第7話 探査隊

●7.探査隊

 上日本国ステーションの出現によって米中戦争と中国の日本占領は寸前の所で回避されたが、この約1年半ほどの間で、アメリカは軍事ステーション『ホワイト・ホーク』、中国は軍事ステーション『煬帝』を相次いで打ち上げていた。このことによって核抑止力の時代は終わり、ステーション抑止力の時代へと変貌した。


 先に打ち上げられた2つのユニットは、軌道上で組立てられ探査船『おおとり』になっていた。平原、白石、寺島の乗った有人連絡船『たかお12号』は『おおとり』に向かおうとしていた。

 「こうして宇宙に出て見ると、上日本国ステーションよりも『煬帝』の方がレーザー砲門が3つ多いから、『ホワイト・ホーク』と連携してイーブンとなるわけか」

平原は丸窓からかなり遠くを通り過ぎていく『煬帝』を眺めていた。

「それにしても、米中の対応は早いものです」

白石は感心していた。

「平原隊長、まもなく『おおとり』に到着です」

寺島は宙軍に子供用の船内作業服がなかったので、Tシャツに短パンであった。

「あれが『おおとり』か。上日本国ステーションとだいたい同じぐらいの大きさかな」

平原はモニター画面に映し出されている船外カメラの映像をじっくりと見ていた。


 平原たちは『おおとり』に乗り込むと、まず居住空間に上下があることに気が付いた。

「これって、もしかしたら電重力板が敷かれてるのかな」

平原は重力を確かめていた。有人連絡船は無重力だったので、頭に昇った血が下がっていくのを感じていた。

「そのようです。これで筋トレしなくても、無事に地球に帰還できます」

白石もほっとした表情になっていた。

「でも、上下があると狭い気がします」

「確かに。えっ、でも寺島君は無重力のステーションに行ったことはないのだろう」

平原はちょっと気になった。

「本に書いてあったことを実感しただけです」

「それじゃ隊長、『おおとり』はWTH1(ワープチューブホール1)に向かいますので、シートベルトを」

「白石少尉、シートベルトなんて、どこにある」

平原はニヤニヤしていた。白石も今回の任務に当たって平原同様に昇格していた。

「とりあえず、あの椅子に座るか」

平原はかかとを床面につけてゆっくりと歩き、『おおとり』の前方部にあるコックピット的な所の椅子に座った。寺島もちょこんと椅子に座っていた。


 『おおとり』は船内コンピューターに設定してあった座標にある、WTH1(ワープチューブホール1)の前まで来た。

「隊長、どこにその穴があるんですか。直径100メートルもあるのでしたら、見えても…」

白石は船外カメラを動かしていた。

「あそこに、わずかに空間が歪んで見える所があるだろう」

平原はモニター画面上の空間の歪みを指さしていた。

「あれですか」

白石は目を細めていた。

「白石少尉、モニター上に仮想円を表示させると良いのではないでしょうか」

寺島が言うと、白石は仮想円をモニターに表示させた。

「『おおとり』の直径は7メートル程度だから余裕で通過できるだろう」

平原は再びワープチューブに入ることにドキドキしていた。それ以上に白石と寺島は息を荒くしていた。


 何事もなく『おおとり』はワープチューブ内に入った。薄緑色の内壁は薄っすらと光を放っているので、内部はある程度、見通すことができた。平原、白石、寺島は、しばらく黙ったまま、モニターや丸窓からワープチューブ内を見ていた。

