第3話 変身! 咲枝の決意!
「ちょっとサキエ~! 待つディ!」
「なんやねんな。アタシ明日も早いねん」
なんとかポポディの説明を空石に伝えた、帰り道。最寄り駅まで空石に送ってもらった咲枝は、すたすたと自宅のアパートへ向かっていた。
「どうして協力してくれないディ!? 人間界の危機なんディ!」
ポポディは咲枝の周囲をぐるぐる回るように飛ぶ。引き留めたいのだ。だが咲枝は構わず進む。
「あんな。アタシは小学生とか、中学生
「人間の生活については詳しくないディ。そんなこと言わずに~」
「無理やって。なんやねんていうか。変身する度に服弾け飛ぶとか、お金どんだけあっても足りひんやんか。アタシのあのスーツどないすんねん
「後半は全く分からないディ。サキエには手伝って欲しいディ」
「空石さんも言うてたやろ? 『俺は反対だ。そもそも春風さんは一般人だ。戦闘なんかさせられない』て。イケメンに言われたら無理やわ」
「頼むディ~」
「
なんだかんだと言い合いをしながら、アパートへ辿り着く。
「なんやねん。家まで付いてきてからに。泊まるとこ無いんか」
「……無いディ。使者は毎回、『エナリア』の家に居候させてもらうんディ。おいらは『エナリア』がガス欠になった時に『エナジー』を補給する役目もあるディから」
「…………」
しょぼんと頭を垂れるポポディ。咲枝はそれを見て。
「
「! やったー! ありがとうサキエ! 明日から頑張ろうディ!」
「いやエナリアはやらへんよ? 知っとるか? アタシ23やねんで? 会社員やで? 変身ヒロインとか無理に決まってるやろそもそもが。誰に需要あんねん」
なんだかんだ言いながら、ポポディを部屋に入れた。
♡
咲枝は、親の反対を押し切って身ひとつで関西から東京までやってきた。それからすぐに就職し、今日まで忙しない日々を送っている。彼女の住むワンルームには殆ど物は無く、最低限の質素な家具と家電、後は趣味の温浴施設系雑誌が整頓されずに床に散らばっている程度だった。
『……昨日夕方頃、皇居で起きた事件について。警察の発表によりますと……』
翌朝。朝食(食パンとバター、牛乳)を摂りながらテレビを点けると、昨日のことをやっていた。
「やっぱニュースなるか。アタシやドラキュラ男のことはやってへんな。まあそらそうやわな」
「今日は朝からパトロールディ?」
「んな訳あるかい。平日や。今月は契約まだ取れてへんねんぞ。仕事や仕事。付いて来たらアカンで?」
「でも、おいらが居ないとブレスレット使えないディ」
「使わんで
「……そんな上手く行くディかねぇ……」
「日本の技術舐めたらアカンて。ほな、もう行くからな。腹減ったら適当に冷蔵庫漁り。何食う生き物か知らんけど。そない知能あったら大丈夫やろ」
「…………いってらっしゃいディ。おいらも他の適合者を探しに街へ出掛けるディ」
♡
「また考えておきますね」
「はーい。よろしくお願いします~」
そして、午後。
営業先から、咲枝が出てきた。にこにことしながら、14階建てのビルの敷地を出る。
「何が『考えておきます』や。そう言う場合はほぼ100でアカンねん。嘘付きみたいなモンやで
出た瞬間、そんな言葉が出た。今月はもうノルマ未達成がほぼ確定した。咲枝はやさぐれている。
「……この仕事向いてへんのかなあ。いやでも、3年は辞めへん方が
愚痴愚痴言いながら歩く。今日の外回りはもう終わってしまった。
「営業所帰ってもオバハン達にグチグチ言われるだけやしなあ。なんやねんあのオバハン。アタシが美人やからって嫉妬しおって。結婚しとるだけあんたらの方が勝ち組やんけ。こちとら中学以来彼氏も
特に目的地もなく、ふらふらと歩く。その度にポニーテールが揺れる。
「……空石さん、一応言うて連絡先教えてくれはったなあ。イケメンやったなあ」
スマホを見る。空石の番号がある。
「まあ、今
溜め息をひとつ。この23歳会社員は疲れていた。
「春風さん?」
「!」
不意に呼ばれて顔を上げると、そこには空石が居た。
「わわっ。空石さん!?」
「どうしてこんなところに……って、仕事中か」
「こっちの台詞ですやんっ」
動揺を隠せない咲枝。わたわたと手が遊んでしまう。
