第3話 侵略の意図
●3.侵略の意図
「全て用事は済んだから明日には地球に戻れるな。無重力にはどうも馴染めないよ。筋トレしなくちゃならないし」
平原はトレーニングバイクから浮き上がっていた。
「今度はあたしの番か、でも明日には終わりというわけね」
長谷川は平原に代わってトレーニングバイクに跨っていた。
無線の着信音が鳴った。平原と長谷川は嫌そうな顔をしていた。
「軌道計算によると、明日、スペースデブリの一群が通過するので、それを片づけて欲しいのだ」
織部は、すっかり地上オぺーレーター的な存在になっていた。
「えぇ、明日ですか」
「文句が出ると思って、超過ボーナスを出す」
織部の口調は上司的にもなっていた。
「わかりました。これが本当に最後ですよ」
「良かった。さすがに君は頼りになる」
織部の声に平原と長谷川はうんざり顔になっていた。
翌日、平原はスペースデブリ用にもなるレーザーシステムを作動させていた。
「ミサイルなんて、しょっちゅう飛んでくるわけないから、スペースデブリが日常作業になるんだろうな」
「でも、これは地上から遠隔操作できるのよね」
「万一ということもなさそうだからな」
「バッテリーの充電状況と自動照準装置の確認だけなんだから、あたしたちはいらないわ」
「よし、たまには手動に切り替えてみるか。ゲーム感覚で撃ち落としたくなったから」
平原は軽い気持ちで言っていたが、長谷川は、一瞬躊躇したが、すぐうなづいていた。
「織部さんの言っていたスペースデブリのお出ましだ」
平原は手動で照準を合わせていた。
「うまくやってよ」
「任せてくれ。6つの塊で、ロックオン、ロックオンで照射!」
平原は発射ボタンを押していた。
「おっと、6コめを撃ち損じた。だけどこの通りだ」
ステーションからレーザーが再度照射され、最後の塊にも命中した。
「どうだ。ちょろいもんだろう」
「チーフ、まだ塊の破片が残っているけど」
「え、当たったのにか、当たりが悪かったか。よし、もう一度」
平原はモニター越しにかなり目前に迫っている破片を見ていた。
ステーションに何か小さなものが激突する音がした。
「チーフ…」
「やっちまったか」
平原が言ったと同時にステーション内に警報が鳴り出した。
『自衛隊船に空気漏れ発生、ドッキングハッチAを閉鎖します』
ステーションのAIが無機質な女性の声で言っていた。
「AI、閉鎖はちょっと待ってくれ、パテで補修する」
『3分以内にしてください』
「わかった」
平原は壁面の手すりをつかんで、ハッチに向かって浮遊して行った。
「空気漏れは直ったの」
「あぁ、直った。警報が止まったろ」
「チーフ、変なことはしないでよ。帰りがまた遅くなるから」
「そうだな。これが穴を開けた塊だよ。衛星か何かの部品だろう」
平原は、黒っぽい部品のようなものを宙に浮かせて、長谷川に見せていた。
「何かしらね。変な形。形が残っているなんてかなり丈夫な素材だわ」
長谷川は、ぐるりと周囲を回って見ていた。
「この下の金属部分は、ソケットなのかな」
「電気でも流してみたら、何も起こらないと思うけど」
「そうだな。えーと電極端子をこうして…」
平原は実験器具の端子を押し当てて見た。
平原の体が少しだけ後ろに動いた。
「ん、気のせいかな」
平原はもう一度端子を押し当てた。すると部品のようなものから力を感じた。
「おい、これ電気を流すと重力を発生させるみたいだ」
「重力、それも電気で」
長谷川は部品を見つめていた。
「行くぞ。見ていろ」
平原は強めに電気を流すと、体がグイッとハッチ方向に浮遊して行った。
「手すりは触ってないのよね。ニュートン以来の大発見じゃないの」
「この部品は、地球に持ち帰って分析しないと。こんな代物、どこの国が作ったんだろう」
スペースデブリの軌道を逆にたどるCG映像を見ていた平原と長谷川。
「これで見ると、とごかの国の人工衛星の部品と言うよりも、いきなり空間から現れた感じたな」
平原は、ぼーっと映像を眺めていた。
「でも、そんなことってあるのかしら」
「平原暫定首相、この映像で見る限り、あの空間に何かあると私は睨んだんだが、」
「織部さん、暫定首相はどうも慣れないので、何か別の呼び方で…」
「わかった。それじゃ平原チーフ、あの空間に行って、何があるのか確かめて欲しいのだ」
「私がですか」
平原はがっかりした顔をしていた。
「新たに宇宙船を打ち上げるにはコストがかかるから、君に頼みたいのだ」
「追加ボーナスよりも地球に帰りたいのですが」
「それはわかるが、平原チーフ、先ほど送信されたその部品のスキャンデータを見ると、地球にない物質なのだ」
「隕石かなにかですか」
「…なんとも言えないが、とにかく君があの空間に行くことで、人類全体が恩恵を被るかもしれない」
「どうしてです」