「隊長、エイリアン船は、あそこの黒い塊ですか」

寺島は興味津々であった。

「そうなんだ。四角形重ねた感じで映画に出て来そうなものより、デザイン性がないだろう」

平原は自分のコレクションを見せるよう感じで言っていた。

「僕は映画用の人を惹きつけるデザインにする必要がないからだと思います」

「惹きつける必要はないか…人類のデザイン性とエイリアンのデザイン性に共通点がないとすると後は合理性か」

「隊長、エイリアン船の近くにはアメリカの宇宙船と中国の宇宙船が浮遊しているようですが、なんか変です」

白石はモニター上の船外カメラの映像を拡大させていた。

 アメリカ船がアップになると壁面の一部が吹き飛び、ヘルメットが割れている宇宙服が引っかかっていた。

「エイリアン船の姿勢制御ロケットも一緒に爆発たようです」

白石はセンサーのデータを見ていた。

「…姿勢制御ロケットを引きはがそうとして爆発した感じだな」

「隊長、こっちには爆発した中国船があります」

視力の良い寺島は、丸窓から外を見ていた。

「どれどれ、あぁ、こっちは電重力床の通路を引き剥がそうとしたようだな。いずれも爆発している。無理して部品を取ろうとするとダメだな」

「この付近に生命反応はありません。アメリカ、中国双方の宇宙飛行士は犠牲になったようです」

「我々もエイリアン船を探査する際は気を付けないとな」


 宇宙服を着た平原と白石は、エイリアン船の中を浮遊していた。

「あそこを越えるとブリッジのような場所になっているんだ」

平原は、以前ドローンが辿ったコースを自らが辿っていた。

「ブリッジには何があるんですか」

「いろいろだよ。あぁ寺島、我々の周りに爆発物はないよな。センサーで確認してくれ」

平原たちの無線は宇宙服2着と『おおとり』にリンクさせていた。

「何もありません」

「了解、これより我々はブリッジに入る」


 平原は担いでいたバッテリーパックを宙に浮かせたまま、プラグを手にしていた。

「さてと、電気で動きそうなものないかな」

「隊長、どれも動きそうにないですよ」

「あの、床面がめくれている金属の部分にプラグを挟んでみるか」

平原は金属部分にプラグを挟む。

 バッテリーパックが床面に落ち、平原と白石は床面に叩きつけられた。さらに宙に浮いていた金属片が落下し、平原の足元に突き刺さった。

「うわ、隊長、凄まじい重力が」

「うぅ、3.2Gだ」

平原は宇宙服のヘルメットのフェイスプレートに表示されている数字見ていた。

「隊長、外してください」

白石は這いずりながら言っていた。

「今、やっているが、体が重くて、」

平原は身をよじりながら、プラグを金属板から離そうとしていた。

 次の瞬間、強烈な重力は消えてしまった。平原はプラグを手にして宙に浮いていた。

「はぁ、なんとかなった。やたらに電気をいれるもんじゃないな」

平原は金属片が突き刺さっている床面を恐々見ていた。

「爆発するよりはマシですけど」

 「隊長、大丈夫ですか。急に心拍数が上がりましたけど」

寺島は心細そうな声を出していた。

「あぁ、体重が3.2倍になっただけだ」

「隊長、ヘルメットのカメラを右斜め下に向けてくれませんか」

「どうした」

「何らかのコンピューターのようなものが見えるのですが」

「あれか」

平原は寺島が言っている方向に浮遊して行った。


 「隊長、その左から4番目と6番目の端子に、プラグで挟んでくれませんか」

寺島は、冷静に言っていた。現場の平原と白石は顔を見合わせていた。

「…また心拍数が上がるような事態にならないか」

平原は躊躇していた。

「お願いします。まず1~2ボルト程度に絞ってやってみてください」

「わかった」

平原がプラグで挟む。ブリッジの真ん中にある座席の前の空間に3Dホログラムのようなものが浮かび上がった。

「なんだあれ」

平原は座席の方に浮遊しいったが、彼が着く頃にはホログラムは消えていた。

 「寺島、俺か白石少尉のヘルメット画像にホログラムは映ってないか」

「今、分析しています」

寺島の声と同時にキーボードを叩いている音がしていた。

「何でしょう。あれは」

「まぁ、とにかく爆発も重力もなかったな」

平原はプラグを離していた。

 「隊長、ワープチューブ網の地図かもしれません」

「路線図のようなものか」

「はい。現在位置らしきものがあるチューブは袋小路なっていて、本線から外れた支線のように見えます」

「それだけでも、成果だな。命があるうちに戻るか」

平原はバッテリーパックを肩に掛けていた。

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