第2話 変身! 伝説の戦士エナリア!
「は?」
一瞬。固まった。世界が停まった。
ポポディの言う通りにブレスレットを付けて叫んだのだが。いきなり身体が光って全裸になったのだ。咲枝はすぐに状況を把握できなかった。意味が分からないからだ。
幸い、この場にはドラキュラ男とポポディ、そして被害に遭い倒れた人々しか居らず、一般市民の目には彼女の裸体は触れられなかったが。
「……は?」
「構えるディ!」
「!」
ポポディがさらに叫ぶ。反射的に、咲枝は半身になって構えた。すると、バシン! バシン! と叩き付ける音がして、咲枝から放たれていた光が消える。
「……は?」
咲枝は。もう既に全裸ではなく。
『アニメコスプレのような魔法少女っぽいふりふりの衣裳を身に纏っていた』。
「………………あ?」
咲枝は未だ、状況が掴めていない。自らの格好を確かめながら、口を半開きにしている。
「なん……や、これ。……は? コス……プレ? え、ダサない?」
「貴様その格好! まさかウインディアに伝わる伝説の戦士、『エナリア』か!?」
「……は?」
それを見たドラキュラ男は、驚愕して距離を取った。明らかに警戒している。
「戦うディ! サキエ!」
「いやもう
飛び跳ねるポポディを蔑ろにしつつ、咲枝はドラキュラ男に向かって構える。
「……なんか
「ふん! 変身したてのエナリアなど、恐るるに足らん! 我が『エナジー』の糧にしてやる!」
ドラキュラ男がマントを翻して、突っ込んでくる。物凄いスピードだ。人間の動体視力では追えないかもしれない。
「ほっ」
「!」
だが。今の咲枝には見えていた。すれ違い様に、左手でマントの襟首――右手で男の左腕を掴まえた。
「なっ! 離――!」
「よいしょぉおおっ!!」
勢いのままに左足を振り上げて、男の左足を後ろから刈り取る。そのまま右手を引き、左手で掴んだ胸ぐらを地面に叩き付ける――
――【
「がはぁっ!!」
勢いよく、後頭部を地面に叩き付けられたドラキュラ男は、断末魔を上げて気絶し、びくんと身体を震わせた。
そのまま、動かなくなった。
♡
「ふぅっ! 鈍っとる
咲枝は額の汗を拭いながら、ドラキュラ男を見下ろす。動く気配は無い。完全勝利。
「サキエっ!」
「お。ポポ。説明せいこれ。なんやねんこれ」
そこへ、ポポディが飛んでくる。同時に、サイレンの音がした。警察と救急車がやってくるのだ。
「サキエ! 凄いディ! 怪人を『エナジー武器』無しで倒したディ! あの技はなんディ?」
「いやそんな喜びの舞とか
ポポディが喜びにうち震えながら飛び跳ねていると、やがて警察が入ってくる。
「あいつらはなんディ?」
「知らんけど、警察とか自衛隊とか
「この国の軍ディ?」
「まあそんなとこや」
話していると、刑事のひとりが彼女達に近付いてきた。
「君は、どうしてそんな格好でこんなところに居るんだ。ここで何があった」
「!」
コートを着た男性の刑事。フリフリ衣裳の咲枝を見てドン引きしている。だが咲枝は彼を見て、どくんと心臓を跳ねさせた。
「(なんやむっちゃイケメンやん!)」
咲枝は面食いだった。
「あっ。そうやポポ! このダサい服なんやねん! あとアタシの飛び散ったスーツ弁償せえよ!」
「な、何を言ってるディ!? こんなに格好良い衣裳は他に無いディ!」
「アホ! こんなん
と。そこで、咲枝の『戦意』が失われる。
「あ……」
それまで溢れるように感じていた力が抜けていく感覚。咲枝の身体は淡く光り、そして。
「………………は?」
ボロボロと衣裳が崩れて。塵のように消えて。
また全裸になったのだ。
♡
「………………」
日が暮れて、夜の8時過ぎ。咲枝とポポディは警察署に居た。
咲枝は取調室に通され、そこであの刑事を待っていた。かれこれ、もう1時間ほど。会社は定時を過ぎているが、連絡して外回りのまま帰宅することにした。この辺りは営業職の利点でもある。
「……あかん……死ぬ。死にたい。裸見られた。あんな、公衆の面前で。思いっきり。イケメンに。……もうお嫁に行かれへん」
「サキエ、しっかりするディ」
「……もうほっといて……。アタシはもう終わりや。ワイセツ物陳列罪で逮捕や。前科一犯。会社もクビ。人生終わりや。あんなダサいコスプレで。……悪い奴倒したのに」
