第48話 辿り着いた真実
契約が終わるまで、残り四日となった。
母は相変わらず帰って来ず、妹リザもケンカしたあの日から一度も帰って来ない。
リザは無事だったものの、あの置き手紙の一件から母の手掛かりはひとつもない。
いくら探せど、手掛かりひとつない現状にモナは教会で母の無事を祈るしかなかった。
「はぁ……お母さん、何処に行っちゃったの。あんな置き手紙をするぐらいならひと言ぐらい私たちに会って行ってくれたっていいのに」
手紙には心配するな、と書いてあっただけで、どこで何をしているかといった詳しい情報は無かった。
せめていつまでに帰って来るかぐらい書いておいて欲しかったと心配性のモナは嘆息するばかりである。
「……そういえばあの手紙。お母さんはどうやってこの教会に置いていったの? 戸締りは私がしていたし、日中の参拝時間は他の誰かが居るはずなのに……」
この国一番の大きさを誇るルネイサス教会は日ごろから多くの参拝客がやってくる。
その誰もが母を見ていないというのもおかしな話なのである。
「……もしかして」
モナの脳裏をよぎったのは前世で観た映画だ。
この教会のような古い建物に隠し階段があったり、古代の秘宝が隠されていたりとするアドベンチャー系のシーンを思い出したのだ。
人知れずこの教会の礼拝堂に入るには、どこかに誰も知らない通路があるのかもしれない。
そう思い立ったモナは教会の怪しい所を手当たり次第にペタペタと探し始めた。
すると壁際の祭壇に、何かを動かしたような引き摺った後がある。
「やっぱり……この下に何かが隠されているのね」
だがとてもじゃないが女性であるモナが動かせるほど軽くはない。
ましてや母レジーナが一人で移動できるとも思えない。
「あった。やっぱりこういうのも異世界共通なのね」
祭壇の左右に置かれていた騎士の石像。
彼らが持っていた剣と盾を持ち変えさせるとガコン、という音と共に祭壇が動いた。
「お母さんはこの先に? いったい何があるのかしら」
教会に似つかわしくない不気味なほどぽっかりと穴の開いた暗がりを見つめ、そう呟いた。
何が待ち受けているか分からないが、行かない訳にもいかないだろう。
一度家に戻り持ってきたランタンに火を点けると、トントントンと石造りの階段を降りていく。
「これは……」
途中までは人ひとりしか歩けないような細い通路だったが、途中で部屋の様な空間に出た。
そこには簡易のベッドや机に椅子、そして本棚があった。
どれも古い造りだが、まだ使えそうだ。
「どうやら最近まで使われていたようね」
机の上を指でなぞってみるがホコリが少ない。
やはり母がここに居たようだ。
「伝記……いえ、これは歴代の聖女の日記……?」
それは過去の聖女たちがここで過ごした時の備忘録や生活の愚痴、そして……
「王族との逢瀬……聖女の役目ですって!?」
ペラペラとめくってみると、どの代においても当時の王族の誰かと子を為す行為をしているとの記録があった。
そして勇者を夫とし、生まれた女子は聖女に、男子は女神に捧げる、と書いてある。
「なんてこと……それじゃあ聖女は最初っから国の為の歯車だってこと!?」
中には想い人から引き離され、男を秘密裏に殺されていた聖女も居た。
そして従わなければ無理矢理犯され、子を産むまでここに監禁されていた、と。
「ひどい……私たちをなんだと思っているの」
命懸けで魔王と戦った挙句、女神の化身や民の母と慕われていた聖女の本当の姿がこれだ。
涙のようなもので滲んだページや、血で黒ずんだ箇所もあった。それだけこの日記には今までの聖女たちの悔しさや恨みが込められているのだろう。
いったい、誰がこんな酷いことをさせたのか。
それは一目瞭然。
王族であり、この国そのものである。
モナは涙を流しながら、彼女らの悲しみに心から同情していた。
そして、これらが己の身にも降りかかるという恐怖に心が凍り付きそうだった。
「あの時、お母さんは『私に任せて』って言ってた。――まさか、王様に!?」
このしきたりを終わらせられるのは、この国のトップであるフレイ=ルネイサス王しかいない。
自身を護る為に、嘆願に行っていたとしたら。
「この先にあるのは、王城……そういうことなのね」
ここまでくればモナもだいたい察しがついていた。
では母は誰と結ばれ、モナたち姉妹を生んだのか。
この隠し通路を通り、誰と逢瀬を重ねていたのかを。
「一度戻りましょう。これは私ひとりじゃどうにもならないわ」
王に母を返してもらうにしろ、一人で乗り込んでも門前払いされるだろう。
こんな時に頼れるのは彼らしかいない。
本当ならミケにも頼りたいのだが……。
「まさかミケが本当に私たちの弟だったとはね。この事実を知ったら彼は……とてもじゃないけど言えないわ」
まずはリザとウルに相談しよう。
モナは再び来た隠し通路を通り、地上へと戻るのであった。
一方その頃。
モナよりも一歩早くその事実に気付いてしまったミケ。
先に動き出していた彼は、手紙をここへ置きに来たレジーナを誘拐し、スラム街の騎士団詰め所に監禁していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます