第6話 宙軍情報局

●6.宙軍情報局

 「今回の軽トラの一件で、残念ながら、中露に通じる内通者がいることは間違いない。私は宙軍情報局を設立しようと思う」

織部首相は横田基地の本部棟の会議室で閣僚を前にして述べていた。

「首相、人材は新たに募集するのですか、」

上日本国外務大臣の佐々木がたずねる。

「ここはやはり、自衛隊で実績を積んだ者の方が良いだろう」

「わかりました。しかし内通者とは…、国籍取得者は首相が認めた者ばかりなのに」

「そうでもない。タカギ製薬の社員は、会社との契約で自動的に上日本国国民になった者もいるからな」

「平原少尉などですか…」

上日本国文部科学大臣の清水は控えめな口調であった。

「いや、彼はシロだろう。軽トラの件を自作自演したということないだろうし、彼がそうなら私は人を信じられなくなる」

「だとすると、タカギ製薬の取締役あたりが怪しいのではないでしょうか」

上日本国の国防大臣の柳田は野太い声で言っていた。

「柳田大臣、宙軍情報局は国防省の管轄下だから、怪しい所から洗ってくれ。それで情報局長の人選も君に任せる」

「承知いたしました」


 平原はタカギ製薬の東京本社に退職届を出しに社長室に来ていた。

「平原君、君もこの所暫定首相をやったり、宙軍の訓練に参加したりと、大変だったな」

社長の高木は退職金の明細を平原に手渡していた。

「タカギ製薬の社員として、当然のことをやらさせていただきました」

「それで、今度は宙軍中尉なって宇宙の探査に行くと聞いたが凄いではないか」

「このきっかけはタカギ製薬のおかけです」

「ところで、宙軍情報局の連中がちらほら目につくが、何かあったのか」

「…。はい」

「軍の機密事項かね」

「実は中露に通じる内通者がいるのでは、内偵しているのです」

「ほほう。そうかね。私も疑われているのかな」

「私や社長はシロと首相が太鼓判を押していますが、他の社員や取締役の方々は疑われています」

「よく話してくれた。君に去られてしまうと寂しい気がするが、内通者の件は私もそれとなく調べてみよう」

「無理はしないでください。それでは私はこれで失礼いたます」

平原は退職金の明細をスーツの内ポケットにしまうと、一礼をして社長室を出て行った。


 平原はタカギ本社の地下駐車場の向かうエレベーターに乗った。

「平原さん、軍の機密事項はやたらに話してもらっては、困りますよ」

乗り合わせていた清掃員の男が言い出した。

「ええっ」

平原は驚いていた。

「私です」

男は作業帽のつばを少し上げた。

「…西本局長ですか。訓練の時はいろいろと手配いただき、ありがとうございました」

「すぐ見破られるようでは、私の変装もダメだなぁ」

「なんでまた、情報局長になられたあなたが自ら、こんな所に」

「情報局も人手不足なもので」

「それで、社長室にも盗聴器か何かをつけているのですか」

「そこのところはご容赦願いたいのですが」

西本が言っているとエレベーターのドアが開き地下駐車場に着いた。


 平原は西本に案内されて、自分の車の隣に駐車していた情報局のミニバンに乗った。

「内通者の目星は付いたのですか」

「取締役は全員シロでしたが、あなたと一緒にステーションにいた長谷川聖香をマークしてます」

「長谷川がですか、元社共党議員の父親の影響はないと思っていましたが」

「影響ありです。しかし長谷川は一社員で、宙軍衛生准尉を兼務しているとはいえ、手にできる情報は限られています。ですが電重力物質やワープチューブの件は現場に居合わせているので、漏えいしたようです」

「どうします。逮捕しますか」

「泳がして利用しようと思います」

「偽の情報でも流すのですか」

「まぁ、そんなところです。そこでお願いがあります。次に長谷川に会う機会はありますか」

「今度の打ち上げに向けての宙軍の体力検査の時ぐらいです」

「その時に、さりげなく、この情報を見せるなり話すなりしてください」

西本はプリントアウトした資料を平原に渡していた。


 平原は横田基地内の医療施設に来ていた。

「この診察を終えたら、今回の体力測定は終りよ」

白衣を着た長谷川は聴診器を平原の胸の辺りに当てていた。

「いまだに聴診器を使うのか」

「これがシンプルで間違いがないから」

長谷川は聴診器を元に戻し首にかけた。

「全部クリアしているよな。再びワープチューブのエイリアン船を見てみたいからな」

「問題ないわ。もう一回あそこに行って何か変化があったら、土産話を聞かせてよ」

「土産話か。それよりもここだけの話、年代測定は間違っていたらしいんだ。本当は95000年前の船らしい」

「9500年前じゃなくて95000年前なの」

「日本製の機械は昔と違って壊れやすいから、良くあることらしいよ」

平原は日本や上日本を裏切る人物が喜びそうな語句をわざと入れてみた。

「そうよね、あはは」

長谷川は嬉しそうにしていた。平原はそんな長谷川をチラ見していた。

「そんな昔なのに、三内丸山遺跡などになんで印が付いていたのかしら」

「あぁ、そこなんだげと、遺跡はなかったから、例の電重力物質の主原料となる菌類があの辺りで取れたらしいよ」

「えぇ、あれって菌類が原料なの。なんという菌なの」

「それは俺にはわからないよ。まっ、あんまり無駄話もしてらんないな」

「チーフに久しぶりに会えて良かったわ。また帰ってきたら土産話いや、武勇伝を聞かせてね」

「それじゃ」

平原は長谷川がクロだと確信し、残念そう肩を落として診察室を出て行った。


 その後の在日上日本宙軍の三沢基地から報告によると三内丸山遺跡周辺に中国人と思われる外国人が土地を調査したり、不動産を買おうとしている人物がいたとの報告があった。しかし不動産の購入は阻止され、委託を受けて土地調査していた業者は取り調べを受けていた。

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