パイプ椅子にしがみつくように座りながら、うわ言のように呟いている。間違いなくドン引きされた。咲枝は失意のドン底だった。因みに服は署の婦警から、白いラインの入った紺色の、市販のジャージを借りている。
「……すまない。待たせてしまった。こちらも情報の共有が多くてな」
「!」
やがて、刑事がやってくる。テーブルを挟んで向かい側に座った。咲枝も姿勢を正して座り直す。
「俺は
「はいっ。春風咲枝言います。よろしくお願いします!」
咲枝はぴしりとして頭を下げた。頬は紅潮している。
「春風さん。早速だが……それは何だ?」
「えっ」
空石は、市民に危害を加えたマントの男のことも聞きたかったが、まず始めにそれが気になった。宙に浮かぶ、ぬいぐるみが。
「それとはなんディ! おいらはポポディ! ウインディアの正式な使者ディ!」
「……だそうです」
ポポディは胸を張って自己紹介した。だが空石は、疑問符を浮かべて首を傾げた。
「……? すまないが、何を言っているか分からない。日本語どころか、英語でもないな」
「えっ。あれ、ポポ
「だから言ったディ。サキエが聞き取れるのは『エナジー』の適性があったからディ。普通の人間には無理ディ」
「エナジーてなんやねん」
「ちょっ。ちょっと待ってくれ。君は話せるんだな」
「そうみたいです」
謎のぬいぐるみと会話する23歳女性。それを真剣に観察する刑事。客観的に見るとシュールである。
「なら、通訳を頼めるか」
「はーい。さあ話してみいポポ。一切合切、洗いざらい。全部や」
「やっと説明できるディ……」
ポポディはふわふわと飛んで、テーブルの上に着地した。
♡
「おいら達の住んでた国、『ウインディア』が侵略者に奪われたディ。奴らはウインディアを拠点に、この人間界をも支配しようとしてるディ。だからおいらは、王様の命を受けてこの世界に来て、奴らと戦える戦士『エナリア』に変身できる人間を探す旅に出たんディ」
「ほう」
「伝説の戦士とされているのは、昔からおいら達は人間と手を組んできたからディ。衣裳が人間用なのもその為ディ。昔は、怪人じゃなくて妖怪とかいう名前で呼ばれてたディ」
「へえ」
「そこで、サキエに会ったんディ。『エナリア』に変身できるのは『エナジー』に適性がある人間だけで、『エナジー』は奴らに効く武器にもなるディ。それに、おいら達『エナジーアニマル』とも意思の疎通ができるディ」
「ふむ」
「サキエに渡したブレスレットには、おいら達の『エナジー』が詰まってるディ。それを使って、サキエは『エナリア』に変身するディ」
「はあ」
「ブレスレットは国宝ディ。とても貴重で大事なものディ。変身後の格好良い服はウインディアの由緒ある戦闘服で、使う『エナジー』の分、使用者が強力になるディ。だからサキエは、あの怪人をぶん投げることができ、さらに一撃で倒せたんディ」
「おう」
「倒した奴らから『エナジー』を吸収し、『エナリア』は強くなるディ。もっともっと『エナジー』を吸収して、いずれウインディアに行くディ。そして、侵略者の親玉を倒して、ウインディアを救って欲しいんディ」
「ほーう」
「……取り敢えず、こっちの事情は以上ディ。サキエにはどうか協力して欲しいディ。『エナジー』適性のある人間は珍しく、今のところサキエだけディ。放っておいたら人間の世界も支配されるんディ」
「ふむふむ」
ポポディの説明が終わる。空石はポポディの言葉が分からない為、咲枝を見る。
「なんと言っているんだ?」
「…………えーと」
咲枝は。
「…………」
腕を組んで数秒の後に。こう言った。
「……すまんポポ、
「ちゃんと聞くディ!!」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
次回予告!
〈咲枝〉:よろしゅう! 春風咲枝や!
なんやねんエナリアて! イタリア料理
〈ポポディ〉:これから一緒に頑張るディ! サキエ!
〈咲枝〉:アホか! まだやる言うてへんやろ! ていうか『服弾け飛ぶ』て! ふざけとんのかボケ! 誰がやるかそんなモン!
〈ポポディ〉:いやそれ、この作品の根本……。
〈ふたり〉:次回!
『美少女エナジー戦士エナリア!』
第3話『変身! 咲枝の決意!』
〈咲枝〉:え、
〈ポポディ〉:……頑張るディ。
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