第47話 交わる二人

「はぁ……分かった。なら余も覚悟を決めよう」

「では……!!」


「あぁ。だがどうする。女神は許したとしても、後の子らが困るようでは本末転倒であるぞ」


 元々は不要な争い事を防ぐために子を為していたのだ。

 勇者も、聖女も、王族もすべては家族である、という絆をって。



「……えぇ。ですから私ももう少し身体を張ろうかと思いまして」

「おい、まさか」


「陛下……今の私ではご不満でしょうか。こんな年増では……」

「そんなことはない。そんなことはないが……」



 椅子に座ったままの王の背後に近寄ると、その白くたおやかな手で彼の首元を撫でまわす。

 もしもモナが見たら卒倒するような光景だ。

 しかし、彼女もれっきとしたオンナなのである。


「もし……また子を頂けるのでしたら、その子を陛下に……」

「はぁ、そういうことか。……分かった。聖女である其方に、これ以上恥をかかせる訳にもいかぬだろうな」

「陛下……」


 甘ったるい香りがレジーナから漂う。

 フレイ王もすっかりその気になったのか、レジーナの顎を片手で摘まむと、彼女の挑発に乗り始めた。


「――だが、覚悟しろよ。気をやってしまっても看病はせぬ」

「ふふふ、お手柔らかにお願いいたしますわ」




 ――重ね合う二人を、小さなのぞき穴からコッソリと覗いている者たちがいた。


「そんな……まさか父上が……モナの……」

「そうだ。これがこの英雄たちが行ってきたことの真実だ」

「くそっ、このままじゃ僕はモナを手に入れられないじゃないか」


 おそらく王とレジーナさえも知らない、隠し部屋の更に裏側。

 そこに居たのは王子ミケと、仮面の人物だった。


 実の父がモナと血縁で繋がっていたこと、そしてしきたりを廃止しようとしていることを知り、ミケは憤怒に震えていた。

 この世界では姉弟同士の婚姻は禁止されてはいないが、重婚は許されていない。

 つまり、しきたりが当代で消失すれば、ミケがモナと結ばれることは出来ないということだ。


「いや、王子。勇者と聖女を仲違いさせればいいのだ。そして王子が聖女を助け、心の支えとなれば正式に妻となるだろう」

「そ、それは本当ですか!?」

「あぁ。そなたにも、真なる女神の祝福を与えよう……」


 そういって仮面の人物は懐から何かを取り出し、ミケに手渡す。


「こ、これは……もしかして!」


 怪しげな小瓶を受け取ったミケはそれが何か分かると、ニヤりと昏い笑みを浮かべるのであった。




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