第52話 全てを奪って
ウルとの契約終了まで残り三日。
モナは自分の部屋に引き篭もり、昨日からずっと悩み続けていた。
「レオ……」
幼い頃から想い続けていた彼は、女神が作った人形だった。力を蓄えた勇者に魔王を討伐させ、聖女と子を成し、新たな魔王を産ませる。
信仰と力を集めるために、自分たちは女神に利用されているだけだった。
「はぁ……とんだ茶番ね」
すべて無駄な努力だった。
聖女として修業を積み、魔王を打ち破るために文字通り身を削るような毎日。
思えば前世のように、仲の良い友人とオママゴトで遊ぶといったこともなかった。我慢して、耐えて、涙を堪えて、歯を食いしばってここまでやってきたのに。
やっと、やっと愛する人との幸せな生活がやって来ると、そう信じていたのに。
それが全部、ぜんぶ無駄だった。
沸き起こるのはもう、虚無感ばかりで涙も出てこない。
「私を笑いに来たの……?」
ノックも無しに扉がギィ、と開く。
カーテンも閉めて真っ暗になっている部屋に、細い光と影が同時にやってきた。
「モナ……」
「なによ!! どうせ私は
いつもの不敵でどんなことにも余裕のある魔王の表情ではない。
かといって、勇者レオの愛嬌のある笑顔の面影もない。
あるのは、大事な女を思いやる、ただ一人の悲痛そうな男の顔だった。
「俺はそんなつもりは……」
「じゃあなんなのよ!! ……どうせ私は利用されて捨てられる運命なのよ!!」
ウルはベッドの上で蹲ってすすり泣くモナを、そっと抱きしめる。
モナも嫌がるそぶりもなく、ただ
「貴方は魔王なんでしょう!? この世界で一番の悪者なら! 私を!! 犯してでも夢中にさせてよ!! こんな気持ちにさせておいて!! レオのこと、本気で愛していたのに……責任、取りなさいよ……私の全部、奪ってよ!! この、馬鹿魔王……!」
ポロポロと涙を流しながら、ウルの肩を叩く。
彼は抵抗もせず、されるがまま。
いつものふんわりとした笑顔で、子どもをあやすように優しくモナの頭を撫でながら口を開いた。
「……分かった。でもモナの心までは奪ったりはしない。飽くまでも、身体だけを堕とす。今はそれでいいね?」
グズグズに濡れた瞳でじっ、とウルの顔を覘いた後……モナはコクンと頷いた。
――もう彼女は忘れたがっている。
レオの事も、聖女の役目も、これからの希望も。
――なら、堕ちて、すべてを委ねてしまえばいい。
魔王が、涙も、苦痛も、憎しみさえも。
全部の悲しみを奪ってくれる、その日まで。
ウルはモナを強引にベッドに押し倒す。
そしてそのまま、彼女を強く抱きしめた。
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