぞ効果があるといいな。例えば同じところじゃなくて次は違うところで配ればまた違うんじゃないか」

 「あ、それいいかも! タンジさん賢い!」

 

 それはいいかもとわたしはまたチラシを作る。

 昨日は時間が無かったけど、今日は受付をしながら作るかと思っていると、お客さんが、来た。


 「あ、あの……すみません。テイムしたい魔物が……居るんですけど……」


 それはわたしよりも小さい男の子だった。

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