わくわくテイマーランド ~アイナの剛腕繁盛記~
八神 凪
第一話:テイマー施設へようこそ!
「はい、それじゃ二泊ですね。ご主人も一緒に泊まりますか?」
「俺は仲間と宿に行くからこいつだけ頼むわ。それじゃ、よろしく頼むぜ!」
「……畏まりました!」
「こぉーん」
嬉しそうに受付から離れて仲間のところへ行く冒険者のお兄さんとは裏腹に、預かったキツネさんの魔物は寂し気にその背中を見ながら鳴いていた。
そりゃ、ね?
ペットじゃないけど魔物さんだってご主人様が大好きだから一緒に居るわけで、こうやって離れ離れになるのは寂しいに決まっている。
とはいえそれを説明したところでこういうことをするお客さんには伝わらないのだ。
「道具扱いなんて嫌だよねえ。よし! わたしがお手入れしてあげるよ!」
「こぉーん♪」
「止めろっての」
「あいた!? なんで叩くのよタンジさん!」
「アイナ、お前そうやって預かった魔物を甘やかすから引き取りに来た時にここから離れたく無くなるってのが分かってんのか?」
「まあ……あはは」
「ったく。ほら、そいつは俺が預かるから受付に戻れ」
「はぁーい」
わたしからキツネさんを預かったタンジさんはその子を思いっきり撫でながら手綱を引いていく。自分だって可愛がってるじゃん!
……とは雇い主に強く言えない。
タンジさんはこのテイマー施設『アイザック』のオーナーだからだ。
テイムとは野生の魔物を餌付けとか危ないところを助けるなどでお友達になることなんだけど、たまに無理やり連れ回す人もいるらしい。
わたしことアイナちゃんは十四歳の時に家を出て別の国へ移住した。
元の国で下のお兄ちゃんがテイマー施設を立て直したことがあるんだけど、他国ではそこまでテイマー、特に魔物さんに対してそこまで手厚い待遇があるわけじゃないらしい。
わたしは小さいころから魔物に囲まれて暮らしていたから、あの施設が普通だと思っていた。違うのならとテイマー施設の重要性を広めるためこの町へ。
家は貧乏ってわけじゃないんだけど、学院を卒業して下のお兄ちゃんとお嫁さんみたいに冒険者として活動しようとしたんだけどそれは止められたんだよね……。
だからこれなら合っているかもと選んだ仕事だ。
ちなみにお家に帰れば優しい両親と上のお兄ちゃんとお嫁さんがいつでも歓迎してくれるくらいに家族仲は良い。
だけどこの『他国移住』は難色を示されてすったもんだの末、お兄ちゃんが立て直したテイマー施設のオーナーであるタンジさんと数頭の魔物、それとお目付け役と一緒ならという条件で施設を建てた。
で、実際にお店を始めて分かったけど宿は魔物と一緒は五円ry下さい……というところばかりのようでここは助かると利用者は少しずつ増えている。
だけど魔物を雑に扱うテイマーさんが居たり、パーティメンバーのテイマーさんを虐げていたことを目撃したこともあるし……
「そもそも魔物さんを道具みたいに扱う人が多いのよね!!」
「くおーん」
「あ、どうしたのアッシュ?」
腹立たしさを嚙みしめながら干し草の整理をしていると、後ろからデッドリーベアという熊の魔物で、小さいころから一緒に過ごしているアッシュに声をかけられた。
この子はお母さんベアと一緒に下のお兄ちゃんに拾われて一緒に暮らしていたの。
昔はわたしが抱っこできるくらいだったのに今では2メートルくらいあるので、逆に抱っこされることが多い。
めちゃくちゃ狂暴って町の人が怖がってたのにびっくりした。可愛い時を知らないからかもだけど。
昔、とある事件でわたしを助けようとして左目を怪我して傷がついているのが特徴のお利口さんなの。目は潰れていないから不幸中の幸いだったんだよね。
「くおーん」
「水を流して欲しいの? ちょっと待ってねタンジさんにここを頼まれているから片付けたらすぐ行くよ!」
「くおん!」
わたしが干し草を指さすとアッシュは『わかった!』と言わんばかりに干し草を抱えてお手伝いをしてくれた。
アッシュはわたしがテイムした魔物じゃないんだけどお友達なので襲われたりしたことはない。みんなこういう風にすればいいのにな。
「おわったー♪」
「くおーん♪」
わたしとアッシュは小屋の干し草を整理して両手を上げて喜び、その足で魔物達の住処の掃除へ赴く。
「はーい、寝床を掃除するからちょっとどいてねー」
「ぶるふぅ」
クラッシュゴートにレッドエルク、ジャイアントタスク……色々な魔物さんの住処を掃除し、お昼ご飯を用意してからわたしも受付へと戻る。
「今日はあのキツネさんだけかな?」
「くおん」
テイマー施設とは言っても魔物を扱う人はそこまで多くないので収入はそれほど多くない。
だから前の国でやっていた魔物を見てもらう『動物園』としても運営をしているのだ。
お小遣い程度で観覧できるんだけど、王都ほど大きくないから人が多くない。そうなると一回見たらもういいやってなるのでそっちの収入もボチボチなのが悩みの種なのよね……。
「ゴルゥ」
「ゴウ君、パトロールご苦労様。お水飲む?」
「ゴル」
ウチから連れてきたサンドタートルのゴウ君も周辺のパトロールから受付に戻ってきていつもの場所におさまる。
これが毎日のお仕事。
お預かりした魔物さんは見せる場所とは違うところで寝泊りしてもらうので見世物にはならない。
動物園も友達を利用しているようであまり好きじゃないんだけど、こういう魔物さんも居るというのを知ってもらうには丁度いいとタンジさんは言う。
「うーん、他にお金を稼ぐ方法は無いものか……テイマーになりたい人もこの国は少ないみたいだし……」
なにかしら実績か成果を出さないと家に連れ戻される予定なので出来ることはないかと腕組みをして考える。
「くお……くおーん……」
「アッシュ、寝ないで一緒に考えてよー」
わたしがカウンターの椅子に座ると呑気なアッシュは寝そべってあくびをする。
ここに座るとお散歩に行かないと分かっているのでお仕事が無い時は隣で寝ているのだ。
「もうー。ま、考える時間はいくらでもあるんだけどさ」
頬杖をついてお客さんの来ない入り口を見ながら口を尖らせるわたし。
与えられた期限は二年あるけど結果が出なければ店をたたんで実家……すでに半年使っているので焦るというものだ。
「魔法は使えるけどテイマーにはあまり必要ないからなあ……。やっぱりタンジさんのテイマー教室を繁盛させて希望者を増やすのが一番いいのかしら?」
自国の王都ではそれなりに生徒が居たけどこの国、タシターンでは反応は薄い。さっきの狐さんを連れた人を含めて多分半年で二十人くらいしか見ていない。
「こうなったら動物園を盛り上げるしかないか……」
手元にあったおやつの芋ケンピを口にしながらわたしは呟くのだった。
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