「俺はパトロールだよ。23区は今日から、拳銃を持った私服警官が大勢配置されてる。重要参考人の話によると、『怪人』はまだ現れるらしいからな」
「そうなんや……」
「そうだ春風さん。君と話がしたいという人が居るんだ」
「へ?」
空石はコートの内ポケットからメモを取り出して咲枝に渡した。
「住所?」
「昨日の君の戦いの目撃者だよ。どうしてもお礼を言いたいらしい」
「!」
スマホでささっと書いてある住所を調べると、病院が出てきた。
「被害者……?」
「そうだ。君のことは秘密にするように言ってある。もし時間ができたら、行ってあげてくれ」
「分かりました」
♡
空石と別れ、病院へ向かう。どうせ今日はもう仕事は無い。
「…………目撃者? え、見られてたん?」
向かいながら。咲枝は考える。昨日、あの戦いを見られていたということは。
「あれ、アタシのハダカも見られてん
気付く。そして急に恥ずかしくなる。
「どんな顔して
だが、空石の手前、足は止められない。ええいままよとばかりに、病院へ入った。
♡
「本当に。ありがとうございました……!」
「……!」
ドラキュラ男に怪我を負わされた人は、8人だった。どれも、そこまで重傷では無かったらしい。ドラキュラ男に殺すつもりは無かったのかもしれない。
「いや。……アタシは……」
「ありがとうございました……っ!」
相手は中年女性だった。何度も何度も、手を握られて感謝された。咲枝は少し、居心地が悪くなる。
「(アタシが、知らんかったとは言えあのドラキュラに皇居案内したんや。やのに……。こんな、感謝されることやないのに)」
だが言えない。この被害女性の目の前で、そんなことは。
「………………」
他にも、被害者が居た。皆、重傷ではないにせよそれぞれ包帯やギプスなどをしており、咲枝の心を締め付けた。
♡
「……アタシ……」
帰り道。もう日は暮れかけていた。ぽつぽつと歩く。
「……どうあれ、
今のところサキエだけディ。
ポポディの言葉が、脳裏に過った。
「…………あいつ、腹空かせてへんやろか。ていうか何食うねん
その時。
「きゃ――――っ!」
「!」
悲鳴が聴こえた。
「離れてください! 落ち着いて! 誘導に従って避難してください!」
「ああああああっ!」
ぽつんと、立ち止まった。周りの声が、音が聴こえなくなった。
逃げ惑う人々。必死に対応する私服警官達。そこには空石の姿も見える。
向かう先に、怪人が居るのだろう。
「おい君! 早く避難を!」
「…………」
私服警官のひとりが、咲枝に声を掛ける。
「……避難」
「そうだ! テロだよ! 早く!」
避難すべき。それはそうなのだろう。だが。
「うおおっ! こいつ、銃が効かないぞ!」
「なんだと!?」
そんな声が遠くから聴こえた。
「(あ……。銃効かへんねや……)」
咲枝は。
「…………っ!」
歯を食い縛って、怪人の方へ走り出した。
「おい君! 待ちなさ……足速いな!」
♡
「ポポぉっ!!」
叫ぶ。走りながら。
「おう! 待ってたディ。怪人の所に居れば、サキエは来るって!」
「
赤いブレスレットが光る。これはエナジーアニマルの『エナジー』を人間へ分け与える道具なのだ。ポポディが居なければ、咲枝は変身できない。
「ウインディア・レボリューションっ!!」
躊躇い無く、叫んだ。そして。
「やっぱりか! 最っ悪やああああ!!」
まず最初にスーツが弾け飛んだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
次回予告!
〈ポポディ〉:サキエ! やっぱり来てくれたんディね!
〈咲枝〉:非常事態やったら選択の余地ないやろが! またスーツお釈迦やんけボケェ! 最悪やあ……っ!
〈ポポディ〉:そんなサキエが好きディよ。
〈咲枝〉:黙っとれぬいぐるみボケェ。
〈ふたり〉:次回!
『美少女エナジー戦士エナリア!』
第4話『変身! 咲枝、転職!?』
〈咲枝〉:ていうか『美少女エナジー戦士』てなんやねん。アタシ少女
〈ポポディ〉:『美』は否定しないんディね……。
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