「それは電重力物質だから、まぁ発見者名前を冠してヒラハラナイトとでも言うか」
「確かに重力は感じました」
「しかし、今の所たまたま手にしただけで、自発的に発見したとは言えない。発見者として確定できないが」
「発見者ですか」
「発見者には莫大な報奨金が支払われるかもしれない。だから君に行って欲しい」
「わかりました。あの空間まで行って確認すれば良いのですね」
「ありがとう。頼みましたよ」
織部はニコやかな顔をして通信をオフにしていた。
平原は自衛隊船を切り離して、電重力物質の出現空間に向かった。長谷川は上日本国ステーションで待機することになった。
操縦装置は、タカギ製薬の宇宙船と似たもので、ほとんどが自動化されていた。平原は何も空間に向かっているモニター画面を眺めていた。
「上日本国ステーション、まもなく所定空間に到着だけど、何も見えないな」
平原は無線をオンにした。
「軌道計算が間違っていたのかもね」
「簡単に言ってくれるな。間違いのために、ここまで来たってわけか」
「そういうこともあるわよ」
「お、空間から出てくるものと、入っていくものがある。穴が…開いているようだな」
「チーフ、空間に穴が開いているの」
「このまま進んでみる。あぁ」
「チーフ、どうしたの」
長谷川が呼びかけても空電音しかしなくなった。
平原は宇宙船の丸窓に顔をつけて、周りを見ていた。その空間は直径100メートル程の穴の辺りが歪んで見えていた。平原は自衛隊船をゆっくりと慎重に前進させていた。
その穴とこちら側の宇宙空間との境界面はどこにあるか目視できなかった。自衛隊船はいつの間にか何の衝撃もなく、すんなりと歪んた穴の中に入って行った。
「あぁ、入ってしまったのか。こちら、自衛隊船、上日本国ステーション応答願います」
平原が周波数帯を変えても空電音しかしなかった。
「中はこんな風になっていたのか」
平原は緑色がかった穴の中の空間を船外カメラを回して確認していた。前方方向には大きな黒っぽい塊があった。
自衛隊船はしばらく進むと、黒っぽい塊が三角形のマークが記された客船のような長細い朽ちた宇宙船だとわかった。
平原は自衛隊船を操縦して、宇宙船に接近し全体像をスキャンした。
その宇宙船は四角い箱を16個重ねたような形をして、何かを発射させる管が何本も並んでいた。スキャンによると長さは12キロメートル、幅は2キロメートル、厚みは1キロ程度の船であった。しかし所々朽ち果て、爆発跡のようなものも何ヶ所もあった。
「こいつの部品が、飛んで来たんのか」
平原は一人つぶやいてから、探査ドローンを放ち、内部を探らせた。
ドローンは、煌々と照明を点灯させて通路のような所をどんどん進み、突き当たると縦穴のようなものに入っていく。宇宙船内には明らかに上下の区別があり、天井、床面に分かれていた。
しばらく進むとかなり広い部屋に行きあたった。椅子のようなものが12席並んでいた。薄いフィルムのようなものがテーブルに貼りつけてあった。平原はドローンを操作して、何が書いてあるのか、カメラをズームアップさせた。そこには地球の地図があり、モヘンジョダロ遺跡付近と三内丸山遺跡付近に三角の印が付いていた。この三角の印は、この船に記されたものと同じものであった。占領攻撃ポイントのようにも見えた。このフィルムの近くに太陽系の模式図があり、それにも三角形の印が点線で記されていた。文字らしきものが並び、最後に6本指の手が地球をつかんでいる絵が描かれていた。
「え、マジ。エイリアンの侵略寸前だったのかぁ」
平原は思わず口に出してしまった。
平原は壊れたエイリアンの宇宙船を後にして、空間に開いた穴を辿って、太陽系の宇宙空間に戻った。穴から出ると一目散に上日本国ステーションに戻った。
「平原チーフ、ドローンの映像をAIなどで分析した結果、9500年前に爆発した船の残骸とわかった。それにあの船はある種の軍艦で、穴の中の空間は宇宙航行のトラベルチューブ、もしくはハイウェイのようなものらしい」
モニター越しの織部は興奮冷めやらぬ表情であった。
「軍艦ということは…」
平原は言葉を濁していた。
「地球侵略の意図はあったと見るべきでしょう」
織部が続けた。
「諦めたのでしょうか」
「諦めたかどうかはわからないが、あの穴が開いている限り、また来てもおかしくはないと私は見ます」
「凄い科学技術を持っているエイリアンが来るとしたら、米中だの日本だので、争っている場合ではない気がしますが」
「そうとも言えるが、9500年経っても一度も地球侵略などなかったから、慌てる必要はなさそうだ。それよりも今は地球で日本が国家として生き残れるかが重要な気がする」
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